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ねえ、ボクのお嫁さんになってよ

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 壁にくっついたオジニイサンはボクを睨んでいるけれど、その姿はとっても可愛い。

 震える後脚が閉じられていない。
 ぴんと起き上がった相棒が、中身を出したいと張り詰めた玉がぷるぷる震えている。
 なにも入っていないのに緩んでいる窄みから、とろとろと垂れる子種の筋が床を彩る。
 ボクがつまんで揉んでこねこねして、ぽっちりと先端が膨らんだ胸元から、子種まみれの股間まで全部が丸見え。

 赤くふっくらと腫れた窄みからボクの子種を垂らす姿に、胸と相棒がときめいてしまって、もう一回の気分だ。

 魔力ちょうだい、と甘えてきたのはそっちなんだから。
 もう一回とは言わず、お腹いっぱいになるまで。
 良いよね?

「く、くっ」

 また、排泄物と言おうとしたみたいだ。

 オジニイサンは愚かだけど馬鹿ではない。
 「排泄物」と口にすることをボクが嫌がっているから、苦痛を味わうと理解している。

 どうして苦痛を味わうのか、理解してないから魔力を動かそうとするのだけど、汚い言葉に関しては言いかけて口籠るようになった。

 体の中の魔力が意思に反発して暴れることが嫌なのか、怖いのか、痛いのか。
 経験がないボクでも、気持ち悪そうだな、くらいは思う。
 きっと、汚い水でお腹が痛くなるのと同じだろう。

 本当に頑固。
 そして、可愛い。
 自分を曲げない人って、すごく良いよね。
 ずっきゅん、するなあ。
 ボクは大人になったばかりで主義主張なんてないから、憧れちゃう。

 でもたった一つだけ、ボクらが共通で持ってる主義主張はある。
 ……ん?、あれー、まずいかも。

「残念、時間切れだぁ」
「ああ゛?」

 小屋の周囲に集まってくる大勢の足音が聞こえる。
 ついに見つかってしまった。
 むしろ見つけられないようにしていたから、ここしか残ってないことが分かったんだろう。

 オジニイサンをゆっくり休ませてあげたかったとはいえ、ちょっと完璧に隠しすぎたかな、と途中で気がついたんだよね。

「ねえ、ボクのお嫁さんになって、一緒に楽しく愉快に幸せに暮らそうよ」

 周囲に人がどれだけいても、抜け出せる自信がある。

 本当に危険な時は、本性の姿に戻る必要があるけれど。
 お嫁さんになってくれるなら、連れだしてあげる。
 ボクらが住む場所はとても遠いから、侵攻される可能性も低い。

 言葉にしなくても、伝えたいことをきちんと理解してくれたらしい。
 全裸に外套一枚、ふさがりかけの傷だらけのオジニイサンは、目をぐっと強く閉じて、そして開いた。

「できぬ」

 つっかけるだけのクツもどきを、蹄のない後脚先に引っ掛けて、オジニイサンは立ち上がった。

 勢いよく立ち上がったことでふらついて、今にも崩れ落ちそうな壁に前脚をついて、なんとか踏みとどまる。
 窄みから垂れたボクの子種が後脚を伝っていく。

「我は嫁になどならぬっ」

 うまくキめられなかったのが恥ずかしいのか、少し声が震えている。
 オジニイサンはちょっと格好つけだよね。
 格好つけようとして失敗して悶々とする姿も可愛いから、ボクは大満足だよ。

 オジニイサンの自尊心の高さは知っているから、失敗をからかったりはしないよ。
 ボクはオジニイサンを拾ったことで、ご近所さんが言っていた「ダメオトコかわいい」が理解できるようになった。

 ダメオトコって、なんだかすごく可愛いよね。
 でも、自分の立場を勘違いさせたらいけないことも教わった。
 ダメオトコは甘やかしたらいけないんだ。
 可愛いからとなんでも許してしまうと、本当にダメになってしまうから。


