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第五章 繋がる心
雷烈の本当の思い
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***
「天御門星は、まだ見つからぬのか!」
もはや我慢ならないといった様子で、皇帝雷烈が叫んでいる。その迫力に、付き従う太監が身震いするほどだ。
星と連絡がとれなくなって、すでに七日が経っていた。
後宮内で雷烈に呪封術をほどこし、雷烈が少し休んでいた間に星がいなくなったのだ。
人を使い、すぐに探させたが見つからない。雷烈自身も夜の時間を使って星を探したが、一向に星の姿を確認することはできなかった。
星は青蘭という女官の姿になっていたため、星蘭としても探させたのだが、その行方はわからないという。
後宮内で女官が行方知れずになることはたまにあるのだが、そのほとんどは内々に処理される。事故とは思えない亡くなり方でも、「不幸にも事故で死亡した」ということでかたづけられる。行方不明になる女官の多くは何かしらの罪を犯したということにされることも多い。まさに『死人に口なし』だ。
「星蘭という女官は栄貴妃様に失礼な行いをした後に、姿を消したそうでございます。おそらくは自らの行いを恥じて自分から消えたのではないかと」
「星蘭がそのような人間かは、朕が自ら判断する。だから探し出すのだ」
「卑しき身分の女官に陛下がそこまでされなくても良いではありませんか。政務も滞っておりますし……」
星が姿を消してからというもの、鬼の力を抑えきれないこともあり、皇帝としての政務が滞りがちなのは事実だった。朝議にはどうにか出ているが、鬼の力が暴走し始めれば、皇帝としての威厳を保つことは難しくなるかもしれない。
「では天御門星はどうなったのだ。朕が和国から呼び寄せた陰陽師は」
「それが天御門様も、ぷつりと消えてしまいまして……後宮の調査をしていたことまではわかっているのですが」
後宮内を調べるうちに天御門星が行方知れずとなったことで、和国からわざわざ呼び寄せた陰陽師でさえも勝てない化け物が後宮には潜んでいるのだと噂になっていた。
「陛下、後宮内で宦官以外の、しかも和国の者がいればすぐに気づきます。ですが誰も姿を見ていないということはすでに……」
「……だまれ」
「和国の陰陽師がいなくなってから陛下はほとんど休まれておりませんし、あきらめられては……」
「黙れと言っておろう! 和国から呼び寄せた客人をぞんざいに扱っては庸国の威信にかかわる。星は、天御門星は必ず生きている。探すのだ!」
「は、はい! 仰せのままに」
雷烈のあまりの剣幕に太監は「ひぃ」と小さな叫び声をあげ、慌てて去っていった。
庸国の若き皇帝雷烈は、和国から来た小柄な男の陰陽師を、特別に愛でている。まるで恋でもしているかのように。
今や後宮内でも事実のように囁かれているのは雷烈も知っていた。だがそんなことはどうでもよいことだった。星が自分のそばにいない。星の名を呼んでもすぐに来てくれないほうが、今の雷烈には辛すぎるのだ。
(星、おまえは今どこにいるのだ。星がおらねば俺は鬼の力を抑えられぬ。何より俺は星のことを……)
星の正体が女であることに気づいているのは雷烈だけだ。星がなぜ男装してまで庸国にいるのか雷烈は知っているし、できるだけ協力してやりたいと思っていた。
一方でひとりぼっちになってしまった星を、このまま庸国に留めておきたいと思い始めていた。雷烈に眠る鬼の力を抑えてもらいたいためであったが、星の前でだけは、すべてをさらけ出せることを雷烈自身も自覚していた。
愛されることに慣れてない少女が時折見せる笑顔、雷烈の裸を見てしまった時に見せる恥ずかしそうな表情、封印術と呪封術を操るときの凛々しい顔……。
星の何もかもが雷烈は愛おしかった。今さら手放すことなど考えられない。星には何があってもそばにいてほしい。それほどに大切な存在だった。
(とっくに気づいていたさ。星が俺にとって愛しい女となっていることに。だが兄の敵を討ちたいという星の思いを無視するわけにはいかなかった)
星がいなくなってしまったことで、星への狂おしいほどの恋情が芽生えていることを、雷烈は自覚してしまった。もはや思いは止められそうもない。
