90 / 101
極道恋浪漫 第二章
89
しおりを挟む
邸に戻ると遼二に紫月、そしてレイと倫周が「良かったな」と言って迎えてくれた。
「これで一件落着だな! 冰、黄の爺さんも仕事が済み次第ここへ帰って来ることになってるから安心しろ」
遼二からそう聞かされてホッと胸を撫で下ろす。
「遼二兄様、ありがとうございます」
「それより何より、お前さんがいなくなっちまってからの焔は落ち込んじまって大変だったんだ! これからはしっかり側で見てやってくれな!」
おまけにそう冷やかされて、焔はタジタジながらも嬉しそうだ。持ち帰った鍋を手に、これは冰が作ったスープなんだと自慢げに見せびらかす始末――。
「真田! 真田はいるかー」
真田というのは焔の邸の家令である。元々は焔の実母に当たる日本の財閥、氷川家で執事として仕えてくれていたベテランだが、焔が生まれてからは香港に移住して来て、真心込めて世話を焼いてくれている。焔にとっては育ての親といえるほどに信頼のおける男だ。
歳は父親の隼よりも上だが、未だ矍鑠としていて、邸の掃除から調理場のメニューまで気を配り、焔のベッドリネンなどはメイド頼みにせずに彼自らが取り替える。ともすれば焔よりも行動力があるのではというくらいの頼れる家令なのだ。その真田を大声で呼んでは、早速に持ち帰ったスープを温めてくれと満面の笑みでいる。
冰がしばしこの邸にいた際にも、まるで孫のように可愛がってくれた有り難い老人なのである。
「お呼びでございますか、坊っちゃま」
「おう、真田! こいつぁな、冰がこしらえたものなんだ。温めて晩飯と一緒に出してくれねえか」
主人の横に冰の姿を見つけて、真田も嬉しかったようだ。
「おや、冰さん! お帰りなさいませ!」
既に遼二らから事の経緯を聞いていたようで、冰の帰宅を両手放しで喜んでくれた。
「真田さん、またお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げた冰に、こちらこそと言って満面の笑みを見せてくれた。
「お前らにもちょっと分けてやろう」
スープの入った鍋を大事そうに抱えながら、焔はそう言って、遼二らを横目に不敵に笑う。真田と連れ立って自ら厨房に向かって行った後ろ姿を皆で見つめながら、やれやれと笑いの絶えないリビングに笑顔の花が咲いたのだった。
「しかし焔のヤツ、まるでガキだな。俺も付き合いは長えが、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ」
遼二が呆れ気味で肩をすくめている。
「あっはっは! 冰君が戻って来てくれたことがそんだけ嬉しいんだべ!」
紫月も朗らかな笑顔を見せる。レイと倫周は初めて会う冰に興味津々のようで、自己紹介がてら二人で彼を囲んで離さない。
和気藹々、焔邸に朗らかな笑い声が戻ってきた幸せな夜が更けていったのだった。
◇ ◇ ◇
「これで一件落着だな! 冰、黄の爺さんも仕事が済み次第ここへ帰って来ることになってるから安心しろ」
遼二からそう聞かされてホッと胸を撫で下ろす。
「遼二兄様、ありがとうございます」
「それより何より、お前さんがいなくなっちまってからの焔は落ち込んじまって大変だったんだ! これからはしっかり側で見てやってくれな!」
おまけにそう冷やかされて、焔はタジタジながらも嬉しそうだ。持ち帰った鍋を手に、これは冰が作ったスープなんだと自慢げに見せびらかす始末――。
「真田! 真田はいるかー」
真田というのは焔の邸の家令である。元々は焔の実母に当たる日本の財閥、氷川家で執事として仕えてくれていたベテランだが、焔が生まれてからは香港に移住して来て、真心込めて世話を焼いてくれている。焔にとっては育ての親といえるほどに信頼のおける男だ。
歳は父親の隼よりも上だが、未だ矍鑠としていて、邸の掃除から調理場のメニューまで気を配り、焔のベッドリネンなどはメイド頼みにせずに彼自らが取り替える。ともすれば焔よりも行動力があるのではというくらいの頼れる家令なのだ。その真田を大声で呼んでは、早速に持ち帰ったスープを温めてくれと満面の笑みでいる。
冰がしばしこの邸にいた際にも、まるで孫のように可愛がってくれた有り難い老人なのである。
「お呼びでございますか、坊っちゃま」