 尻刺し棒を倒して立て付けの悪い引き戸を開いて、オジニイサンは外へと踏み出す。
 外套の前が開かないように、慎重に。

 オジニイサンが背を伸ばして立ち上がった姿は、思っていた以上に美しかった。
 肩幅が広いのは、鍛えていたからだろう。

 胸を張ろうとしたオジニイサンの腰が不自然に揺れて、どろっとあふれた子種が垂れていく。

 きっと今、しまった、と思ってるんだろうな。

 いっぱい愛してあげたから、お尻の窄みがゆるんでしまったのかな。
 それでも良いよ、ボクは淫乱なお嫁さんこそ大歓迎さ。

 腰を振りすぎてふにゃふにゃになってるのか、足取りがよろよろだ。
 後ろから見ると、後脚を動かすたびに垂れ落ちるボクの子種が、淫らで素敵だ。
 たくさん注いであげたもんね。

 運が悪いのか巡り合わせなのか、オジニイサンは格好つけたくても失敗してしまう人なのかな。
 ご近所さんにもいるよ。

 さっきも思ったけど、キめられないところが良い。
 やっぱり今すぐもう一度、ううん、もう三度は注いであげたい。

 ゆるんでたるんでいたお腹は、ボクが魔力を動かし続けた結果、すっきりとしてきた。
 脂肪の下の薄い筋肉が筋になって見えてきている。
 やっぱりもともとは鍛えていたんだな、と見てわかるくらいだ。

 ここに連れ込んでからはボクの魔力で生命維持をしていたから、酒と魔薬は体から抜けたはず。
 ボクが魔力を過剰に注ぎ込んでいるから、魔力生合成は再開されてない。

 生合成機能の回復を確認するには、ボクが魔力を注ぐのをやめるしかない。
 絶対にいやだ。


「『モトキュウテイオウサツキュウマジュツシバオリィ、シンミョウニシロ!』」


 どうやってまるめこんで愛を囁こうかな、と考えているボクの耳に不愉快な音が届いた。
 ぐわりぐわりと空気と地面を揺らして、周囲に響き渡る轟音。

 これが人のマジュツ?
 音程の調整くらいすれば良いのに。
 下品な音だなぁ。

 貧民窟の住人は姿を隠して、それでもなにかを得る機会を失わないように、視線だけはこちらへと突き刺すように向けてきている。
 壁越しで視線を感じ取れるなんて、どれだけあさましいんだろう。
 まるで死骸にたかる隙を伺う腐肉喰らいだ。

「もときゅうていおうさつきゅうまじゅつしばおりぃ?」
「ふん」

 それがオジニイサンの名前なのかな、と思ったけれど、反応が芳しくない。
 名前ではなくて俗称とか通称かな。

 例えるなら、ボクがご近所さんに「おちびちゃん」と愛情込みで呼ばれてもあんまり嬉しくない、のと似てるかも?

 オジニイサンはもうボクのモノだ。
 了承を得られてないから、まだお嫁さんではないけれど。

 立ち上がって、オジニイサンの背中に歩み寄る。
 外套の上から人の形をした両前脚を背に添えた。

「ボクの主義主張はただ一つ、〝食べないものは殺さない〟ってこと、殺したらダメだよ」
「死体を残すような無粋な真似などせん」

 そういう問題じゃないの。
 遺骸があってもなくても関係ないんだよ。
 ボクが殺したくない、お嫁さんが誰かを殺す姿を見たくない。

 お淑やかさを望む気はないけれど、怒ったらすぐに殺そうとしてくるお嫁さんは……いやだな。

「殺したらダメ」
「……っ!?」

 説得するために、ボクが背中に当てた前脚越しに魔力を動かすと、オジニイサンの腰が前後に揺れた。
 慌てて振り返ろうとして、何故かやめる。

 自分の体の中にある魔力が、ボクの魔力だと初めて気がついたのかもしれない。
 マジュツが発動できない理由に思い至って、とたんに焦ってる姿が可愛い。


「『ジメンニテヲツキ、ミヲフセヨ!』」


 割れ鐘みたいな声が空気を揺らす。
 耳の奥がびりびりして痛い。
 こんなに響かせるなら、せめて声が良い人が歌うように言えば良いのに。
 なに言ってるのか分かんない。

「ねえ、ボクのお嫁さんになってよ」

 お嫁さんになりたくないとごねても、オジニイサンはもうボクのモノだから、手放す気はない。
 了承してくれないなら、無理矢理にでも連れていく。
 もしもオジニイサンの望みが、周囲を巻き込んでの盛大な自死なら、ボクはそれを止める。

 ボクらは…………だから。

 
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