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本編
09 アルシリヤ王国 4
しおりを挟む「では、こちらへどうぞ」
ボクの服が気になるのか、男性に案内されて歩いている途中で視線を感じる。
魔術師には相応しい服装がある。
魔術耐性を持たせた素材を使わないと、あっという間に駄目になる。
新しく覚えた魔術を使う時は、誰でも暴走させる。
焦げるし、濡れるし、よく分からないものまみれになるし、ひどい時はボロ布になる。
兄たちは服が燃えてしまったり、ぼろぼろになったりしていた。
父も服を汚していることが多かった。
家族が用意してくれたボクの練習着は、袖と裾、襟元から膝下までの前面に防御術式の刻まれた皮革を縫いつけてある特注品。
愛が重すぎる。
「……ぁ」
たどりついた庭は、満開の花盛りだった。
ここで暴風の魔術を使ったらきれいだろうな。
でも、庭の管理をしている人に、迷惑がられそう。
そんなことを考えていたら、案内してくれた男性が、ボクを屋根付きの一角へと誘った。
「こちらで朝食になさいませんか」
見上げた空は、昼だった。
お昼なのに朝ごはん。
アルシリヤでは、起きて最初に食べるご飯は、夜でも朝食なのかもしれない。
ほら、起きた時に「おはよう」と口にするのと同じだ。
早くなくてもおはよう、きっとそういうことだろう。
現在時刻が昼に近いと思えば、猛烈にお腹が空いてきた。
ボクが頷くと、あっという間に食事の用意が整えられた。
食べやすいように、手でつまめるようになっているものばかり。
寝坊して迷惑をかけたけれど、そのお陰で花盛りの庭で食事ができたのかな。
とても素敵だ。
花の香りで食欲が落ちないように、座る場所に風上を選んでくれたようだし。
「父祖に恩寵を与えし魔神様へ、魔を育む糧を与えてくださる感謝を」
ここにいるのは男性とボク。
給仕が下がった無人の庭は、落ち着く。
わずかな風が、さわさわと木の葉擦れの音を立てて、花が揺れている。
手指の清浄と、食事に毒物探知をかけて、お皿に手を伸ばした。
とってつきのカップに入ったスープ。
木の皿にはこぶし大のパン、中に野菜や肉がはさんである。
昨夜の食事内容で、食べられる量を確認されたようだ。
美味しい。
農業畜産国の名は伊達じゃない。
まだ交渉の席に着いてないけど、この国で暮らしていけそうだ。
お腹いっぱい食べる癖をつけると、まんまるになってしまうかもしれないけど。
「失礼いたします、こちら、果実の盛り合わせでございます」
パンを食べ終わるタイミングで、小皿が置かれた。
刻んだ果実は色とりどりで、白いクリームがかけられている。
どうして後から出したのかな、と思って陶器の器に触れると、冷たかった。
甘酸っぱい冷たい果物は美味しくて、ほっぺが落ちそうになった。
食後は庭を見た。
花の咲いていない一角に、揺れるのは除虫花。
意識して見てみれば、満開の花の中に香りの強い薬草や香草が計画的に植えられている。
そういえば、父も薬草園の周囲を囲むように植えていた。
どこの国でも似たようなことを考えるんだな、とぼんやり見ていたら、男性が側にやってきた。
「魔術師さま、王妃がお呼びです」
その言い方に違和感を覚えたけれど、うなずいた。
アルシリヤの服に変えてほしいという男性の言葉に逆らい、ユナズフの魔術師らしい格好に着替える。
王妃に会うのに、魔術師らしくしなくてどうする。
ボクは魔術師として、この国に来た。
訓練用の服で王妃に会うのは失礼、くらいはわかる。
それなら、魔術師らしい格好しかない。
安全が確保されていない場所に慣れない服と丸腰で行くなんて、できない。
ぴらぴらの服で火の魔術を使ったら、一瞬で全裸だ。
訓練用の服と同じで、魔術師らしい格好にも全体の傾向がある。
単純に説明するなら、顔以外は出さない。
ボクももちろん顔以外を隠している。
魔術師には隠しておきたいものが多いのだ。
ボクの意見を採用してもらえるなら、顔も隠したい。
ユナズフにいた頃は、顔を隠す案は却下されていた。
目元は視界確保で隠せないけれど、顔の下半分には覆面が欲しい。
両親が用意したつやのある黒い服は、内側に魔術の発動に必要な諸々用の隠しがたくさんある。
もちろん色々と入れてある。
ボクは戦闘用魔術の専門家ではないけれど、使えないわけでもない。
実践経験は皆無。
最後に、父に渡されたケープを羽織る。
背面にユナズフの国章、降り注ぐ星と月喰らう獣が刺繍されている。
ボクが正式にユナズフから派遣された魔術師だと、これが証明してくれる。
フムスの家名を名乗ることができないボクに、父は家紋を背負わせてくれていた。
国を出てからも、守られている。
愛が重すぎる。
# #
???:
とりあえず人目を減らさないと、使用人に内通者がいないと言い切れないから
パンと野菜と肉は食べられるみたいだね、果物とかどうかな、発酵乳かけたら美味しいよ
おお、よかった、花を見てる……んだけど、なんか薬草園にいる時の薬師さまみたいな見方してないか??
城に魔術師連れ込むとか、ホント無理なのにぃ
え、ええ、その格好で行くの?、本当に?、こうなったら覚悟を決めるしかないよぉ((((;゜*゜)))))))
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