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健の告白

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「すみれ。オレの寿命あと一年なんだって。だからさ、オレの彼女になってよ。一年間だけでいいからさ」

 夕暮れ時の誰もいない教室で、ずっと好きだった子に告白した。

「た、たける……」

 すみれは困惑した表情を見せる。当然だろう。恋の告白と余命宣告をワンセットにしているのだから。

「ごめんな、すみれ。こんな形の告白で。でもおまえにだけは本当のことを伝えておきたかったんだ」

 すみれの瞳がゆっくりと揺れる。必死にこらえているようだが、今にも泣き出しそうだ。

しんにも伝えてないの? 健の体のこと……」
「うん。アイツにもまだ言ってない。信はバカがつくぐらいの正直者だから、オレにめちゃくちゃ気を遣いそうだからね。オレの寿命を知ってるのは家族とすみれ、おまえだけだ」

 ついに我慢できなくなったのか、すみれの頬に涙がほろりとこぼれていく。

「返事は今すぐじゃなくていいよ。無理強いはしたくないから」
「健……」
「最後に一度だけ、すみれと彼氏彼女ってものになってみたかったんだ。青春らしい青春って、オレには一度もないからさ。すみれにフラレても恨んだりしないよ。それがオレの人生の最後だって受けとめるからさ」

 すみれがゆっくりと視線をこちらに向けた。すみれと目を合わせたところで悲しげに微笑んでみせる。もちろんわざとだ。すみれの心を掴むための作戦なのだから。

「すみれのことがずっと好きだったから、最後に夢を見させてくれたら嬉しい。一年間だけでいいからさ。でもオレのことが嫌いだったら断っていいよ。うん、嫌いならしかたない」

 すみれから視線をそらし、夕焼けをじっと見つめる。ぼんやりと遠くを眺めることで、孤独感を演出する。すみれにはこれが効くはずだ。昔からだれより優しい子だったから。告白というよりも脅しに近いが、これでいいんだ。

「わかった。健とつきあう」

 想定よりも早く、すみれはオレの告白を受け入れた。
 時間をかけながら、すみれを再び見つめる。

「本当か? 本当にオレの彼女になってくれるのか?」

 信じられないとった様子で、ゆっくり顔を左右に振る。これは半分本当のこと。てっきり、「少し考えさせてほしい」って言うと思ったから。

「本当よ。でも同情してるわけじゃないからね。わたしだって健のこと、ずっと好きだったもの」

 涙を拭いながら、すみれはぎこちない笑顔を浮かべる。無理して笑う必要はないのに。

「ありがとう、すみれ……」

 少しうつむきながら、肩を軽く震わせる。

「泣かないで、健……」
「おまえこそ泣くなよ。彼女になったんだから、泣かれたら困るだろ、オレが」
「うん、そうだね……」

 これでいい。少しだけ予想と違う部分はあったものの、ほぼ計画通りだ。
 

 中山 健、十六歳。
 余命一年と宣告されたので、ずっと好きだった女の子を脅してつきあうことにした。


 
























 


 
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