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今:花は求める
寝たふりをする木 2/3
しおりを挟むこの身はドライアドとして生を受けたけれど、なぜか同族に興味が持てなかった。
かと言って森にいる他の種族にも興味が持てなかった。
どんな花が相手でも、種を残す気分になれなかった。
なぜなのか理由は分からないけれど、己が植物であることが受け入れられなかった。
どこからどう見ても植物なのに、植物であることが気持ち悪くて、ここではないどこかに行きたい気持ちが、焦燥感がいつもぐるぐると胸の奥を焦がしていた。
もちろん同族と話なんて合わない。
仲間と一緒にいるのに、いつも孤独だった。
胸の奥に燻る熱の全てを注ぎ込んで、中途半端だった人の姿への変化を徹底的に突き詰めて。
成熟して人型になれるようになってすぐ、根を引っこ抜いて森を飛び出した。
なんだかんだあって人の住む場所にたどり着いて。
死にかけた。
このまま枯れて死んでしまうんだろうな、と動けなくなっていたら、人である彼が助けてくれた。
熱い手に触れられることは怖いはずなのに、とても嬉しかった。
優しくされて、体と共に枯れかけていた心まで生き返った。
……いいや、彼のために咲き誇った、が正しい。
彼が、愛おしい。
この身は植物なのに彼を求めている、彼に求められたい。
助けてくれた理由は想像できる、花蜜や花粉が欲しいのだろう。
でも、彼の優しさと真面目さは本物で、今ではこの身のために、植物医師の資格をとろうとしてくれている。
愛おしい彼のためなら、花蜜や花粉をねこそぎしぼりとられても構わない。
この身は彼のために咲いているのだから。
「ん、すき」
苦しくないよ、と伝えるために口を離したのに、出たのはまったく違う言葉だった。
「なんだよ、起きてるなら言ってくれよ」
「……」
あえて返事はしない。
まだ寝ぼけてると思っていてほしいから。
「あれ、まだ寝てるのか、寝言?、……いや、それはそれで嬉しいっつうか……本当に寝てるのか?」
寝ている時に生殖器官を咥えさせるのはまずいと思ったのか、しまわれそうになった。
ここで終わりとかありえないから!、と吸い付きながら咥え込み、生殖器官の裏側に盛り上がっている筋を舌全体で押すと、低くうめく声がした。
「起きてるのか、寝てるのかどっちだよ」
困ったような声が降り注ぐ。
頭部を覆う髪の毛そっくりの雄しべを優しく撫でる手。
思わず声を上げて笑いそうになる。
昨日まで花蜜と花粉をたかられていたから、疲れていないかと心配してくれているのだろう。
心配しているなら尚更、動物性の精を飲まして欲しい。
彼との接触がまったくなかったから、心への肥料が足りなくなってる。
「えっ、ま、起きてるのか、おきてるんだろっ」
起きてないよ寝たふりしてるんだよ、と心の中で答えながら少しだけ頭部を持ち上げて、一息に根元まで咥え込んだ。
口腔内に分泌した消化液のおかげで、なめらかに行けた。
顔面を彼の生殖器官付近の体毛がくすぐるのが嬉しくて、じゅるるると音を立てながら陰圧をかける。
誰に教えられたわけでもないのに、中の空気を減らすと肉の竿に粘膜がねっとりとからみついて、気持ち良くさせられるのを知っている。
どうして、この身はそんなことを知っているのか。
「まてって、おい、うっっ」
どうして、こんなに固く熱くなるんだろう。
もっと気持ちよくしてあげたい。
裏側を舌全体で押しつぶしながら頭を前後させると、生殖器官の先が、ぴとりとあつらえたように奥に収まったのを感じた。
擬似餌である人型頭部の口腔を、消化液を分泌できる捕虫袋のように変えたのは、彼に助けられてからすぐのこと。
あわよくば、と思って生殖器官を収めた時に良い感じになるように、彼の形に作り替えた。
先端を人で言うところの上顎側の奥に押し当てながら舌をぐりぐりと動かすと、彼の腰が揺れた。
