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悪魔、人間の本拠地へ
30.別れのため
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何も考えずに部屋から飛び出したオレは、人の気配がしない部屋のベランダにお邪魔した。
何してるんだ、オレは。イオリは悪く無いのに。こんなの八つ当たりだ。でもいっそ嫌われればいいのに。別に、オレはイオリに愛されたい訳じゃ無いから。オレがイオリを好きでいることが辛いだけだから。
どこまでも嫌われてしまえばイオリへの気持ちも断ち切れる?
冷たい夜風で頭が冷える。昔のことを途切れ途切れに思い出す。
オレが自分を『大罪人』だと確定させてしまったのは…千年以上前、か。
元から褒められたような存在では無かった。
ただ与えられた知識で与えられた役目を熟しては人形のように過ごす。何事にも無関心、無感心、何かに興味を持つことも無かった。
気晴らしをすれば『自分』が見つかるかもと思って勝手に抜け出して、そこでたった1人の友と呼べる存在に出会った。ディークはオレとは正反対で、よく笑って、よく喋って、色んなことを感じていた。そばに居て、オレは少しずつ何かを感じ始めるようになった。
ちょうど同時期だったか。マイヤと知り合ったのも。マイヤはディークと違って、オレを友ではなく兄と呼んだ。天使に近い姿で居たからだろう。家族の概念が無い天使のマイヤは家族が出来たと喜んでいた。
ディークがお気に入りの場所を見せてはマイヤが描く。天使と悪魔と化け物が共存する、不思議な時間だった。
でもそれも長くは無かった。
ディークが天使に戦争を仕掛けた事、今でも印象に残ってる。冷静さだけは欠かさなかったディークが我を忘れて単身で天使に突っ込んでくなんて。
その光景を見た時、まだオレが感じ取れない何かがあると分かった。冷静さを欠くほどの何かを………
それは、大戦の停戦と共に分かった。
オレが感じたことが無かったもの。それは『怒り』だったんだ。ディークが死んだことでようやく怒りを知った。そして同時に、守ることのできなかった自分に対する『失望』と『絶望』も。
天使側の頭と悪魔側の頭が死んだことでオレが全てを背負う事になった。それがオレの運命。分かってる。オレが天使でも悪魔でも無いから。オレがーーーだから…これは、1人で……背負わないと………………
「だから、オレにそんな器なんてねぇんだよ………!」
なんでどいつもこいつも、オレに全部託すんだ。天使も悪魔も人間も!神ですらオレ頼み!
それでもオレは世界には逆らえない。自分の為なんて許されない。そんな事すれば罰が下るのはオレだ。こんなの、呪いじゃないかよ神様…!
酷い頭痛と眩暈に、ベランダの手摺りに掴んだまま座り込んだ。
「誰?」
暗い部屋から小さな光。ランプの灯りか。
ぼやけた視界に入ったのはランプを持ったリルジ。オレが戦おうとしてることを知ってる1人だ。…少しだけ。少しなら、話すだけなら……
「君は……?」
「……オレが、分からないのか?」
オレをしっかりと見るなり顔を顰めるリルジ。確認してみると、今のオレは真っ黒だった。あれ、なんで姿が戻って……。
リルジはオレが声を発すると誰か気付いたようだ。
「ミカだよね?なんでこんなとこで泣いて…」
「悪い。適当に人のいないとこ選んだからここがどこか分かってない…。」
…見つかったのがリルジで良かった。これでヒルメルとか他の人なら大問題だ。
そしてここはリルジの私室らしい。確かに位置的にその辺…だったかも。分からない。頭が上手く働かない。
とりあえず、リルジに招かれるまま部屋の中に入った。今のオレの姿は他の奴らに見られたらマズいから。
「…それが本当の姿なんだ。」
「あぁ。割と『悪魔っぽい』だろ?」
「どうだろ。そうでもないかも。」
なんて小さく笑うリルジ。でもオレは泣き続けていた。理由も分からず。
「なんで泣いてるの?」
「…分からない。」
「苦しい事でもあった?本当は…戦いたく無いって思ってるとか?」
オレは首を横に振った。戦うのは自分の意志。天使を滅ぼすと決めたのはオレで、その気持ちに変わりはない。オレは……
「なぁリルジ。どうすればオレは、イオリと別れられる…?」
「え…、あんなに仲が良さそうなのに別れたいの?」
「………あぁ。」
何度も考えたけど、巻き込まない方法がそれしか見当たらなかった。
本当は誰にも言わないつもりだった。でも、イオリに真っ直ぐ見られた時、オレは言いそうになった。
『離れなければいけない』と
『オレは大罪人だ』と
イオリには、オレの醜いとこだけは見られたく無い。知られたく無い。少しでも美しい姿でいたい。
なのに、イオリに少しずつ崩されていく。それが怖かった。
勇者のお披露目が終わったらすぐにイオリから離れるつもりだった。それまでは恋人としてそばに居ながら、その時が来たらオレに関する記憶を消してひっそりと消えようと。
でも、その頃になればオレもイオリから離れられなくなりそうだ。
「別れて、後悔しないの?」
「イオリが死ぬよりずっといい!オレと関係があるとバレたら天使は確実にイオリを狙う。全部、断つしかないんだよ……!天使を敵に回すってのは、そういう事なんだ。」
「そう、僕は二人を無理矢理離すことしか出来ないけど…それでいいのなら。」
そしてリルジに協力してもらうことになった。オレとイオリが顔を合わせないよう。別室に戻したり、行動時間をずらしたりと。
何してるんだ、オレは。イオリは悪く無いのに。こんなの八つ当たりだ。でもいっそ嫌われればいいのに。別に、オレはイオリに愛されたい訳じゃ無いから。オレがイオリを好きでいることが辛いだけだから。
どこまでも嫌われてしまえばイオリへの気持ちも断ち切れる?
冷たい夜風で頭が冷える。昔のことを途切れ途切れに思い出す。
オレが自分を『大罪人』だと確定させてしまったのは…千年以上前、か。
元から褒められたような存在では無かった。
ただ与えられた知識で与えられた役目を熟しては人形のように過ごす。何事にも無関心、無感心、何かに興味を持つことも無かった。
気晴らしをすれば『自分』が見つかるかもと思って勝手に抜け出して、そこでたった1人の友と呼べる存在に出会った。ディークはオレとは正反対で、よく笑って、よく喋って、色んなことを感じていた。そばに居て、オレは少しずつ何かを感じ始めるようになった。
ちょうど同時期だったか。マイヤと知り合ったのも。マイヤはディークと違って、オレを友ではなく兄と呼んだ。天使に近い姿で居たからだろう。家族の概念が無い天使のマイヤは家族が出来たと喜んでいた。
ディークがお気に入りの場所を見せてはマイヤが描く。天使と悪魔と化け物が共存する、不思議な時間だった。
でもそれも長くは無かった。
ディークが天使に戦争を仕掛けた事、今でも印象に残ってる。冷静さだけは欠かさなかったディークが我を忘れて単身で天使に突っ込んでくなんて。
その光景を見た時、まだオレが感じ取れない何かがあると分かった。冷静さを欠くほどの何かを………
それは、大戦の停戦と共に分かった。
オレが感じたことが無かったもの。それは『怒り』だったんだ。ディークが死んだことでようやく怒りを知った。そして同時に、守ることのできなかった自分に対する『失望』と『絶望』も。
天使側の頭と悪魔側の頭が死んだことでオレが全てを背負う事になった。それがオレの運命。分かってる。オレが天使でも悪魔でも無いから。オレがーーーだから…これは、1人で……背負わないと………………
「だから、オレにそんな器なんてねぇんだよ………!」
なんでどいつもこいつも、オレに全部託すんだ。天使も悪魔も人間も!神ですらオレ頼み!
それでもオレは世界には逆らえない。自分の為なんて許されない。そんな事すれば罰が下るのはオレだ。こんなの、呪いじゃないかよ神様…!
酷い頭痛と眩暈に、ベランダの手摺りに掴んだまま座り込んだ。
「誰?」
暗い部屋から小さな光。ランプの灯りか。
ぼやけた視界に入ったのはランプを持ったリルジ。オレが戦おうとしてることを知ってる1人だ。…少しだけ。少しなら、話すだけなら……
「君は……?」
「……オレが、分からないのか?」
オレをしっかりと見るなり顔を顰めるリルジ。確認してみると、今のオレは真っ黒だった。あれ、なんで姿が戻って……。
リルジはオレが声を発すると誰か気付いたようだ。
「ミカだよね?なんでこんなとこで泣いて…」
「悪い。適当に人のいないとこ選んだからここがどこか分かってない…。」
…見つかったのがリルジで良かった。これでヒルメルとか他の人なら大問題だ。
そしてここはリルジの私室らしい。確かに位置的にその辺…だったかも。分からない。頭が上手く働かない。
とりあえず、リルジに招かれるまま部屋の中に入った。今のオレの姿は他の奴らに見られたらマズいから。
「…それが本当の姿なんだ。」
「あぁ。割と『悪魔っぽい』だろ?」
「どうだろ。そうでもないかも。」
なんて小さく笑うリルジ。でもオレは泣き続けていた。理由も分からず。
「なんで泣いてるの?」
「…分からない。」
「苦しい事でもあった?本当は…戦いたく無いって思ってるとか?」
オレは首を横に振った。戦うのは自分の意志。天使を滅ぼすと決めたのはオレで、その気持ちに変わりはない。オレは……
「なぁリルジ。どうすればオレは、イオリと別れられる…?」
「え…、あんなに仲が良さそうなのに別れたいの?」
「………あぁ。」
何度も考えたけど、巻き込まない方法がそれしか見当たらなかった。
本当は誰にも言わないつもりだった。でも、イオリに真っ直ぐ見られた時、オレは言いそうになった。
『離れなければいけない』と
『オレは大罪人だ』と
イオリには、オレの醜いとこだけは見られたく無い。知られたく無い。少しでも美しい姿でいたい。
なのに、イオリに少しずつ崩されていく。それが怖かった。
勇者のお披露目が終わったらすぐにイオリから離れるつもりだった。それまでは恋人としてそばに居ながら、その時が来たらオレに関する記憶を消してひっそりと消えようと。
でも、その頃になればオレもイオリから離れられなくなりそうだ。
「別れて、後悔しないの?」
「イオリが死ぬよりずっといい!オレと関係があるとバレたら天使は確実にイオリを狙う。全部、断つしかないんだよ……!天使を敵に回すってのは、そういう事なんだ。」
「そう、僕は二人を無理矢理離すことしか出来ないけど…それでいいのなら。」
そしてリルジに協力してもらうことになった。オレとイオリが顔を合わせないよう。別室に戻したり、行動時間をずらしたりと。
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