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終わりへ
45.夢の正体
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俺から人間じゃ無い気配?それもシュウの知らない…、つまりミカ以外の。
それを聞いた途端、急に頭が痛み始め、そのまま意識が消えた。
意識が消えたと思えば、いつの間にかいつも見る夢の中にいた。まだ頭がくらくらするし少し痛い。……痛い?夢じゃ無いのか?
ゲーミングライトのような光が瞬く場所で立ち尽くしていると、赤髪の悪魔が飛んできた。
今回は逃げずに様子を見る事にしたが、やはり敵意は無さそうだ。ワインレッドの長髪と、鮮やかな赤い瞳。黒に近い紫掛かった角と尾と羽。どこか若さを感じる優しい顔立ち。この悪魔が魔王……。
「また会えて良かったよ、イオリ。僕が分かるかい?」
「……魔王。」
「うん。でもそれしか知らないみたいだね。」
そりゃあそうだ。魔王のことなんて記録にも無ければミカも教えてはくれなかった。
魔王は優しく微笑んでから綺麗なお辞儀をした。
「僕はディーク。悪魔の国『ディークリード』の創立者で初代魔王。そして……ミカの親友さ。」
悪魔の国の創立者で初代魔王?魔王は…ディークは俺の知らない情報を言った。ならこれはやっぱり夢じゃ無いのだろう。
「この状況に混乱してるみたいだね。大丈夫、それが普通だよ。ミカですら夢か現実か分かっていなかったんだから。」
「なら、ここは一体なんだ?」
「ここは『意識』だよ。夢と同じだけど違う…意識の世界。簡単に言えば自分の頭の中、かな。」
自分の頭の中…に、なんで魔王が居るのか疑問にも感じる。でも、確かに体の感覚や痛みがある。意識の中でも神経はあるのだろうか。それともファンタジーな要因か。
「ところでなんだけど、イオリはもしかしてミカの恋人?」
「……あぁ。そのはずだ。」
「ハッキリしない答えだね。何があったのか聞かせてくれるかい?僕は意識の中にしか存在出来ないし、記憶を読み取ることも出来ないんだ。」
今起きてることを簡潔に教えた。ミカが一人で天使と戦っていること、そして俺を巻き込まない様に別れようとしていたことを。
その話を聞くとディークはくすくすと笑い始めた。
「彼らしいなぁ。僕も似た様な経験があるんだ。」
「似た様な?」
「うん。彼の正体は知ってる?」
「………大天使?」
ディークは頷いた。
俺はミカに直接教えてもらった訳じゃ無いから確信は無い。ただ、これでようやくハッキリした。
ふと、一つの疑問が浮かんだ。天魔大戦の絵画に描かれていた『頭の無い天使』はミカだったのか、と。本当にあれが大天使なのかは分からないけど、元々が天使なら首が無い方がミカでも不思議では無い。
「彼はね、大天使という存在でありながら天使を裏切ったんだ。神を殺してまで。」
「神を……?」
そう言えば陛下が教えてくれたミカの言葉。
『世界と繋がった魂を断ち切れるのは自分か神だけ。』
そもそも神を殺せるのは大天使だけなのかも知れない。なんで神を殺したのか分からないけど、それはミカにしか出来ないことだったのかも知れない。
「ねぇ、人間は天魔大戦をどう語り継いでいるのかな。」
教えられたことをそのまま話した。
既にその歴史が事実では無いことは分かっている。本当の歴史がどうなのか、ここで分かるだろうか。
一通り話したところで、ディークは苦しそうに俯いた。
「…………それを、人間たちは信じているんだ。やっぱり昔の遺恨は残るのかな…、そんなに悪魔が嫌いなのかなぁ………。」
「今は誰も本当の事を知らないだけだ。昔の人がそう言ってたから正しい、なんて考えしか出来ない。短い命しか持たない人間らしいとこではあるけどな。」
「それもそうだね。」
重苦しい空気が流れる。
やはり、悪魔の印象がこの世界に来たばかりの時と違う。闇の生き物と呼ばれていたけど、人間のようにしか見えない。それがディークだからなのか、悪魔は人間と同じ様な種族だからなのかは分からないけど。
