【R18】かみさまは知らない

７ おれ

４２

　

　ディスは気遣いのできる子だった。
　あと、怒らせると怖すぎ。

　いかにも育ちの良い少年という振る舞いをしていたディスが、任侠映画の登場人物みたいに荒ぶって、すごくビビった。
　驚いて口を開いて固まってたら、実年齢を教えられた。

　おっさん、かよ！？
　道理で大人っぽいというか落ち着いて見える訳だ、大人の余裕で気遣ってくれていたなんて。

　美少年で四十過ぎってどーなってんの！？
　出会った時はもっと小さかったぞ！
　どういうことだよ、これって異世界あるあるなの？

　まさかスペラも？、と思ったら、スペラは二十一歳だって。
　見た目と同じだとホッとしてから、ちょっと前まで子供だった事を思い出す。

　ここの人たちは、海洋生物みたいな見た目になるのも大概だけど、成長期おかしくないか！？

　この世界の人の寿命はどれくらいだ？
　何百年も生きるから、体の発達が遅いとか？
　なんだっけ、トラックみたいな名前のやつ。

　まー諦めよう。
　ツッコミした所で誰も分かってくれないから虚しい。



　そんなこんなでおれの手足が萎えちゃってる間、おんぶに抱っこで赤ちゃんのように扱われてました。
　快適すぎて笑うしかない。

　自分から動く努力をしないと、二人がいつまでも介護する気満々にしか見えなくて、必死になった。

　食事はともかく、体を拭いたり着替えるような服を脱ぐ系がしんどい。
　これまでに二人ともっとすごい事してるけど、あれはノーカンで。

　裸を見られるのは平気なんだよ。
　二人も一緒に着替えるから、手足長くてすらっとしてんのに筋肉質で逆三角なわがままエロボディを見ると、むらっとしてきつい。

　おれはついに男の体を見てむらむらするようになってしまった。
　（と思っていたが、後日そう感じる対象がスペラとディスだけだと判明したので、ものすごーく安心する。）

　移動が抱っこなのも情けない。
　トイレぐらい自分で行けるようになりたい。
　忙しそうな時は言いづらい。

　羞恥プレイ再びとか、戻ってこなくて良いんだよ！

　まーいいや、移動は夫任せ、宿にいる時はベッドで寝転がってるだけだと暇で仕方ない。
　そんな暇な状況で目下悩んでいるのは、なぜリスポンすると現実感が無い状態に戻ってしまうのか、というとこ。
　黒いナニカとＮＰＣに殺されてる間は、ずっと現実感が無かったから気づかなかった。

　異世界でひとりぼっち殺され生活に放り込まれた謎に比べたら、小さくて軽い悩みだ。

　リスポンして現実感が無い状態の時に、でろっでろな超濃厚セックスをすると、手足が動かなくなるレベルで重だる～になる代わり、現実感を得られる。

　分かってるのはそれだけ。
　二度あることは三度ある、気がするんだよな。
　羞恥介護プレイされたくなければ二度と死ぬなってことか、しんどい。

　あとさ、なんでセックス？
　スペラとディスが知ってたとしても聞けないから無理かー、はいおしまい。

　あー、早く部屋出たい。
　歩けるようになりたい。
　なんでかって？

　動けないと、そーゆー雰囲気にならないからだよ！

　リハビリ中はエロい事しない、とディスが言い出して、スペラが同意した。
　おれのためだよな、分かってる、分かってるよ。
　分かってるから反対できなかったんだよ！

　現在進行形で深刻な欲求不満になってる。
　いつも二人といるから、発散する暇がない。

　ディスとはまだ光る皮に名前を書いてないけど、いつか夫になるんだろ？

　一妻多夫が有りとか言ってたから、当たり前なんだろう。
　男同士で婚姻して一妻多夫のメリットがあるか？、とは思うけど。

　別に嫌じゃない、スペラとディスの二人が望むなら、おれは受け入れる。
　心の問題で言うならもう少し時間がいるけど、受け入れないは無い。

　セックスしたい。
　すっごいしたい。
　朝に夢精を確認されて、優しく下着を変えられるの恥ずかしい。

　なんで毎晩、左右をぽかぽかのイケメンに挟まれて眠らないといけないんだ、二人の温もりが本当にきつい！
　もう一部屋借りてるなら、そっちで寝ろよ。
　言えないよ！
　守られてると知ってるけど、そもそもなにから守られてるんだ？

　おれ、なにに狙われてんの？
　殺されまくってきた事に関係ある？



　とまあ、平和なんだか違うんだか、もやもやしながら日々を過ごしていたら、ある日、二人の様子が変わった。

　おれが狙われてるという設定で、壮大なドッキリだと良いのになー。
　この世界、おれには難易度が高すぎる。

「ゼン、ここを出る」
「分かった、いつ？」
「今すぐ」
「え？」
「荷造りはもう終わってるから」

　なにそれ、聞いてない。
　周囲を見たけれど、いつも通り家具が並んですっきりした部屋だ。
　つまり、初めから荷解きしてなかったのか。

　もしかして、もっとずっと前から、おれってなにかに狙われてた？

　狙われている事を自覚してゾッとした直後、あれ、でもおれ死なないし、問題なくねえ？、と思った。
　いいや、スペラとディスがいるから問題はある。
　セックスはしたい、でもセックスして動けなくなるのは嫌だ。

　おれの自覚では死んだ後のリスポンは一瞬だ。
　意識がないから。

　スペラに聞くと、一月ほどかかったらしい。
　やばいな、この世界の一ヶ月が何日間か知らないんだけど。

　へー、と知ったかぶりで頷き、でろっでろセックス後の半年より短いと知った。
　復活より長くかかる現実感の取得って、どーゆーことだ。

　そうなると、これまでおれが死んだ後も一ヶ月は死体が放置されてたって事で、どうやって復活してるのかものすごく疑問だ。
　一ヶ月経ったら、腐ってるどころじゃないよな？
　おれはゾンビだった？

　考えてもわからん事は考えないに限る。
　くよくよするくらいなら、体を動かして飯を食ってしっかり寝る。
　そしたら大抵のことはなんとかなる。

　リスポンに時間がかかると分かった以上、今まで以上に身の安全に気を付けてみよう。
　二人任せになるのは間違いない。
　おれ自身にできることは、なんにも無い。

「どこに行くかは決めてあるのか？」
「何箇所か候補はあるけど、道中で決めようと考えてる」
「二人ともありがとう、おれが、まだ長距離を歩けるほど体力も筋力も戻ってないからだろ？、動けない時は助けてほしい」
「もちろん」

　しばらくは抱っこ旅だな、と思っていたら、ディスがにこにこの笑顔でおれの前に乱入して来た。

「たまにはぼくもゼンを抱っこしたいです」

　視線の高さがほぼ同じのディスを見ながら、言った。

「身長的に怖いから、ちょっと無理」

　スペラはいつのまにかおれよりも頭一つ以上でっかくなって、筋肉モリモリじゃないくせに溢れ出るパワーがある。
　ディスもパワーはあると思う。
　でも、動かれると不安定で怖い。
　力の問題というより、体の大きさと抱っこし慣れてないから？

「むぅ、すぐに大きくなるから待っていて下さいね、ゼン♪」
「ああ、うん」

　ぷくり、と頬を膨らませるな。
　小さい子供か。

　ブチギレしてから一時期おれを様付けで呼んでいたディスだが、しばらくしたらまた呼び捨てしてくれるようになった。
　説教の時の口調を覚えているせいで、丁寧に可愛く話されると無理しなくて良いのにと思う。

　実年齢を知ってしまったけど、お利口な少年みたいな態度を変える気はないらしい。
　今ではおれと同年代に見えるから違和感を覚えるが、キャラ付けくらい個人の自由だよな。

　中身おっさんが可愛いですます系ショタ言動していても、似合ってるなら許される、のか？
　おれが知らないだけで結構そういう人、いたりすんのかも。

　というわけで、スペラにがっちりと抱っこされて、山のような荷物を背負ったディスをお供に、おれたちはすたこらさっさと逃亡するのであった。
　なにからなんだろなー？