「まて、だめだ、も、でるっ」
わー、はやーい。
嬉しい、ごっくんさせて。
「ん、んむっ」
ぴゅく、ぴゅくと数度に分けて口の中に放たれる熱い粘液。
口の中でぶる、ぶるっと震える熱い肉竿。
ごくりと音を立てながら飲み込むと、これまでに何度も感じた生臭くて苦いのに甘くて幸せな味がした。
熱くてどろどろとした精には、動物の生命力がたっぷりと詰まっている。
どんな高級な肥料よりも、彼が注いでくれる精が好きだ。
人の形は真似られても固形物は消化できない。
けれど、液体は吸収できる。
ただ、花蜜に飲んだものの味が出てしまうらしいから、花蜜を求められる時期は気をつけなくてはいけない。
普段から彼の愛情をたっぷり注がれているからこそ、この身が作り出す花蜜も花粉も素晴らしいものである自覚がある。
彼の精の味がする花蜜だって美味しいはずだと思うけれど、売り物にできないらしい。
ドライアドの花蜜は貴重だ。
自らの意思で人に花蜜を差し出すドライアドは、いない。
この身以外。
人が魔物を倒しながら森の奥まで入ってきたとして、ドライアドが花蜜と引き換えに求める対価がない。
せいぜい体を肥料として置いていけー、と望むくらいだろう。
人に捕獲されて、拘束状態で飼育したドライアドの花蜜はまずい、らしい。
誰だってやりたくないことはしたくないから、拘束しないと思いっきり暴れるだろう。
花蜜を搾り取るのも大変だろうし、ストレスフルな状態で生成された蜜が美味しいわけがない。
さらに言えば、森の外の土と水があわなくて味が落ちるのかなとも思う、この身だって死にかけた。
そんな感じで、この身がドライアドであることが養蜂家の彼の価値と評価を押し上げるのは喜ばしい。
彼の愛を浴することができるのは、ドライアドだから。
この身には、彼の愛が必要。
彼から与えられる全てが嬉しい。
「……っ、こら、おきてるだろっ」
「まだねむいよ」
彼の服を捕まえたままだった手を離すと見せかけて腕を伸ばし、毛深い下半身に抱きついた。
出したばかりで硬さを保っている彼の生殖器官に頭部を押し付けると、焼けるような体温と生きている匂いがした。
ふにゃふにゃのままで良いから、時間の許す限り咥えていたい。
「少しからかうつもりだったのに、なんで寝たふりなんかしてるんだよ」
早々に精を出してしまうのは、恥ずかしいこと。
なんとなく知っているけれど、なぜ恥ずかしいのかは思い出せない。
「すやすや」
「こら、口で言うな」
「まだ起きたくない、ねえ一緒に光合成しよ?」
もっと甘えたいな。
いっぱい一緒にいたいな。
困ったような顔をしてから、彼は両眉を下げた。
「……飯の後ならいいぞ」
わあ、やった、と体の大半を覆っていた複葉を開く。
「ぶふっ、ふ服はどうしたっ!?」
「食事の後でお尻にも欲しいから、裸でいいでしょ?」
「裸は駄目だっ、服を着てくれ、人は服を着ているものだと教えただろ?」
「やだ、裸でいいの、お尻きらい?」
ベッド扱いのロゼットに膝をついて、彼に向かってむき出しのお尻をふりふりしてみた。
ドライアドに服飾文化はない。
虫が付きやすい子ならこも巻きを喜ぶだろうけれど、この身には必要ないかな。
服に見えるのは葉や花弁など体の一部で、人や親株を真似て覚えた結果。
人里で暮らすまでは服の存在も知らなかったから、全裸は恥ずかしくもなんともない。
彼が人は見た目で判断するものと言うから、人の前に出る時は顔と手以外を覆う服みたいにしているだけ。
頼まれて彼の知り合いと話した時には、「清楚系ドライアドの蜂蜜として商品価値を爆上げさせます!」とか言われた。
なにが言いたいのか分からなかったけれど、彼の評価が高くなるなら良いかなって。
常に全裸なのに清楚とか言われても困るんだよね。
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