(星、必ずおまえを見つけ出す。待っていろ)
「天御門星は、まだ見つからぬのか!」
もはや我慢ならないといった様子で、皇帝雷烈が叫んでいる。その迫力に、付き従う太監が身震いするほどだ。
星と連絡がとれなくなって、すでに七日が経っていた。
後宮内で雷烈に呪封術をほどこし、雷烈が少し休んでいた間に星がいなくなったのだ。
人を使い、すぐに探させたが見つからない。雷烈自身も夜の時間を使って星を探したが、一向に星の姿を確認することはできなかった。
星は青蘭という女官の姿になっていたため、星蘭としても探させたのだが、その行方はわからないという。
後宮内で女官が行方知れずになることはたまにあるのだが、そのほとんどは内々に処理される。事故とは思えない亡くなり方でも、「不幸にも事故で死亡した」ということでかたづけられる。行方不明になる女官の多くは何かしらの罪を犯したということにされることも多い。まさに『死人に口なし』だ。
「星蘭という女官は栄貴妃様に失礼な行いをした後に、姿を消したそうでございます。おそらくは自らの行いを恥じて自分から消えたのではないかと」
「星蘭がそのような人間かは、朕が自ら判断する。だから探し出すのだ」
「卑しき身分の女官に陛下がそこまでされなくても良いではありませんか。政務も滞っておりますし……」
星が姿を消してからというもの、鬼の力を抑えきれないこともあり、皇帝としての政務が滞りがちなのは事実だった。朝議にはどうにか出ているが、鬼の力が暴走し始めれば、皇帝としての威厳を保つことは難しくなるかもしれない。
「では天御門星はどうなったのだ。朕が和国から呼び寄せた陰陽師は」
「それが天御門様も、ぷつりと消えてしまいまして……後宮の調査をしていたことまではわかっているのですが」
後宮内を調べるうちに天御門星が行方知れずとなったことで、和国からわざわざ呼び寄せた陰陽師でさえも勝てない化け物が後宮には潜んでいるのだと噂になっていた。
「陛下、後宮内で宦官以外の、しかも和国の者がいればすぐに気づきます。ですが誰も姿を見ていないということはすでに……」
「……だまれ」
「和国の陰陽師がいなくなってから陛下はほとんど休まれておりませんし、あきらめられては……」
「黙れと言っておろう! 和国から呼び寄せた客人をぞんざいに扱っては庸国の威信にかかわる。星は、天御門星は必ず生きている。探すのだ!」
「は、はい! 仰せのままに」
雷烈のあまりの剣幕に太監は「ひぃ」と小さな叫び声をあげ、慌てて去っていった。
庸国の若き皇帝雷烈は、和国から来た小柄な男の陰陽師を、特別に愛でている。まるで恋でもしているかのように。
今や後宮内でも事実のように囁かれているのは雷烈も知っていた。だがそんなことはどうでもよいことだった。星が自分のそばにいない。星の名を呼んでもすぐに来てくれないほうが、今の雷烈には辛すぎるのだ。
(星、おまえは今どこにいるのだ。星がおらねば俺は鬼の力を抑えられぬ。何より俺は星のことを……)
星の正体が女であることに気づいているのは雷烈だけだ。星がなぜ男装してまで庸国にいるのか雷烈は知っているし、できるだけ協力してやりたいと思っていた。
一方でひとりぼっちになってしまった星を、このまま庸国に留めておきたいと思い始めていた。雷烈に眠る鬼の力を抑えてもらいたいためであったが、星の前でだけは、すべてをさらけ出せることを雷烈自身も自覚していた。
愛されることに慣れてない少女が時折見せる笑顔、雷烈の裸を見てしまった時に見せる恥ずかしそうな表情、封印術と呪封術を操るときの凛々しい顔……。
星の何もかもが雷烈は愛おしかった。今さら手放すことなど考えられない。星には何があってもそばにいてほしい。それほどに大切な存在だった。
(とっくに気づいていたさ。星が俺にとって愛しい女となっていることに。だが兄の敵を討ちたいという星の思いを無視するわけにはいかなかった)
星がいなくなってしまったことで、星への狂おしいほどの恋情が芽生えていることを、雷烈は自覚してしまった。もはや思いは止められそうもない。
(星、必ずおまえを見つけ出す。待っていろ)
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