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第一章 男装陰陽師と鬼の皇帝
しびれ
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「早速だが、天御門 星よ。朕と共に後宮に来てほしい。今の後宮の様子をそなたに見てほしいのだ」
皇帝は星を見つめながら、悠然と告げた。ごく自然な流れのように話すので、言葉の意味を星はすぐに理解できなかった。
(今日は皇帝陛下への謁見だけではなかったの?)
「陛下! 得体の知れない田舎者をすぐに後宮に連れていかれるのは、いかがなものでございましょう。お妃様方もお困りになるかと……」
脇に控えていた太監が慌てて口を挟む。どうやら何も知らされていなかったらしい。
雷烈は太監をぎろりと睨みつける。眼光の鋭さに、関係ない星まで震えあがってしまった。
「おまえは朕の話を聞いていなかったのか? 朕は天御門 星に、今の後宮の様子を見てほしいのだ。化け物に怯える妃たちのためにも、少しでも早く動く必要がある。後日では意味がない」
「陛下、お許しくださいませ。ですぎたことを申しました!」
地に頭を叩きつけ、太監は必死に詫びる。ごんごんと鈍い音を立てながら、太監は地に頭を何度も打ちつけている。
星はただ見つめることしかできなかった。
(皇帝陛下は怒らせたら怖い方なのかもしれない……)
「朕が何をしたいのか理解してほしかっただけだ。詫びるのはやめて顔をあげよ」
ため息まじりに命じると、太監はさっと顔をあげた。額からたらりと血が流れ落ちていく。
「陛下、今後はよく考えて発言いたします」
「おまえはここに残っておれ。後宮へ行くのは朕と天御門 星がおれば十分だ」
(え……)
驚いて目をぱちくりとさせる星を見つめながら、皇帝は優しく微笑む。
「陛下、それはなりません。わたくしめもお供させてくださいませ。小さな島国出身の田舎者は何をするかわかりせぬ。なにとぞお供に……」
皇帝に付き従うことを太監は必死に懇願したが、雷烈はぴしゃりと言い放つ。
「天御門 星は朕が和国より呼び寄せたのだ。大切な客人を田舎者呼ばわりするような者を供につけたくない。おまえは額の怪我の手当てをしながら待っておれ」
和国の天御門 星を田舎者と呼ぶ太監の無礼を、雷烈は許せなかったらしい。皇帝にここまで言われては、太監も引き下がるしかなかった。
「では参ろうか、天御門 星」
「は、はいっ!」
急に名を呼ばれ、星は慌てて立ち上がった。ところがずっとうずくまっていたせいで、足先がひどく痺れていた。緊張のせいで、今まで気づけなかった。脚がもつれ、その場でひっくり返りそうになる。懸命に足に力をいれるが、痺れだけはどうにもならず、星の体はゆっくりと後ろへと倒れていく。
(転んでしまう。どうしよう!)
ひっくり返った亀のように仰向けになった自分を想像して青ざめたが、星は無様に転んではいなかった。誰かの腕が、星の体をしっかりと支えているのだ。
(まさか……)
おそるおそる伸ばされた腕の主を確認すると、星を支えていたのは庸国の皇帝雷烈だった。
「せっかく庸国に招いたのに、怪我をされたら大変だからな」
にこやかな笑みを浮かべている雷烈の顔がすぐ近くにある。客人扱いとはいえ、皇帝陛下にとんでもないことをさせてしまったことだけは理解できた。
「申し訳ございませんっ! どうかお許しください、ましぇ」
「気にせずともよい」
雷烈は笑っているが、待っているように命じられた太監が背後から星をぎろりと睨みつけている。
「足の痺れがとれたら、共に参ろう」
「はい……」
とんでもなく失礼なことをしてしまった自分を恥じながら、少しでも早く足の痺れがおさまってくれるのを待つしかなかった。
皇帝は星を見つめながら、悠然と告げた。ごく自然な流れのように話すので、言葉の意味を星はすぐに理解できなかった。
(今日は皇帝陛下への謁見だけではなかったの?)
「陛下! 得体の知れない田舎者をすぐに後宮に連れていかれるのは、いかがなものでございましょう。お妃様方もお困りになるかと……」
脇に控えていた太監が慌てて口を挟む。どうやら何も知らされていなかったらしい。
雷烈は太監をぎろりと睨みつける。眼光の鋭さに、関係ない星まで震えあがってしまった。
「おまえは朕の話を聞いていなかったのか? 朕は天御門 星に、今の後宮の様子を見てほしいのだ。化け物に怯える妃たちのためにも、少しでも早く動く必要がある。後日では意味がない」
「陛下、お許しくださいませ。ですぎたことを申しました!」
地に頭を叩きつけ、太監は必死に詫びる。ごんごんと鈍い音を立てながら、太監は地に頭を何度も打ちつけている。
星はただ見つめることしかできなかった。
(皇帝陛下は怒らせたら怖い方なのかもしれない……)
「朕が何をしたいのか理解してほしかっただけだ。詫びるのはやめて顔をあげよ」
ため息まじりに命じると、太監はさっと顔をあげた。額からたらりと血が流れ落ちていく。
「陛下、今後はよく考えて発言いたします」
「おまえはここに残っておれ。後宮へ行くのは朕と天御門 星がおれば十分だ」
(え……)
驚いて目をぱちくりとさせる星を見つめながら、皇帝は優しく微笑む。
「陛下、それはなりません。わたくしめもお供させてくださいませ。小さな島国出身の田舎者は何をするかわかりせぬ。なにとぞお供に……」
皇帝に付き従うことを太監は必死に懇願したが、雷烈はぴしゃりと言い放つ。
「天御門 星は朕が和国より呼び寄せたのだ。大切な客人を田舎者呼ばわりするような者を供につけたくない。おまえは額の怪我の手当てをしながら待っておれ」
和国の天御門 星を田舎者と呼ぶ太監の無礼を、雷烈は許せなかったらしい。皇帝にここまで言われては、太監も引き下がるしかなかった。
「では参ろうか、天御門 星」
「は、はいっ!」
急に名を呼ばれ、星は慌てて立ち上がった。ところがずっとうずくまっていたせいで、足先がひどく痺れていた。緊張のせいで、今まで気づけなかった。脚がもつれ、その場でひっくり返りそうになる。懸命に足に力をいれるが、痺れだけはどうにもならず、星の体はゆっくりと後ろへと倒れていく。
(転んでしまう。どうしよう!)
ひっくり返った亀のように仰向けになった自分を想像して青ざめたが、星は無様に転んではいなかった。誰かの腕が、星の体をしっかりと支えているのだ。
(まさか……)
おそるおそる伸ばされた腕の主を確認すると、星を支えていたのは庸国の皇帝雷烈だった。
「せっかく庸国に招いたのに、怪我をされたら大変だからな」
にこやかな笑みを浮かべている雷烈の顔がすぐ近くにある。客人扱いとはいえ、皇帝陛下にとんでもないことをさせてしまったことだけは理解できた。
「申し訳ございませんっ! どうかお許しください、ましぇ」
「気にせずともよい」
雷烈は笑っているが、待っているように命じられた太監が背後から星をぎろりと睨みつけている。
「足の痺れがとれたら、共に参ろう」
「はい……」
とんでもなく失礼なことをしてしまった自分を恥じながら、少しでも早く足の痺れがおさまってくれるのを待つしかなかった。
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