「確かに、人間らしいなんて思うけどさ。……でも悪魔だって人間だよ。ただ姿と力が違うだけで、人間と同じ魂なんだよ。」
「……悪魔が人間?つまり、悪魔は種族じゃ無くて人種だってことか?」
「そう。悪魔は魔力が多過ぎる人間。千年以上前に流行った病が原因の変異体なんだ。今の人達は魔力の補給がし辛くなるよう遺伝子を改変させられたんだけどね。」
『悪魔が人間』なんて衝撃の事実を知ってもあまり驚かない。むしろどこか納得が行った。
人間を悪魔にする病があるなんて思わなかった。きっと治せない代わりに原因となる魔力が少なくなるよう調整されたのだろう。そりゃあ、異世界から召喚された方が強いに決まってる。異世界人にはその病が無いのだから。
第四種は魔力が正しく補給された人間。そう言う事なのだろう。
「ねぇ、僕の代わりに本当の事を教えてあげて欲しいんだ。僕の魂はもう直ぐ消える。死んでから千年も持っただけ奇跡なんだ。」
「分かった。」
「それと……お願いが多くてごめんね?僕の親友を助けて欲しいんだ。」
そう言いながらディークは力を一点に集めた。そしてその力を俺の中に押し込むと、体の感覚がじわじわと変わっていく。
少しして、やっと自分の身に起きた変化を理解した。ドラゴンの角と尾、そして羽。悪魔の姿と力が俺に移された。
「相手は天使、空中戦は避けられないだろう。だから…全てを託すよ。お願い、僕達の力で、僕達の大切な人を助けて。」
そう言って少しずつ姿が消えていくディーク。どうやらこれで終わりみたいだ。
まだ聞きたいことがあるが、それはミカ本人に聞こう。
「そうだ、知ってるかい?悪魔は転生しないんだ。自分の魔力に魂が耐えきれないからね。でも、君に全部あげたから僕は転生出来るかも!記憶は無くなるだろうけど、また君たちに会えたらいいな!」
「あぁ、また会える日を待ってる。……ミカと二人で。」
そしてディークは消えた。幸せそうな笑顔を最期に浮かべて。
俺は悪魔の力と姿を手に入れた。……悪魔になったと言うべきか。どんどん正しい道から外れていると思うが、それでも…闇の存在と呼ばれても自分の思うままに行こう。
ミカ、今行くから。
それを聞いた途端、急に頭が痛み始め、そのまま意識が消えた。
意識が消えたと思えば、いつの間にかいつも見る夢の中にいた。まだ頭がくらくらするし少し痛い。……痛い?夢じゃ無いのか?
ゲーミングライトのような光が瞬く場所で立ち尽くしていると、赤髪の悪魔が飛んできた。
今回は逃げずに様子を見る事にしたが、やはり敵意は無さそうだ。ワインレッドの長髪と、鮮やかな赤い瞳。黒に近い紫掛かった角と尾と羽。どこか若さを感じる優しい顔立ち。この悪魔が魔王……。
「また会えて良かったよ、イオリ。僕が分かるかい?」
「……魔王。」
「うん。でもそれしか知らないみたいだね。」
そりゃあそうだ。魔王のことなんて記録にも無ければミカも教えてはくれなかった。
魔王は優しく微笑んでから綺麗なお辞儀をした。
「僕はディーク。悪魔の国『ディークリード』の創立者で初代魔王。そして……ミカの親友さ。」
悪魔の国の創立者で初代魔王?魔王は…ディークは俺の知らない情報を言った。ならこれはやっぱり夢じゃ無いのだろう。
「この状況に混乱してるみたいだね。大丈夫、それが普通だよ。ミカですら夢か現実か分かっていなかったんだから。」
「なら、ここは一体なんだ?」
「ここは『意識』だよ。夢と同じだけど違う…意識の世界。簡単に言えば自分の頭の中、かな。」
自分の頭の中…に、なんで魔王が居るのか疑問にも感じる。でも、確かに体の感覚や痛みがある。意識の中でも神経はあるのだろうか。それともファンタジーな要因か。
「ところでなんだけど、イオリはもしかしてミカの恋人?」
「……あぁ。そのはずだ。」
「ハッキリしない答えだね。何があったのか聞かせてくれるかい?僕は意識の中にしか存在出来ないし、記憶を読み取ることも出来ないんだ。」
今起きてることを簡潔に教えた。ミカが一人で天使と戦っていること、そして俺を巻き込まない様に別れようとしていたことを。
