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終わりへ

58.真実を知り

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 ーーーーーミカーーーーー




 ようやく全貌を見終わった。
 オレの視点とマイヤの視点は大きく違い、オレが何を知らなかったのかがよく分かる。
 ………神がオレを閉じ込め続けた意味も。あいつを殺したことは後悔していない。理由がどうであれした事は変わらないから。それでも、心の内に全く気付けなかったことが悔しくて痛い。どんなに非情で頑固で自分勝手でも、あいつは『神』である事よりオレの『親』であることを選んでいた。正真正銘のバカな親父だ。

 今更、泣いてやることも出来ない。死を悲しむことすらさせてくれないんだな。

 マイヤが気付いたことに驚いてもいるが、なんとなく納得もした。流石というべきか、画家としての観察眼は思っていた以上に優れている。いつの間にかオレより遥かに大人だったんだな。

 今も何が正解だったのか分からないけど、それでもオレはディークやマイヤに出会って心を知ったことを後悔しない。二人は空っぽだったオレに友愛と家族愛をくれた。誰かを愛することを知らなかったら、きっとイオリがくれた苦しいほど大きく温かい幸福を知ることもなかっただろう。


 そう考えると、きっと痛みも苦しみも幸せになるために必要な事だったんだろうな。




 ーーーーーデュランーーーーー




 初めて知った先生の過去。先生は自分が思っていた以上に体を張っていたのか。
 何度死の苦痛を味わおうとも、闇に完全に呑まれても、気を失うほどのショックを感じても、根本はずっと変わらなかった。
 私はこんな人に育てられていたのか。それは喜ぶべきか、悔やむべきか。私も何も見えていなかった。

 父の最後の願い。それは全く覚えていなかった。先生が私にかけた言葉も聞かず、ただ悲しみに暮れていただけ。私からも何か言葉をかけられたなら、少しは救えただろうか。分かり合えただろうか。


 天使に囚われていた時にマイヤさんが言った『助けに来てくれる人』、その一人のマイヤさんの兄が先生であることも知らなかった。先生とマイヤさんが共にいる場面を見たことが無かっただけで接点がないと思い込んでいた。…………先生は確かに私を何度も助けていたのに。大戦の時、なんの迷いも無く私の盾になろうとしていた。私が魔王として動けるように教育しながら国を治めていた。毒味をしては何度も死にかけ、それでも辞めなかった。大戦の後、私が感情の制御ができず暴れた時以来、私は傷ひとつ負っていない。先生は何度もその身を危険に晒していたというのに。

 私はどれだけ守られていたのだろうか。




 ーーーーーリルジーーーーー




 天魔大戦の擬似観戦なんて貴重な体験。それは長いようであっという間だった。
 ミカと出会ったばかりの時に言われた雰囲気の似ている友人とは初代魔王の事だったか。魔王と雰囲気が似てるなんてなんか不思議だなぁ。

 でも、確かに似ていても確実に違うとこもある。

 魔王ディーク。彼は僕と違って優しすぎた。もっと非常になれたら結果は違っただろうな。もし僕が同じ状況になったら、どんな大切な子供でも切り捨てるだろう。跡継ぎは作れる。でも滅んだ国は戻らない。王ならば家族よりも国を優先すべきだ。分が悪い相手に戦いを挑むそれは、愛に溺れ役目を見失うそれは『愚王』の特徴であると言い切れるだろう。王とは常に不自由でないと成り立たないのだから。


 でも、みんながちょっと羨ましいな。役目も大義も見失うほどの大きく盲目的な愛情。王には邪魔でも人には当たり前にある『想う心』。ミカが必死に追い求めたのも理解できるのがちょっと悔しいな。
 まぁ、同じ轍を踏む気はないけどね。




 ーーーーーヒルメルーーーーー




 にわかには信じられない。
 ずっと悪魔が『悪』で天使が『善』だと信じて疑わなかった。
 なのに、あれほど非情なことが平気で出来るとは。本当の『悪』は天使と、同胞を忌み殺してきた人間じゃないですか………!己の単純な考えが、昔の同胞の行いが、あまりにも恥ずかしい。


 力あるものは傲慢になり、更なる力を、権力や立場を求める。そのような傲慢で強欲な者を人間以上に天使を指しているなんて。

 私は決めました。これからは自分でしっかり確認するまでは勝手に善悪を判断しないと。
 それが今からできることなのでしょう。




 ーーーーーラドンーーーーー




 これを見て、ふとあの日のことを思い出した。
 ミカが空腹に耐えきれずに人間を喰った大雨の夜のことを。

 あいつはただの人間のイオリが自分を受け入れただけで困惑していた。それは、今まであいつに天使も悪魔も神ですらも冷たい目を向けていたからなのだろうか。
 一体どんな気持ちで番人として人間を殺し続けたんだ?悪魔が人間を殺さないように、ずっと一人で汚れ仕事を請け負って。自ら『化け物』のように動いていたのか。

 俺にとってミカは仇だ。でも、もし自分がその立場だったらと考えるとゾッとする。これ以上少しでも恨み続けるのが忍びないくらいには。
 こう考えると、命はあまりにも脆く軽すぎる。それに対しあいつは心臓を貫かれても撃ち抜かれても死なない。きっと逃げれたろうにそれでも生き続けるミカは、こんな世の中が地獄に見えているかもな。


 やっぱ、すげぇよ。










 ーーーーーイオリーーーーー




 これがミカの過去。俺が出会う前のミカを作っていたもの。

 あまりにも不憫すぎる。心を求め、家族や友人を持っただけでこの仕打ちか。純粋な探究心と優しさが仇になってしまっている。
 ディークが死に、マイヤが眠ってからずっと孤独だったのだろう。力や体を求められても、名前を呼びたいと思う者は誰もいなかった。まるで本当に道具のように過ごしていたのか。

 気がつけば俺は泣いていた。過去を見るだけでもここまで苦しいのに、全く共感しきれない。その苦しみはあまりにも未知数だ。


「イオリ、悪い。嫌なものを見せたな。」


 涙を流す俺に気付いたミカは俺に謝った。
 違う、ミカは何も悪くない。でも誰が悪いとも言い切れない。事の発端が何かと考えればそれは、神の友人であった異界から来た『桜』という者だろう。しかしそれも神の目の前で人間を殺した理由も、人間を悪魔に変えた理由も分からな…………


』?


 ただの偶然か?しかし、マイヤが水から読み取った記憶のあの半人半龍、見覚えしかない。



 一つの可能性を考えた瞬間、体は焼けるような熱を持った。


 他の勇者はそれぞれ文武芸と優れている。
 判断力と記憶力と多くの知識を持つシュウ。小柄な体に合わずアスリート並みの身体能力を持つタマキ。音楽に限らず多才なセンスを持ち完璧な切り返しが出来るアンナ。

 俺は共感能力が高いが、それ以外は並程度かそれ以下。勇者として召喚されるには弱い。まさか、俺の能力は…俺がこの世界に召喚されたのは…………………
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