7 / 15
見せつける
しおりを挟む幅広の布の首飾りを解けば、そこにはしっかりとした喉仏。
くるくるふわふわとした髪と、少女の如き顔立ちと体格に、違和感を覚えるほどにしっかりとした喉仏だ。
「お、……おとこぉ!?」
絶叫が大広間に広がる。
誰もがステルカリ・メイラ嬢改め、ティグナレット辺境伯をじろじろと見た。
辺境伯が、見られるのは不愉快だ、やめろ、と言うように、手を広げて上げてから、獰猛な笑みを見せる。
それを見た男子生徒の多くが、息を呑む。
辺境伯の手が、剣を握る者の無骨な手であることを知って。
「さらに言えば、なよっちいスンジャル兄上の護衛としての任も受けた、ティグナレット辺境領魔装騎士団の団長でもある!」
少女が得意満面にしているようにしか見えない。
見えないけれど、特定の一人には真意がしっかりと伝わったようだ。
そして、特定の一人である彼の兄は、弟の好意に素直に乗った。
「おい、なよっちいとか言うなよ!」
「策謀と根回しじゃ兄上に勝てねえんだから、これくらい言わせろよ」
「未来の侯爵さまを敵に回そうってのか?」
「兄上、おれはもうすでに辺境伯で騎士団長だぞ」
「ずるいぞ!」
「今なら兄上に威張れるからな、辺境伯閣下と呼ばせてやろう」
「うっわ、ステューがせこいこと言ってる!」
〝殿下を惑わす女好きの優男〟という演技を捨てたオグンベクザンティ侯爵家令息が、荒い口調で言葉を返すと、明らかな兄弟喧嘩が突然始まった。
それも、貴族としては在り得ない、俗な言葉遣いで。
せこくて結構、ぐははは、と子供の様に胸を張る辺境伯。
弟と戯れる兄の顔で、おのれ辺境伯閣下、と茶化す侯爵家令息。
並んで口喧嘩をする様子は、どこからどう見ても、仲の良い本物の兄弟にしか見えず。
うそだー。
という言葉があちらこちらから聞こえてくる。
美少女と優男が、汚い言葉で盛り上がる姿は、似合っていないのにあまりにも馴染んでいる。
これが本来の姿だ、と周囲に伝える様に。
わたしだって。
この可憐な少女にしか見えない彼が同い年で、実力で騎士団長になって本物の魔獣討伐や、国境の小競り合いに日参していると知って、世界がひっくり返った。
殴り合いの喧嘩が日常茶飯事だ、と言っていた彼らが、学院内の大広間で起こすこれは、喧伝のためだとすぐに理解できた。
侯爵家と辺境伯家の関係は良好である。
薬物流入で乱れた王都の治安は、辺境から守られるという訴えだと。
351
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
[BL]わたくしと婚約者と妹とその婚約者の話
ラララキヲ
BL
【前半女主人公・後半BL】
わたくしはティナリア。伯爵家の娘。
6歳で侯爵家嫡男のカハル様の婚約者になった。
妹のアリシュアとその婚約者のセッドリー。
わたくしたち4人はとても仲が良く幸せに成長していった。
4人はきょうだいのように、将来本当に家族になるその為に。
……だけど“2人”の気持ちはいつからか変わってしまっていたのでしょうね……
※ ■からBL
─1~12 [女主人公]
─13~20[BL]
─21·22·23 [後日談]
※『婚約者』としての女性から男性への恋愛感情の様な表現があります。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げました。
残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
ある意味王道ですが何か?
ひまり
BL
どこかにある王道学園にやってきたこれまた王道的な転校生に気に入られてしまった、庶民クラスの少年。
さまざまな敵意を向けられるのだが、彼は動じなかった。
だって庶民は逞しいので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる