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過去:一花繚乱
花は咲き誇る 1/4
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大変お待たせして、申し訳ありませんでした
今話含め、あと四話で完結です
書けなかったというより、なんも思いつかなかったっすー
m(_ _)m
===
温室が欲しいとおねだりしたのは、必要だと気がついたから。
もう少ししたら休眠の準備が必要になる。
今は彼が一緒にいてくれるから、授精したい気分になっても精を注いで欲しいとお願いして甘えられる。
でも、これから先、寒くなったら?
もしかしたら、と懸念を覚えたんだ。
もしも休眠が必要な寒季に、授精したい気持ちがあふれたまま抑えられなかったら、うまく眠れなくなってしまうかも、って。
全てのドライアドが休眠するわけじゃないけど、この身には必要……だと思う、多分。
彼の精で授精したい渇望は募るばかりなのに、人の精では授精できない。
理解しているのに、体も心も落ち着かせられない。
このままだと寒季が来ても眠るよりも授精を優先するべきと、判断してしまうかもしれない。
休眠をしないとどうなるのか。
枯れてしまうかもしれない。
なにも問題なく過ごせるかもしれない。
分からないんだ。
これまで成り行きに任せて来たから分からなくて怖い。
傷つくことが怖いわけじゃない。
彼が傷ついたこの身を見て悲しむかもしれない、それが怖い。
悲しむ彼を見たくない。
この身が原因で彼が悲しむなんて、あってはいけない。
だから保険があれば、と思った。
いつでも温かく過ごせる温室があれば休眠しないまま寒季を過ごせて、彼を悲しませずに済むのではないかなって。
それだけでもないけど。
この身はいつでもどこでも触れて欲しくて疼いている。
でも彼はハチの世話をしなくてはいけないし、日常生活も拠点の管理や同業者との会合もある。
忙しい彼に強要はできないけど、その気になって欲しい。
彼に時間がある時に、安心できて季節に関わらず温かさを保てる場所があれば、ワンチャンいけるかも?
そうして一生懸命考えた結果、温室しか思いつかなかった。
謎の知識からの流用だったけれど、うまく説明できたかなと不安は残っている。
ああ、彼に触れられたい。
彼の精で受精したい。
授精できなくても彼を感じたい。
受精の擬似行為にしかならなくても、したい。
彼の熱が胎内に欲しい。
腹の中に焼けた杭を打ちこまれる事と同義なのに、切望してしまう。
◆
温室を知らなかった彼に説明したら、なんとかなるかもと言われ、一つの季節が過ぎた頃。
拠点を移動して案内されたのは、初めての場所だった。
「うわぁ、温室だぁ」
二階建てくらいの高さで、家一軒くらいの温室がそこにはあった。
これまでの拠点は、みんな平家の一階建だった。
大きな建物の周囲は開けているけれど、整地してから時間が経っていないように見える。
拠点を囲む草木は枝葉を払われたのだろう、断面が新しい。
土の色が、長く陽光や雨にさらされる前の深い色をしている。
おねだりはしたけれど、そう簡単に建てられるものではないと思っていたから、呆けてしまった。
ここに来る途中に広い農地があって、なにかが植えられていた。
白い小さい花がたくさん咲いていたから、拠点を新設したのかもしれない。
「これからは季節ごとに滞在する拠点が今までと変わって、温室がある場所になるんだけど、どうだ?」
「すごい、どこでも温室があるの?」
これからはずっと温室のある場所を拠点にできるってこと?
季節ごとに移動するために、温室を幾つも作ったの?
