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53.天魔大戦 ④

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 翼を封じられ天空宮に帰れない大天使。ディークの元に世話になると言う話も出たが、大天使はあまり人前に出ては行けないルールがあるため断念した。その代わり、翼の封印が解けるまで湖の近くに小さな小屋を作り、そこで暮らすことになった。

 大天使と共に暮らすことを選んだマイヤは、小屋に道具を揃えて絵を描いて過ごした。そしてディークはたまに遊びに来るようになった。
 なんて事ない話をして、湖で遊んで、魔王や天使という立場も肩書きも無視してはしゃいだ。


 しばらくして、大天使は誰よりも無邪気に笑えるようになった。
 人間や悪魔の暮らしに興味を持った大天使は、時間をかけてレンガの新しい小屋を建てた。そこには暖炉や台所もあり、人々の暮らしをなぞるくらいは出来る。
 大天使は毎日自ら薪を割り、狩をして料理を作った。洗濯や水浴びをして、自作のふかふかベッドで眠る毎日。元々住んでいた木造の古屋はマイヤのアトリエとなり、夜は二人でレンガ造りの小屋で眠る。
 そんな、なんて事ない日常を送った。




 それから百年も経たないある日、突然大天使の翼は復活した。
 体に異変を感じ、何時間と寝れずにいた時のこと。夜風に当たろうと外に出ると、突如聖なる子らが集まり封印を解いたのだ。体の異変は封印が弱まっていた影響で、聖なる子らは封印が弱まった事で解けたのだろう。

 翌日、翼が戻り飛べるようになった事をディークとマイヤに告げた。


「そっか、良かったぁ…。翼が無いなんて想像しただけでも不便だもんね。」
「それじゃあ天使達のとこに帰るの?」


 大天使は首を横に振った。翼が戻ったが、天空宮に帰るつもりは無いと。
 それもその筈。戻ったところで神から咎められる事は安易に想像出来る。最悪、二度と地上に訪れられなくなる可能性もある。
 そう考えた大天使は、ずっとここで暮らしたいと考えていた。


「オレは戻る気は……」
「ダメだよ、兄様。」


 しかし、マイヤはここに留まることを止めた。そしてディークもマイヤの意見に頷いた。
 幼い心しか持たない大天使は、感情より優先すべき事があることに気付けなかった。


「ずっとここに居たら、いつか神様に見つかっちゃう。そうしたら兄様もボクもディーク君もみんな消されちゃう。」
「あ………」
「大天使さん。僕はいつまでも待てるから、今は神様を説得した方がいいと思うな。何百年だって待つよ。何も怯えずに、当たり前に会えるようになったら嬉しいな。」


 感情のままに動けば未来は無いことを、大天使はここでようやく気付いた。
 大天使とマイヤは天空宮に戻り、マイヤは本殿に、大天使は離れに帰った。




 離れに戻った大天使の前には、驚く神が姿を現した。


「翼が戻るのはまだ先の筈だが……」
「聖なる子らが解いてくれた。」
「なんと…、あの子らが貴様の様な愚か者に力を貸すとはな。まあよい、早々に此処へ帰ってきたのだ。二度と同じ過ちを繰り返さない事だな。」


 ずっと変わらない冷たい声で淡々と叱責する神を、大天使は睨みつけた。『心』を求める事を悪とする理由が、大天使としての役割を強要する理由が理解出来ないでいる。


「……んで、」
「ん?まだ何かあるのか。」
「なんで、オレを大天使なんかにした!?」


 何十年と苦しみながら考え、閉じ込め続けた思いを爆発するように吐き出し始めた。それは止まる事なく、神が止めようと口を挟もうと止む事は無い。


「なんだその口調は、人間の真似事でもしているのか?」
「五月蝿い!なんでお前なんかに閉じ込められないといけないんだ!?オレは自分の事すら決められないのか!?ずっと孤独なまま、何も得ずに役目を果たすだけの道具になれと、お前はそう言うのか!?」
「…ついに乱心したか。」


 神は杖で大天使の胸を貫いた。いつもの通りに痛みで間違いを正そうとした神だが、もはや大天使にそれは効かなくなっていた。


「そんなに痛めつけたいなら好きにすればいい…、オレはお前の行動が常軌を逸してることくらい知ってる!」
「人間の常識など我らには無関係だ!」
「よくそれで『神様』なんて言える!傲慢にも全て思い通りになるなんて考えてる程度の知れた神が、人や心の価値を知らずに何もしない癖に!お前こそ愚か者の筆頭だ!」
「貴様……!」


 神は雷や杖を使って何度も大天使を痛めつけた。次第に大天使は何も反応しなくなり、意識を保ったまま体の自由を失った。その頃には部屋は赤く染まり、神は返り血で血生臭くなった。
 そして大天使はその様子を見て


「……ほら、み、ろ………。神なん、て、言えど、…っただ、の……、子殺し、だ…………」
「黙れ。」
「じぶ、…の……、後け……い、っの……血は…、おのれ、っと…、おなじ……で、……つめた、かろ…う………」
「黙れ…。」


 そのまま大天使は力尽き、深い深い眠りに着いた。神の力による傷はあまりにも酷く、回復は簡単にできるものではない。


 身体が治り次に目覚めたのは、百年以上が経った時だった。
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