極道恋浪漫

一園木蓮

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極道恋浪漫 第一章

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 椿楼とはこの店の名だ。焔の言うように、椿は主に日本での呼び名であって香港で椿といえば茶花と記すはずだからだ。
「おっしゃる通りだけどな。茶花より椿の方が妖艶な印象だろう?」
 字体が気に入っているんだよね――と、男はまたもニヤっと意味ありげな笑みを浮かべてみせた。
 源氏名の方は紫月ズィユエとある。
 紫の月とはこれまた艶めかしい。茶花よりも椿の字を好むというくらいだから、おそらくこの紫月ズィユエという源氏名にもこだわりがあってのことなのだろう。イェンも遼二もそんなふうに思っていた。
紫月ズィユエ――というのか?」
「そう、紫月ズィユエ。あんたらの言うところの御職おしょく男娼よ。と言ってもこの店だけってわけじゃねえんだけどさ」
「……この店だけじゃねえというと?」
「俺は男娼でもあるけど、ここ遊郭街を治めてる頭目とうもくの下で細々とな。雑用なんかもやってる」
「頭目の雑用だと?」
「つまり、秘書というわけか?」
 イェンと遼二が交互に訊く。
「秘書? ああ、まあそんなニュアンスと受け取ってもらって構わねえけどな」
 紫月ズィユエという男は可笑しそうに笑ってみせた。
「俺は主に男遊郭の方の雑務に携わってるんだが、女遊郭の方はまた別でね」
「――なるほど。じゃあ、あんたが男遊郭の代表ってわけか」
「まあそういうこと。見ての通りこの遊郭街は案内所を起点に二手に分かれる造りになってるだろ? 門を入って右側に進めば男遊郭、左に進めば女遊郭となってるってわけ」
 そういうことか。だから先程の案内所で遊女か男娼の希望を訊かれたというわけだ。
「ってことは――女遊郭にもあんたと同様に仕切っているかしらがいるってわけだな?」
「そ! 名は酔芙蓉。美人だけどめちゃくちゃおっかねえ姉ちゃんさ」
 ひょうきんな素ぶりで肩をすくめながらニヤっと笑う。
 つまり女遊郭と男遊郭には頭目とうもくの下で雑務を担う遊女のかしらと男娼のかしらが存在し、彼がその頭というわけか。とすれば、この紫月という男娼は頭目に非常に近い人物ということになる。
 偶然ながらもこのような男と真っ先に出会えたことは幸先がいい。やはり遼二の言う通りだった。今更ながらあそこで銭を惜しまなくて良かったとイェンは苦笑させられる羽目となった。
「ところで――砦の皇帝様がわざわざ出向いて来るなんてさ。単なる遊興とは思えねえよね? 目的は遊郭街ここの偵察ってところか?」
 煙管に火を灯しながら紫月が訊く。綺麗な顔に似合わず、切り出し方はえげつなくも直球だ。そんな男を相手にごまかしはかえって逆効果かも知れない。イェンも遼二も腹の探り合いを飛び越して、真っ向本題をぶつけてみることにしたのだった。
「ふむ――。偵察というわけじゃねえ。ここであんたのような男に会えたのも何かの縁だ。駆け引きは必要なかろう」
 イェンはそう言うと、懐に持っていた雪吹冰の写真を差し出してみせた。
「実はな、人捜しの為にやって来たのだ」
 紫月ズィユエという男は「ふぅん?」と言いながら写真を手に取った。
「そいつは知り合いの男の息子なんだが、ひと月前から行方知れずでな。この遊郭街で見掛けたという情報を小耳に挟んだんだ」
「行方知れず――ね。つまりあんたらはこの子が誰かに誘拐でもされて、この街に売り飛ばされたとでも思ってるわけか?」
「……まあ、早い話がそういうことだ。その息子がここに居ねえと分かりゃそれまでだ。他を当たるしかねえが、とにかくは確かめてみねえことにはと思ってな」
「ふぅん、話は分かった」
 と、酒の支度が整ったのか、先程の下男が膳を携えてやって来た。
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