もしかして彼にすごい金銭的負担をかけてしまったのかな、と心配になったけど、おねだりを叶えてもらって遠慮するのは逆に失礼かもしれないと不安になる
こういう時は、素直にお礼を伝えて喜ぶべきだよね。
「あー……気に入ったか?」
「すごく気に入ったよ、ありがとう、中に入っても良い?」
「もちろんだ、……気に入ったのか、ぁあ本当に良かった」
彼がなぜか硬くしていた表情を崩してほっと息を吐く姿を見ながら、手を伸ばす。
ためらうことなく手を繋いでくれる姿が嬉しい。
もしかして、この身が温室を喜ぶか不安になっていたのかもしれない。
彼が贈ってくれるなら、なんでも嬉しいと伝えているのに。
使うことのないアクセサリーや服だって、宝物だよ。
使えなくても、全部大切にしまってある。
外から見ると、高い木製の建物の上半分と天井がガラス張りになっているように見えていた。
中からはどう見えるのか想像がつかなかった。
彼の反応が可愛いことにニマニマしながら、温室の両開き扉を押し開けた。
建物の中は、これまでの拠点と同じで人が住める空間になっていた。
家と温室を一つにしたような、とでも言えば良いのかな。
二階建ての高さがあっても天井がなくて吹き抜けになっているから、柱や壁の代わりに衝立が並べられている。
外から見えた時と同じように、二階部分と天井はガラス張りだ。
何箇所も天窓があって、壁には換気用の窓もある。
ガラス越しにぽかぽかと降り注ぐ陽光が気持ちよくて、彼の手を引いて中を歩き回った。
広々とした建物内には必要なものが点在していて、居心地良く過ごせそうな気がする。
はしゃぐ姿に彼が呆れていないかなと振り返ったら、とても優しく口元を緩めて見つめられていたから、なんだか照れ臭くなった。
気を取り直して。
トイレとキッチン部分だけ壁と天井が造られていて、強い日差しが入り過ぎないように考えられているようだ。
大きなクッキングストーブからパイプが伸びているのは、ボイラーを使ったセントラルヒーティングで温室内を暖めるためかもしれない。
……んん、セントラルヒーティングってなんだろ、単語しか知らないみたいで気持ち悪い。
天井の内側には布を引いて日差しを遮ることができる仕掛けが作られている。
ベッドが一つしかないけど、これまで拠点に置かれていたものの倍以上横幅があって、四人くらい眠れそうだ。
人である彼が求める住環境とこの身に必要なものを、うまく折半してくれたような。
そんな素敵な温室だった。
嬉しい。
彼がこの身を大切にしてくれてると痛切に感じる。
一緒にいたいと願われている気がする。
好きだ、彼が大好きだ。
「すごいね」
「おう、本当にすごいよな」
彼が作ってくれた訳じゃないのかな?
と首を傾げてから作ったのは大工さんだよね、と思い直した。
さすが作るプロフェッショナルだよ。
「こんなに素敵な温室は初めて見たよ」
ドライアドとして生を受けてから、温室を見たのが初めてだから嘘ではない。
よく知らない記憶の中にはもっと巨大な温室があるけど。
「喜んでもらえて良かった」
「うん、ねえ?」
「なんだ?」
「授精したいな」
拠点に到着したばかりだから荷物を運び込んだり、整理したりする必要があるのは分かってるけど。
こんなに素敵な温室でぽかぽかと温められてしまうと、彼の精が欲しくなる。
授精して種を残さなくちゃいけないって、すごく感じてしまう。
「今からか?」
「……待つよ、少しなら」
「少ししか待てないのか?」
「待てるけど、待ちたくないの」
彼がその気になってくれないなら、我慢する。
我慢できる……たぶん、きっと。
手をからめるように、彼の固くなった太い指先に指を絡める。
なんて素敵な手なんだろう。
使い込まれた指先はかたくなっているのに、その美しさを損ねることはない。
勤勉に真面目に働くことを厭わないことで形作られただろう手は、彼の優しくも頼りになる気性を表しているようだ。
この身の手は人を真似しただけ。
指は五本揃っているけど彼の手のように力強くないし、使い込んで固くなってもいない。
人真似の偽物の姿を嫌わないでいてくれる彼は本当に優しくて良い人で、側を離れられる日が来ない予感がする。
使い込んでグローブのように皮ふが分厚くなっている彼の手は、とても温かかった。
今話含め、あと四話で完結です
書けなかったというより、なんも思いつかなかったっすー
m(_ _)m
===
温室が欲しいとおねだりしたのは、必要だと気がついたから。
もう少ししたら休眠の準備が必要になる。
今は彼が一緒にいてくれるから、授精したい気分になっても精を注いで欲しいとお願いして甘えられる。
でも、これから先、寒くなったら?
