極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
97 / 101
極道恋浪漫 第二章

96

しおりを挟む
「卒業後、彼女は興信所に就職しています」
「興信所だと?」
「いわゆる私立の探偵事務所といった小さな会社ですが、そこで老板ラァオバン――というよりも周ファミリーについて執拗に調べを進めていたようです」
 リー曰く、イェンが妾の子であることや、ファミリーの伴侶となった者には肩に字と同じ色の蘭の花の刺青が贈られることなどを調べ尽くしたようだというのだ。
 事実、頭領ボス周隼ジォウ スェン――つまりはイェンの父親だが――彼の背中にはあざなである黄龍ウォンロンを模った大きな黄色い龍の刺青が入っている。その伴侶である継母の肩には黄色い蘭の花が贈られていた。
 兄の周風ジォウ ファン夫婦も同様である。兄のあざな黒龍ヘイロンだから背中には黒い龍の刺青、そしてその妻となった高美紅ガオ メイフォンの肩先には黒い蘭の花が贈られた。それがファミリーの証になるのだ。
 もしもイェンが妻を娶れば、その肩にはあざなである白龍バイロンと対になる白蘭バイランの刺青が贈られるというわけだ。
 そのことを突き止めた女は自らの源氏名を白蘭バイランとし、ワインバーの店名をイェンあざなである白龍バイロンにしたというわけだ。
「興信所を退職した後、彼女はこの地下街のクラブで働き出し、その二年後にはワインバーを開き始めました。よほど老板ラァオバンに対する想いが強かったともいえますが、冷静に考えれば行き過ぎているように思えます」
 つまり、尋常ではないということだ。
「だがな、リー――俺自身にはその女からただの一度たりと接触を受けたことがねえ。仮に何らかの想いを寄せているというのなら、告白のひとつもあっていいようなものだが」
 だが、女が直に声を掛けてきたことはおろか、ましてや想いを打ち明けられたことなど一度もないというのだ。
「そこはあの女の性質――というよりも過去の出来事が起因しているものと思われます。彼女は老板ラァオバンに助けられるずっと以前、中学校時代の話ですが教師に恋情を抱き失恋を経験していたそうです」
「教師に失恋?」
「ええ。当時教師は同僚の女教師と結婚したばかりで、当然生徒からの恋情を受け入れられるはずもありませんでした。ところが女の方では諦められなかったようで、その教師を夜の校舎に呼び出して付き合ってくれとせがみ、教師が断るとその場で自分の腕を斬りつけたそうです」
 校内では女生徒が男性教師の前で自殺未遂を図ったと大騒ぎになり、教師は責任を取らされて退職を余儀なくされ、女の方も転校に至ったというのだ。
「それがトラウマとなってか、女は恋愛に臆病になったのではないかというのが当時の同級生らの見解でした。ゆえに老板ラァオバンへの想いも直接伝えることを躊躇ためらったのではないかと」
 告白したところで、もしも想いが叶わなければ再び傷つくことになる。それが怖くて言い出せずにいたのではないかというのだ。
 ただし想い自体は諦められない。だから興信所に就職して周一族について密かに情報を収集し、イェンのいる地下街のクラブに勤め、『白龍バイロン』などという意味深な店名のワインバーまで開いてはイェンの方から興味を持って近付いてきてくれるように仕向けたのでは――というのがリーの想像だそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子
BL
三枝貴人は総合病院で働くゲーム大好きの医者。 ある日貴人は乙女ゲームの制作会社で働いている同居中の妹から依頼されて開発中のBLゲーム『シークレット・ラバー』をプレイする。 ゲームは「レイ・ヴァイオレット」という公爵令息をさまざまなキャラクターが攻略するというもので、攻略対象が1人だけという斬新なゲームだった。 プレイヤーは複数のキャラクターから気に入った主人公を選んでプレイし、レイを攻略する。 一緒に渡された設定資料には、主人公のライバル役として登場し、最後には断罪されるレイの婚約者「アシュリー・クロフォード」についての裏設定も書かれていた。 ゲームでは主人公をいじめ倒すアシュリー。だが実は体が弱く、さらに顔と手足を除く体のあちこちに謎の湿疹ができており、常に体調が悪かった。 両親やごく親しい周囲の人間以外には病弱であることを隠していたため、レイの目にはいつも不機嫌でわがままな婚約者としてしか映っていなかったのだ。 設定資料を読んだ三枝は「アシュリーが可哀想すぎる!」とアシュリー推しになる。 「もしも俺がアシュリーの兄弟や親友だったらこんな結末にさせないのに!」 そんな中、通勤途中の事故で死んだ三枝は名前しか出てこないアシュリーの義弟、「ルイス・クロフォードに転生する。前世の記憶を取り戻したルイスは推しであり兄のアシュリーを幸せにする為、全力でバッドエンド回避計画を実行するのだが――!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件

がくん
BL
あらすじ その背中は──俺の英雄であり、悪党だった。 物分かりのいい人間を演じてきた学生、イズミケントは現実で爆発事故に巻き込まれた。 異世界で放浪していたケントを魔獣から助けたのは悪党面の傭兵マラークだった。 行き場のなかったケントはマラークについていき、新人傭兵として生きていく事を選んだがケントには魔力がなかった。 だがケントにはユニークスキルというものを持っていた。精変換──それは男の精液を取り入れた分だけ魔力に変換するという歪なスキルだった。 憧れた男のように強くなりたいと願ったケントはある日、心を殺してマラークの精液を求めた。 最初は魔力が欲しかっただけなのに── 仲間と性行為を繰り返し、歪んだ支援魔法師として生きるケント。 戦闘の天才と言われる傲慢な男マラーク。 駄犬みたいな後輩だが弓は凄腕のハーヴェイ。 3人の傭兵が日常と性行為を経て、ひとつの小隊へとなっていく物語。 初投稿、BLエロ重視にスポット置いた小説です。耐性のない方は戻って頂ければ。 趣味丸出しですが好みの合う方にはハマるかと思います。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...