極道恋浪漫

極道恋浪漫 第二章

97

「まあ……確かにな。『白龍バイロン』という店に店主が『白蘭バイラン』とくれば、焔イェンでなくとも興味を引かれそうな名だ――。では、女はこの地下街でいずれ焔イェンが自分に気付いてくれる機会をずっと待っていたというわけか」
　遼二が気難しい顔で溜め息をつく。
「おそらくはその通りかと。彼女は焔老板イェンラァオバンのことは年がら年中気に掛けていたでしょうから、そんな中で冰さんをお邸に住まわせた経緯を知ったのでしょう」
　表向きは冰を遊郭街から身請けした理由は周焔ジォウ イェンの婚約者だからということにしていたわけだが、女は興信所勤めの経歴もあってか、ごく内輪のそんな事情まで知り得たのかも知れない。
　冰は少年で、焔イェンとは同性に当たるが、仮にも婚約者などと聞けば穏やかではいられなかったのかも知れない。だが、過去のトラウマから自分で冰を追い出すことができずに、リリーを雇って汚い役目を押し付けたということか。
　仮に冰を追い出したことが焔イェンにバレたとしても、直接関わったのはリリーだ。焔イェンに睨まれるのはリリーということになる。自分は何食わぬ顔でいつか焔イェンが店の名に興味を持って立ち寄ってくれる機会を待っていたというわけだろう。
「もしも思惑通りに老板ラァオバンがワインバーに来るようなことがあれば、告白などは時期を見てと思っていたのかも知れません」
　そして源氏名が白蘭バイランであることから、もしかしたら焔イェンが運命を感じて妻にしてくれればいい。そんな期待を抱いていたのかも知れない。
　焔イェンも遼二も何とも言いようの顔で溜め息しか出てこなかった。
「良く言えば一途というのか……その想い自体をどうこう言うつもりはねえが、それにしてもリリーを雇って冰を追い出すとはいただけん話だな。やはり李リーさんの言うように少々常軌を逸しているとしか言いようがねえ」
　遼二が頭を抱え込む。
「このまま放っておけば、いずれまた何らかの手口で冰に危害が及ばないとも限らん。やはり直に女に会って釘を刺す必要があるだろうな」
　焔イェンは焔イェンでそう考えているようだ。自分が女に会って丁寧に話せば分かってもらえるだろうというのだ。だが、李リーは賛同できないと言って止めにかかった。
「老板ラァオバンのおやさしいお気持ちは分かります。ですが女にお会いになるのは危険です。老板ラァオバンが訪ねて来てくれたと、良からぬ方向に気持ちが昂られても困ります。真摯に話したとて諦めてくれるどころか、想いに火を点けるだけでしょう。ここは敢えて接触を取らず、冰さんには学園への送り迎えを付けるなどして警護に重点を置く方が賢明と存じます」
　と、そこへ医師の鄧デェン兄弟がやって来た。