もしかしたら、と懸念を覚えたんだ。
もしも休眠が必要な寒季に、授精したい気持ちがあふれたまま抑えられなかったら、うまく眠れなくなってしまうかも、って。
全てのドライアドが休眠するわけじゃないけど、この身には必要……だと思う、多分。
彼の精で授精したい渇望は募るばかりなのに、人の精では授精できない。
理解しているのに、体も心も落ち着かせられない。
このままだと寒季が来ても眠るよりも授精を優先するべきと、判断してしまうかもしれない。
休眠をしないとどうなるのか。
枯れてしまうかもしれない。
なにも問題なく過ごせるかもしれない。
分からないんだ。
これまで成り行きに任せて来たから分からなくて怖い。
傷つくことが怖いわけじゃない。
彼が傷ついたこの身を見て悲しむかもしれない、それが怖い。
悲しむ彼を見たくない。
この身が原因で彼が悲しむなんて、あってはいけない。
だから保険があれば、と思った。
いつでも温かく過ごせる温室があれば休眠しないまま寒季を過ごせて、彼を悲しませずに済むのではないかなって。
それだけでもないけど。
この身はいつでもどこでも触れて欲しくて疼いている。
でも彼はハチの世話をしなくてはいけないし、日常生活も拠点の管理や同業者との会合もある。
忙しい彼に強要はできないけど、その気になって欲しい。
彼に時間がある時に、安心できて季節に関わらず温かさを保てる場所があれば、ワンチャンいけるかも?
そうして一生懸命考えた結果、温室しか思いつかなかった。
謎の知識からの流用だったけれど、うまく説明できたかなと不安は残っている。
ああ、彼に触れられたい。
彼の精で受精したい。
授精できなくても彼を感じたい。
受精の擬似行為にしかならなくても、したい。
彼の熱が胎内に欲しい。
腹の中に焼けた杭を打ちこまれる事と同義なのに、切望してしまう。
◆
温室を知らなかった彼に説明したら、なんとかなるかもと言われ、一つの季節が過ぎた頃。
拠点を移動して案内されたのは、初めての場所だった。
「うわぁ、温室だぁ」
二階建てくらいの高さで、家一軒くらいの温室がそこにはあった。
これまでの拠点は、みんな平家の一階建だった。
大きな建物の周囲は開けているけれど、整地してから時間が経っていないように見える。
拠点を囲む草木は枝葉を払われたのだろう、断面が新しい。
土の色が、長く陽光や雨にさらされる前の深い色をしている。
おねだりはしたけれど、そう簡単に建てられるものではないと思っていたから、呆けてしまった。
ここに来る途中に広い農地があって、なにかが植えられていた。
白い小さい花がたくさん咲いていたから、拠点を新設したのかもしれない。
「これからは季節ごとに滞在する拠点が今までと変わって、温室がある場所になるんだけど、どうだ?」
「すごい、どこでも温室があるの?」
これからはずっと温室のある場所を拠点にできるってこと?
季節ごとに移動するために、温室を幾つも作ったの?