その話を聞くとディークはくすくすと笑い始めた。
「彼らしいなぁ。僕も似た様な経験があるんだ。」
「似た様な?」
「うん。彼の正体は知ってる?」
「………大天使?」
ディークは頷いた。
俺はミカに直接教えてもらった訳じゃ無いから確信は無い。ただ、これでようやくハッキリした。
ふと、一つの疑問が浮かんだ。天魔大戦の絵画に描かれていた『頭の無い天使』はミカだったのか、と。本当にあれが大天使なのかは分からないけど、元々が天使なら首が無い方がミカでも不思議では無い。
「彼はね、大天使という存在でありながら天使を裏切ったんだ。神を殺してまで。」
「神を……?」
そう言えば陛下が教えてくれたミカの言葉。
『世界と繋がった魂を断ち切れるのは自分か神だけ。』
そもそも神を殺せるのは大天使だけなのかも知れない。なんで神を殺したのか分からないけど、それはミカにしか出来ないことだったのかも知れない。
「ねぇ、人間は天魔大戦をどう語り継いでいるのかな。」
教えられたことをそのまま話した。
既にその歴史が事実では無いことは分かっている。本当の歴史がどうなのか、ここで分かるだろうか。
一通り話したところで、ディークは苦しそうに俯いた。
「…………それを、人間たちは信じているんだ。やっぱり昔の遺恨は残るのかな…、そんなに悪魔が嫌いなのかなぁ………。」
「今は誰も本当の事を知らないだけだ。昔の人がそう言ってたから正しい、なんて考えしか出来ない。短い命しか持たない人間らしいとこではあるけどな。」
「それもそうだね。」
重苦しい空気が流れる。
やはり、悪魔の印象がこの世界に来たばかりの時と違う。闇の生き物と呼ばれていたけど、人間のようにしか見えない。それがディークだからなのか、悪魔は人間と同じ様な種族だからなのかは分からないけど。
「確かに、人間らしいなんて思うけどさ。……でも悪魔だって人間だよ。ただ姿と力が違うだけで、人間と同じ魂なんだよ。」
「……悪魔が人間?つまり、悪魔は種族じゃ無くて人種だってことか?」
「そう。悪魔は魔力が多過ぎる人間。千年以上前に流行った病が原因の変異体なんだ。今の人達は魔力の補給がし辛くなるよう遺伝子を改変させられたんだけどね。」
『悪魔が人間』なんて衝撃の事実を知ってもあまり驚かない。むしろどこか納得が行った。
人間を悪魔にする病があるなんて思わなかった。きっと治せない代わりに原因となる魔力が少なくなるよう調整されたのだろう。そりゃあ、異世界から召喚された方が強いに決まってる。異世界人にはその病が無いのだから。
第四種は魔力が正しく補給された人間。そう言う事なのだろう。
「ねぇ、僕の代わりに本当の事を教えてあげて欲しいんだ。僕の魂はもう直ぐ消える。死んでから千年も持っただけ奇跡なんだ。」
「分かった。」
「それと……お願いが多くてごめんね?僕の親友を助けて欲しいんだ。」
そう言いながらディークは力を一点に集めた。そしてその力を俺の中に押し込むと、体の感覚がじわじわと変わっていく。
少しして、やっと自分の身に起きた変化を理解した。ドラゴンの角と尾、そして羽。悪魔の姿と力が俺に移された。
「相手は天使、空中戦は避けられないだろう。だから…全てを託すよ。お願い、僕達の力で、僕達の大切な人を助けて。」
そう言って少しずつ姿が消えていくディーク。どうやらこれで終わりみたいだ。
まだ聞きたいことがあるが、それはミカ本人に聞こう。
「そうだ、知ってるかい?悪魔は転生しないんだ。自分の魔力に魂が耐えきれないからね。でも、君に全部あげたから僕は転生出来るかも!記憶は無くなるだろうけど、また君たちに会えたらいいな!」
「あぁ、また会える日を待ってる。……ミカと二人で。」
そしてディークは消えた。幸せそうな笑顔を最期に浮かべて。
俺は悪魔の力と姿を手に入れた。……悪魔になったと言うべきか。どんどん正しい道から外れていると思うが、それでも…闇の存在と呼ばれても自分の思うままに行こう。
ミカ、今行くから。
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