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極道恋浪漫 第二章
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「アタシが聞いたのは……あなたがあの冰っていう子を遊郭街から救い出す為に身請けしたらしいっていうことだけよ。カジノの老黄といえばあなたにとっても大事なお人でしょう? その老黄が養子にした子だから、あなたは手を差し伸べずにはいられなかった……。でも、そのせいであの子をお邸に引き取ることになって、付き合っていた恋人と会う時間も取れなくなったって……」
リリー曰く、例えファミリー同然ともいえる黄老人の為とはいえ、九龍城砦を治める皇帝・周焔が遊郭街から『身請け』したことで冰が図々しくも勘違いをし、焔が自分に惚れて高い身請け金を払ってくれたのだと鼻高々でいるようだと聞いたそうだ。
「だからお前さんが代わりに冰を追い出す節介を焼いたというわけか」
「節介っていうか……あなたの役に立つと思ったのよ。あなたは老黄の為に身請けしたけれど、あの冰っていう子は自分にそれだけの価値があるって……あなたを尻に敷くような態度でいたっていうから」
それを真に受けて冰に苦言を呈したそうだ。やれやれと眉をしかめる焔を横目に、今度は遼二が代わって尋ねた。
「それで? 冰には何を言ったんだ」
「アタシが……フレイの恋人で……あの子と老黄がお邸にいるせいでデートもままならなくなったって……」
「恋人だ?」
「う、嘘をついたのは申し訳なかったわ。でもどのみち彼女とあなたは深い仲だって聞いてたし……あの冰っていう子には……フレイに深い仲の恋人がいるってことを分からせられればそれでいいと思ったのよ」
「ふん――! アンタのようなデキる女が浅はかなことをしたもんだな。どうせなら冰にそんな嫌味を言う前に焔自身にひと言確認してくれりゃ良かったろうに」
「……おっしゃる通りだわ。悪かったと思ってる」
しょぼくれる彼女にこれ以上小言を言ったところで仕方ないか――。黒幕の女が誰かということも、リリーが譲り受けた太客を調べれば、例え彼女が口を割らなくとも容易に割れるだろう。
「……まさかそういう経緯だったとはな。何も知らずに黙って身を引いた冰が気の毒でならんぞ」
ボソリとつぶやかれた遼二のひと言に、今更ながらリリーも自らのしてしまったことを後悔したようだ。
「……もしかしてアタシが聞いたことは全部嘘だったっていうの? あの冰っていう子は……」
「ああ。冰は間違ってもそんなことを考える人間じゃねえさ。遊郭街に捉われた時だって、てめえのことよりも爺さんの身を案じてたくらいだ。あんたが訪ねて来たことすら焔にはひと言だって言ってねえ。本当にあんたが聞いた通りの輩であれば、迷わず焔に泣きつくか告げ口をしただろう。だが、ヤツはチクるどころか何も言わずに爺さんと出て行ったんだ」
だから自分たちがこうして確かめにやって来たのだと言った。
「……そんな……! つまり……あの子はアタシと会ったことを言わずに、黙って身を引いたっていうこと?」
「ああ、その通りだ」
「そうだったの……。アタシ早とちりして……あなたの言う通りフレイに先に相談すべきだったわね」
と同時に、自分を騙した黒幕の女に憤る気持ちを抑えては、心底申し訳なかったと頭を下げ続けた。
まあいい。とにかく真相は分かったわけだ。
それまで黙ってやり取りを窺っていたレイが、気を利かせて「そろそろお開きにするか」と切り出してくれたのは有り難かった。レイはこれからすぐにも冰のところを訪れたいという焔の気持ちを察してくれたのだ。
リリー曰く、例えファミリー同然ともいえる黄老人の為とはいえ、九龍城砦を治める皇帝・周焔が遊郭街から『身請け』したことで冰が図々しくも勘違いをし、焔が自分に惚れて高い身請け金を払ってくれたのだと鼻高々でいるようだと聞いたそうだ。
「だからお前さんが代わりに冰を追い出す節介を焼いたというわけか」
「節介っていうか……あなたの役に立つと思ったのよ。あなたは老黄の為に身請けしたけれど、あの冰っていう子は自分にそれだけの価値があるって……あなたを尻に敷くような態度でいたっていうから」
それを真に受けて冰に苦言を呈したそうだ。やれやれと眉をしかめる焔を横目に、今度は遼二が代わって尋ねた。
「それで? 冰には何を言ったんだ」
「アタシが……フレイの恋人で……あの子と老黄がお邸にいるせいでデートもままならなくなったって……」
「恋人だ?」
「う、嘘をついたのは申し訳なかったわ。でもどのみち彼女とあなたは深い仲だって聞いてたし……あの冰っていう子には……フレイに深い仲の恋人がいるってことを分からせられればそれでいいと思ったのよ」
「ふん――! アンタのようなデキる女が浅はかなことをしたもんだな。どうせなら冰にそんな嫌味を言う前に焔自身にひと言確認してくれりゃ良かったろうに」
「……おっしゃる通りだわ。悪かったと思ってる」
しょぼくれる彼女にこれ以上小言を言ったところで仕方ないか――。黒幕の女が誰かということも、リリーが譲り受けた太客を調べれば、例え彼女が口を割らなくとも容易に割れるだろう。
「……まさかそういう経緯だったとはな。何も知らずに黙って身を引いた冰が気の毒でならんぞ」
ボソリとつぶやかれた遼二のひと言に、今更ながらリリーも自らのしてしまったことを後悔したようだ。
「……もしかしてアタシが聞いたことは全部嘘だったっていうの? あの冰っていう子は……」
「ああ。冰は間違ってもそんなことを考える人間じゃねえさ。遊郭街に捉われた時だって、てめえのことよりも爺さんの身を案じてたくらいだ。あんたが訪ねて来たことすら焔にはひと言だって言ってねえ。本当にあんたが聞いた通りの輩であれば、迷わず焔に泣きつくか告げ口をしただろう。だが、ヤツはチクるどころか何も言わずに爺さんと出て行ったんだ」
だから自分たちがこうして確かめにやって来たのだと言った。
「……そんな……! つまり……あの子はアタシと会ったことを言わずに、黙って身を引いたっていうこと?」
「ああ、その通りだ」
「そうだったの……。アタシ早とちりして……あなたの言う通りフレイに先に相談すべきだったわね」
と同時に、自分を騙した黒幕の女に憤る気持ちを抑えては、心底申し訳なかったと頭を下げ続けた。
まあいい。とにかく真相は分かったわけだ。
それまで黙ってやり取りを窺っていたレイが、気を利かせて「そろそろお開きにするか」と切り出してくれたのは有り難かった。レイはこれからすぐにも冰のところを訪れたいという焔の気持ちを察してくれたのだ。
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