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肉食系ヒロインちゃんは、真面目系童貞君に喰べられてどろどろに溺愛される

真面目くんとサイコパス

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 図書室の奥、本棚の影の目立たない椅子に、未だえぐえぐと泣くみなりんを座らせる。

「これはもう間違いないわ。処女膜キープしつつ逆ハー狙ってるところからして、セカヒロちゃんは隠しルートの処女厨なアレクセイ狙いだね」

 私がそう言うと「嫌 ───っ!!」と、みなりんが叫んで、机に顔を伏せた。

 ちなみに、あまり重要ではないが、この世界でのみなりんの名前は、ティアラリアという。

「ま、まるちゃん!! わ、私、婚約破棄して修道院に行くっ!! 自分で、ナイフで手首切って、失血死するまで苦しみ抜くなんて、絶対にむりぃ! 怖い、私怖いの無理っ!でもアレク様に『僕の為に死んでって』言われたら、嫌って言えない。だから言われる前に修道院にいくっ」

 ちなみに、まるちゃんとは私の前世のあだ名だ。

「あー、はいはい。行けたら良いね~」

 私はみなりんの頭をよしよしと撫でてやる。

「しゅ、修道院で、アレク様の肖像画に、祈りを捧げる日々を送るんだ!!」

「いや、せっかく婚約破棄してまで修道院に行くんだからさ、そこは神様に祈っとこうよ。なんで修道院まで行って、サイコパスに祈らにゃならんのよ。サイコパスに祈りたきゃ、みなりんの部屋の自作の神棚にある『アレク様との思い出グッズ』に、二礼二拍手一礼しとけばいいじゃん」

「グッズじゃないの!あれは聖遺物なの!! アレク様は、神様の最高傑作で崇め奉る存在なのぉ!!」

 机にうつ伏せになったまま、みなりんが叫ぶ。

「うん、意味わからん」

 私が言うのもあれだが、みなりんはあほだ。愛すべきあほだ。理由はわからんが、性格も口も悪い腹黒サイコパスを神聖視している。再び私がみなりんの頭をよしよしした時。





「あのさ、図書室では静かにしてくれない?」

 少し高めの、けれど妙に色気のある声が響いた。


「……出た。ちっともお助けしてくれなかったお助けキャラに、サイコパス」

 小さく呟いて、舌打ちしてしまう。


 私たちの前には、ファーストシーズンのお助けキャラ兼セカンドシーズンの攻略対象である、セカヒロちゃんの義弟の真面目くん(当社比)と、みなりんの婚約者であるサイコパス(公式発表)な隠しキャラがいた。


「ちょっとミア、僕のティアラを泣かせないでくれる?」

 ちなみにミアは私の愛称だ。実の所ファーストのヒロインである私は、この隠しルートのサイコは攻略していない。でも、攻略しなくても集められるスチルを集めているうちに、思ったことをずけずけと口にできるくらいには、仲が良くなってしまった。



「女を所有物のように言うな。それに私が泣かせたんじゃないわよ、この子が自分で勝手に泣いてるのよ」

 反論する私を無視して、アレクセイの声に反応したみなりんが、ガバッと顔をあげる。

「ア、アレグさまぁ~。私、痛いのも苦しいのもいやです~」

 えぐえぐ泣きながら、突然現れたアレクセイにみなりんが必死に訴えている。
 アレクセイはそんなみなりんの目元にハンカチを当てながら、みなりんを宥めはじめた。

「よくわからないけど、痛い事も苦しい事ももうしないよ。大丈夫だからティアラ落ち着いて。息するのを忘れないでね」

 アレクセイはみなりんの涙を拭きつつも、アレクセイが好きすぎてすぐに息が止まるみなりんへのフォローも忘れない。
 ファーストシーズンでは悪役令息で、隠しルートの攻略対象者なサイコパスの癖に、甘々な溺愛系ってなんだよ。



 ケッ…っとやさぐれる私を無視して、アレクセイはみなりんをよしよしして、そのまま連れて帰ってしまった。
「バイバイまるちゃん。修道院に行ってなかったら、また明日ね」と泣きながら手をふるみなりんは、めちゃくちゃかわいい。なんでモブなんだ?と思うくらい顔も性格も可愛い。ちっちゃくて小動物みたいだ。


 みなりんは間違いなく修道院には行けない。行こうとすればアレクセイは修道院を買収してでも、燃やしてでも、全力で阻止するだろう。なのでセカンドシーズンの隠しルートが開いたとしても、私はみなりん程心配はしていない。セカヒロちゃんがどんなに頑張って処女膜を守っていたとしても、多分アレクセイ攻略は無理だ。

 だってアレクセイは、実の所みなりんと同じくらいみなりんの事が大好きすぎるから。多分ほんの少しでもみなりんが余所見したら、間違いなく監禁凌辱コースが待っている。どんまいみなりん…。




 などと考えていたら、何故か私の前の席に、助けてくれないお助けキャラの真面目くんが座った。

「何か?」

 お助けキャラの癖に、この人がちっとも助けてくれなかったせいで、私はファーストのスチル集めにかなり苦労した。だいたいお助けキャラの癖に人気がありすぎてセカンドでは攻略対象に成り上がるとか、何様だと言いたい。あ、セカヒロちゃんの義理の弟様か。




「本も持たずにここで何をしてた訳? ユーフェミア嬢」

 みなりんから、まるちゃんまるちゃんと前世のあだ名で呼ばれているから、つい忘れそうにはなるが、私の名前はユーフェミアだ。ファーストの攻略対象者達からは『ミア』と呼ばれている。攻略が成功すればミアと呼ばれるのだけど、この世界ではたとえ逆ハーを成立させたとしても、本当の意味では誰とも結ばれる事はない。


『身分の差から結ばれない切ない恋』それはとても綺麗な言葉に聞こえるけれど、高位の貴族が期限付きの切ない恋を楽しむ世界でもある。だったら私がスチル集めと同時に、彼らの期限付きの恋にお付き合いしても、文句を言われる筋合いはない。まさにWin Winの関係ってヤツよね。
 逆ハーとは言っても同時進行ではなくて、私は振られてから次に進んでいる訳だし。



 それなのに文句を言うのが、この目の前の『助けてくれないお助けキャラ』な、真面目くんなのだ。





「……特別閲覧室に行きたかったんだけど、利用してる人がいたみたいだから、ここで待ってたの」

 まあ、そろそろ顔射の後処理も終わってる頃だろうし、言っても構わないだろう。

「……君、まさかアーサーを狙ってたりする?」

 ちなみにアーサーとは、顔射の熱血くんだ。

「…特別閲覧室に誰がいるか知ってたの?」

「本を棚に返している時に、アーサーが入って行くのを見た」

 真面目くんは先に部屋に入ったセカヒロちゃんの姿は見ていないのか。

 ファーストシーズンではここにくればこの人が受付にいて、アドバイスをくれる筈だった。ちっともくれなかったけどな。



「そう」

 私はゲームの癒し系ヒロインらしく、他所行きの笑顔を浮かべた。

 私のモットーは『スチル集めは迅速に』だ。スチルと同じシーンを再現しつつ、さっさとやってさっさと終わらせる。そもそも学園の中なんだから、無駄な事はしない。なので、人目につくところで、ねちゃねちゃぬらぬらやってるセカンドの攻略対象者達なんて論外だ。

 そもそも私は自分がセカヒロちゃんに取って代わる気など欠片もない。


「私が誰の事をどんな風に思っていても、あなたには関係ないでしょう?」

 こんな草食っぽい見た目をしてても、この人ももうすぐゾンビになるんだ。

 助けてくれないお助けキャラで、セカンドの攻略対象者が、ファーストの元ヒロインで現モブに文句を言うなと言いたい。
 言うなら、みなりんを安心させる為にも義理姉のセカヒロちゃんに言って欲しい。彼女は目下、攻略対象者を食い散らかしながら、アレクセイ目指して爆走中なのだから。



「ねぇお姉さんは、こちらでの環境には慣れた? 今までは領地にいたのでしょう?」


 間違いなくアレクセイの攻略は不可能だとは思うけれど、なんとなくセカヒロちゃんについての探りを入れてみる。情報収集は大事。



 セカヒロちゃんは転入生だ。設定集情報では、幼い頃に両親を亡くした彼女は、元々祖父と暮らしていた。けれど、彼女の祖父は何故か75歳にして冒険者になると言いだし、息子に「あなたは馬鹿ですか」と言われて、泣きながら家出した。「ドラゴンを狩るまで帰りません」という書き置きを残して。

 その息子と言うのが真面目くんの父でセカヒロちゃんの伯父だ。セカヒロちゃんの祖父は意地になるタイプだが、どう考えてもドラゴンなんて狩れる訳はない。セカヒロちゃんの伯父は責任を感じて、一人になったセカヒロちゃんをとりあえず娘として引き取った。

 と言っても、それは表向きの話。一応学園では真面目くんの義理の姉扱いだが、書類上の彼女は男爵令嬢のままで、学園を卒業したら男爵家に婿養子に来てくれる男と結婚しなければならない。なのでやはり高位貴族の子息と泡沫の恋をしても結ばれる事はないのだ。


「ああ、彼女は順応力があるからね。祖父に似て逞しいし…」

「逞しい…。とても清楚なご令嬢に見えるのだけれど」

 シックスナインして肉棒咥えてたけど。

「見かけはね」

 何か思い出しでもしたのか、真面目くんはくすりと笑った。

「男子生徒に大人気でしょう?」

「その辺は知らない。興味もない」

 机に頬杖をついてこちらを見る真面目くんは、本当に興味なさそうに言う。

 いや、興味持とうよ。せっかくセカンドシーズンでは、お助けキャラから攻略対象者に成り上がったんだからさ。あなたのヒロイン様だよ?それに、喰われるなら是非学園でお願いしたい。家ではやめて。覗けないから。


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