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 幅広の布の首飾りを解けば、そこにはしっかりとした喉仏。
 くるくるふわふわとした髪と、少女の如き顔立ちと体格に、違和感を覚えるほどにしっかりとした喉仏だ。

「お、……おとこぉ!?」

 絶叫が大広間に広がる。
 誰もがステルカリ・メイラ嬢改め、ティグナレット辺境伯をじろじろと見た。

 辺境伯が、見られるのは不愉快だ、やめろ、と言うように、手を広げて上げてから、獰猛な笑みを見せる。

 それを見た男子生徒の多くが、息を呑む。
 辺境伯の手が、剣を握る者の無骨な手であることを知って。

「さらに言えば、なよっちいスンジャル兄上の護衛としての任も受けた、ティグナレット辺境領魔装騎士団の団長でもある!」

 少女が得意満面にしているようにしか見えない。
 見えないけれど、特定の一人には真意がしっかりと伝わったようだ。

 そして、特定の一人である彼の兄は、弟の好意に素直に乗った。

「おい、なよっちいとか言うなよ!」
「策謀と根回しじゃ兄上に勝てねえんだから、これくらい言わせろよ」
「未来の侯爵さまを敵に回そうってのか?」
「兄上、おれはもうすでに辺境伯で騎士団長だぞ」
「ずるいぞ!」
「今なら兄上に威張れるからな、辺境伯閣下と呼ばせてやろう」
「うっわ、ステューステルクがせこいこと言ってる!」

 〝殿下を惑わす女好きの優男〟という演技を捨てたオグンベクザンティ侯爵家令息が、荒い口調で言葉を返すと、明らかな兄弟喧嘩が突然始まった。
 それも、貴族としては在り得ない、俗な言葉遣いで。

 せこくて結構、ぐははは、と子供の様に胸を張る辺境伯。
 弟と戯れる兄の顔で、おのれ辺境伯閣下、と茶化す侯爵家令息。

 並んで口喧嘩をする様子は、どこからどう見ても、仲の良い本物の兄弟にしか見えず。
 うそだー。
 という言葉があちらこちらから聞こえてくる。

 美少女と優男が、汚い言葉で盛り上がる姿は、似合っていないのにあまりにも馴染んでいる。
 これが本来の姿だ、と周囲に伝える様に。

 わたしだって。
 この可憐な少女にしか見えない彼が同い年で、実力で騎士団長になって本物の魔獣討伐や、国境の小競り合いに日参していると知って、世界がひっくり返った。

 殴り合いの喧嘩が日常茶飯事だ、と言っていた彼らが、学院内の大広間で起こすこれは、喧伝のためだとすぐに理解できた。

 侯爵家と辺境伯家の関係は良好である。
 薬物流入で乱れた王都の治安は、辺境から守られるという訴えだと。

 
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