もしかして彼にすごい金銭的負担をかけてしまったのかな、と心配になったけど、おねだりを叶えてもらって遠慮するのは逆に失礼かもしれないと不安になる
こういう時は、素直にお礼を伝えて喜ぶべきだよね。
「あー……気に入ったか?」
「すごく気に入ったよ、ありがとう、中に入っても良い?」
「もちろんだ、……気に入ったのか、ぁあ本当に良かった」
彼がなぜか硬くしていた表情を崩してほっと息を吐く姿を見ながら、手を伸ばす。
ためらうことなく手を繋いでくれる姿が嬉しい。
もしかして、この身が温室を喜ぶか不安になっていたのかもしれない。
彼が贈ってくれるなら、なんでも嬉しいと伝えているのに。
使うことのないアクセサリーや服だって、宝物だよ。
使えなくても、全部大切にしまってある。
外から見ると、高い木製の建物の上半分と天井がガラス張りになっているように見えていた。
中からはどう見えるのか想像がつかなかった。
彼の反応が可愛いことにニマニマしながら、温室の両開き扉を押し開けた。
建物の中は、これまでの拠点と同じで人が住める空間になっていた。
家と温室を一つにしたような、とでも言えば良いのかな。
二階建ての高さがあっても天井がなくて吹き抜けになっているから、柱や壁の代わりに衝立が並べられている。
外から見えた時と同じように、二階部分と天井はガラス張りだ。
何箇所も天窓があって、壁には換気用の窓もある。
ガラス越しにぽかぽかと降り注ぐ陽光が気持ちよくて、彼の手を引いて中を歩き回った。
広々とした建物内には必要なものが点在していて、居心地良く過ごせそうな気がする。
はしゃぐ姿に彼が呆れていないかなと振り返ったら、とても優しく口元を緩めて見つめられていたから、なんだか照れ臭くなった。
気を取り直して。
トイレとキッチン部分だけ壁と天井が造られていて、強い日差しが入り過ぎないように考えられているようだ。
大きなクッキングストーブからパイプが伸びているのは、ボイラーを使ったセントラルヒーティングで温室内を暖めるためかもしれない。
……んん、セントラルヒーティングってなんだろ、単語しか知らないみたいで気持ち悪い。
天井の内側には布を引いて日差しを遮ることができる仕掛けが作られている。
ベッドが一つしかないけど、これまで拠点に置かれていたものの倍以上横幅があって、四人くらい眠れそうだ。
人である彼が求める住環境とこの身に必要なものを、うまく折半してくれたような。
そんな素敵な温室だった。
嬉しい。
彼がこの身を大切にしてくれてると痛切に感じる。
一緒にいたいと願われている気がする。
好きだ、彼が大好きだ。
「すごいね」
「おう、本当にすごいよな」
彼が作ってくれた訳じゃないのかな?
と首を傾げてから作ったのは大工さんだよね、と思い直した。
さすが作るプロフェッショナルだよ。
「こんなに素敵な温室は初めて見たよ」
ドライアドとして生を受けてから、温室を見たのが初めてだから嘘ではない。
よく知らない記憶の中にはもっと巨大な温室があるけど。
「喜んでもらえて良かった」
「うん、ねえ?」
「なんだ?」
「授精したいな」
拠点に到着したばかりだから荷物を運び込んだり、整理したりする必要があるのは分かってるけど。
こんなに素敵な温室でぽかぽかと温められてしまうと、彼の精が欲しくなる。
授精して種を残さなくちゃいけないって、すごく感じてしまう。
「今からか?」
「……待つよ、少しなら」
「少ししか待てないのか?」
「待てるけど、待ちたくないの」
彼がその気になってくれないなら、我慢する。
我慢できる……たぶん、きっと。
手をからめるように、彼の固くなった太い指先に指を絡める。
なんて素敵な手なんだろう。
使い込まれた指先はかたくなっているのに、その美しさを損ねることはない。
勤勉に真面目に働くことを厭わないことで形作られただろう手は、彼の優しくも頼りになる気性を表しているようだ。
この身の手は人を真似しただけ。
指は五本揃っているけど彼の手のように力強くないし、使い込んで固くなってもいない。
人真似の偽物の姿を嫌わないでいてくれる彼は本当に優しくて良い人で、側を離れられる日が来ない予感がする。
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