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41.ドレスアップ

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 とりあえずイオリを起こしに部屋に戻った。そしてやっぱり寝たままで、なんとか体を揺すりまくって起こした。まだぼーっとしてるけど。


「おはよ、イオリ。」
「………」
「おーい、起きろー。」


 目は覚めて体も起こしていても、焦点が合っていないようで本当に起きてるのかとても怪しい。
 そう呆れていると、いきなり腕をがしりと掴まれてベッドにそのまま押し倒された。寝起きの割に力が強く、脚まで絡められて身動きが取れない。


「おい、寝ぼけてるのか?それとも朝から盛って……んっ!?」


 なんで急にこんな深いキスを……!?いやいやいや、これ、一瞬で頭がおかしくなるっ……!なんっ、喉まで舌突っ込まれてんだけど…!?しかも、なんか当たって……って、勃ってるんだけど?イオリも、オレも……。


「んっ、んぐっ…!っは……!え、ぇえ?何……!?」
「……夢じゃ無いよな?ちゃんと、居るんだよな……?」


 オレがそばにいる事を実感したみたいだ。安堵したのだろうか、そのまま覆い被さりまた眠った。

 ………って、寝るなー!


「ちょ、イオリ!オレ起こしに来たんだけど!?」
「う……ん…?……はよ。ミカ、顔が赤いぞ。」
「誰のせいだと!」


 急に口の中犯されて興奮が収まらないってのに他人事みたいに言ってくれる。状況を理解したのか、困った顔のイオリはオレに軽く口付けてから頭をくしゃりと撫でた。


「悪かった。鎮めるの手伝うから許してくれ。」
「……それだけで止められるよな?」
「流石に時と場合は選ぶ。」


 ならよし。……じゃ無かった!嘘だろチョロすぎるぞオレぇ……。
 結局、こんな朝っぱらから盛ってしまったオレ達は軽く抜き合ってから支度に入った。




 いつもなら寝坊助なイオリが起きる時間、大掛かりな準備に向かったイオリを部屋で待っている。今日の主役なだけあって、準備に時間が掛かってるみたいだ。

 それにしても、イオリが過ごしている部屋に取り残されると、残り香みたいなのが気になる。待ってる時間が退屈だからとベッドに寝っ転がったは良いものの、染みついた匂いが昨夜を思い出させる。
 安心して落ち着くくせに、すっごくドキドキする。

 ダメだ、イオリに会いたいと思ってた分、実際に会った時の反動が凄い。心も体もイオリを求めてるって嫌ってほど実感する。
 何だこれ…、あいつは悪魔か?魅了の力でも持ってるのか?
 そんなバカを考えるくらいには虜なんだろう。既にサキュバスの体じゃ無いのに、イオリを前にすると飢えが抑えられない。


「はぁ……しんど………」


 正直、めっちゃイオリのそばに居たい。頭撫でられたいし、苦しいくらい強く抱きしめて欲しいし、どんな事でも声が聞きたいし、息が出来ないくらいキスしたいし、体だって…………
 すっごい欲張りだなぁ、オレ。多分直接言えばしてくれそうだけど、今日でお別れなのにあんまし名残惜しくしたく無い。


「ミカ、戻ったよ。」


 いつの間にか戻ってきていたイオリ。ドアの開閉に気付かないほど悶々と考えていたオレは、普通に恥ずかしさで顔が熱くなる。いや、だってさ、考えてたことが……


「ミカ?どうした?」
「い、イオリぃ………」


 若干涙声で反応してしまった…。しかも、ドレスコードのイオリがあまりにもカッコ良くって目が潰れそうだ。
 やっぱりいつも通り黒尽くめだけど、いつものシンプルな者とは違うボタンやベルトで装飾されたロングコートがあまりにも似合いすぎる。赤い宝石が控えめに使われたチョーカーとイヤーカフも、普段着飾らないイオリにギャップが生まれている。
 そして何より!前髪がセットされてセクシーな目元と泣きぼくろが露出されている!しかもメガネ無し!恋人オレだけが見れる魅力だと思ってたから惜しくも感じる。けどかっこいいんだよなぁ。


「勇者って言う割には悪魔っぽいよな。ただ、壊滅的に白い衣装が似合わなくて……」
「最高か?」
「…ミカがお気に召したなら良かった。」


 そりゃあお気に召しますとも!
 ただ、やっぱり他の人に見せたく無いな、なんて思う。けどそれは独占欲みたいでなんか恥ずかしいから直接は言わないけど。


「ところで、さっきからどこか様子がおかしい気がするけど…」
「そ、それは、その、聞くな………!」


 恥ずかしいことばっか考えてたんだよ!言えるか!
 とにかく真っ赤な顔を何とか隠そうと手で覆った。けど、まぁ無意味だ。イオリはそっぽ向いたオレの肩にポンと手を置いた。


「あんまり可愛い顔されると困るな。せっかくの衣装を乱したくは無いんだ。」


 オレの情け無い姿に興奮すると来たか。物好きムッツリめ。気持ちは分からんでも無いけど。
 とりあえず、いちいち困惑しても不毛だろうと深呼吸をして落ち着いた。……やられっぱなしは嫌だな。少しくらい同じ目に合わせてやりたい。


「せっかくだ、オレも多少は洒落てみるかな。」


 座りっぱなしのベッドから降りて、服を正装の形に変えた。
 羽飾りの付いたロングブーツに左側に寄ったマント、露出した腹部に細いベルト。額と胸元には小さな黄金の石飾りが付いている。そして長い襟足の小さな一束が編まれた。
 これが正装で本来の姿。着脱が厄介だから最近は普段使用していないけど。そして、マイヤに描かれた時の姿でもある。流石にヒルメル辺りには気付かれるかな。

 大したギャップは無くてもちょっとくらいはときめくんじゃ無いだろうか。そう思ってドヤ顔でイオリの方を向くと、想定外にも険悪な表情をされた。あ、あれ?


「イオリ…?そ、そんなに似合ってないか…?」
「……軽率に肌を見せるな。」
「ぅえ?いや、イオリ全部見てるだろ。」
「俺以外に見せるなと言ってるんだ。」


 こ、この程度の露出で…?しかも腹だけだぞ?男の腹がそんなに隠さないといけないものか?
 とは言えこのドレスアップはオレの目的に関わるものでもあるんだ。今更元に戻す気は無い。

 この姿で…天使として勇者を攻撃する。それを合図に人々に避難させて、天使を敵だと認識させる。もちろん攻撃は誰も傷つかない様に打つし、これは本物の天使を誘き出す意味もある。




 ……決行まで、あと五時間も無い。
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