「おう、真田! こいつぁな、冰がこしらえたものなんだ。温めて晩飯と一緒に出してくれねえか」
主人の横に冰の姿を見つけて、真田も嬉しかったようだ。
「おや、冰さん! お帰りなさいませ!」
既に遼二らから事の経緯を聞いていたようで、冰の帰宅を両手放しで喜んでくれた。
「真田さん、またお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げた冰に、こちらこそと言って満面の笑みを見せてくれた。
「お前らにもちょっと分けてやろう」
スープの入った鍋を大事そうに抱えながら、焔はそう言って、遼二らを横目に不敵に笑う。真田と連れ立って自ら厨房に向かって行った後ろ姿を皆で見つめながら、やれやれと笑いの絶えないリビングに笑顔の花が咲いたのだった。
「しかし焔のヤツ、まるでガキだな。俺も付き合いは長えが、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ」
遼二が呆れ気味で肩をすくめている。
「あっはっは! 冰君が戻って来てくれたことがそんだけ嬉しいんだべ!」
紫月も朗らかな笑顔を見せる。レイと倫周は初めて会う冰に興味津々のようで、自己紹介がてら二人で彼を囲んで離さない。
和気藹々、焔邸に朗らかな笑い声が戻ってきた幸せな夜が更けていったのだった。
◇ ◇ ◇
34
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!
松原硝子
BL
三枝貴人は総合病院で働くゲーム大好きの医者。
ある日貴人は乙女ゲームの制作会社で働いている同居中の妹から依頼されて開発中のBLゲーム『シークレット・ラバー』をプレイする。
ゲームは「レイ・ヴァイオレット」という公爵令息をさまざまなキャラクターが攻略するというもので、攻略対象が1人だけという斬新なゲームだった。
プレイヤーは複数のキャラクターから気に入った主人公を選んでプレイし、レイを攻略する。
一緒に渡された設定資料には、主人公のライバル役として登場し、最後には断罪されるレイの婚約者「アシュリー・クロフォード」についての裏設定も書かれていた。
ゲームでは主人公をいじめ倒すアシュリー。だが実は体が弱く、さらに顔と手足を除く体のあちこちに謎の湿疹ができており、常に体調が悪かった。
両親やごく親しい周囲の人間以外には病弱であることを隠していたため、レイの目にはいつも不機嫌でわがままな婚約者としてしか映っていなかったのだ。
設定資料を読んだ三枝は「アシュリーが可哀想すぎる!」とアシュリー推しになる。
「もしも俺がアシュリーの兄弟や親友だったらこんな結末にさせないのに!」
そんな中、通勤途中の事故で死んだ三枝は名前しか出てこないアシュリーの義弟、「ルイス・クロフォードに転生する。前世の記憶を取り戻したルイスは推しであり兄のアシュリーを幸せにする為、全力でバッドエンド回避計画を実行するのだが――!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件
がくん
BL
あらすじ
その背中は──俺の英雄であり、悪党だった。
物分かりのいい人間を演じてきた学生、イズミケントは現実で爆発事故に巻き込まれた。
異世界で放浪していたケントを魔獣から助けたのは悪党面の傭兵マラークだった。
行き場のなかったケントはマラークについていき、新人傭兵として生きていく事を選んだがケントには魔力がなかった。
だがケントにはユニークスキルというものを持っていた。精変換──それは男の精液を取り入れた分だけ魔力に変換するという歪なスキルだった。
憧れた男のように強くなりたいと願ったケントはある日、心を殺してマラークの精液を求めた。
最初は魔力が欲しかっただけなのに──
仲間と性行為を繰り返し、歪んだ支援魔法師として生きるケント。
戦闘の天才と言われる傲慢な男マラーク。
駄犬みたいな後輩だが弓は凄腕のハーヴェイ。
3人の傭兵が日常と性行為を経て、ひとつの小隊へとなっていく物語。
初投稿、BLエロ重視にスポット置いた小説です。耐性のない方は戻って頂ければ。
趣味丸出しですが好みの合う方にはハマるかと思います。
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる