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第二章

小太郎と優花

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 優花さんと小太郎さん。二人があまりに自然体、ごく普通の人間に見えるので私は忘れてしまっていたのだ。このハイツは普通の集合住宅ではないことを。

 ここにやってくる前、信さんは私に告げた。

「楓、これからお前が暮らそうとしている場所はな。人と人ならざるものが、共に夫婦として暮らしているところなのだ。人には理解されがたいものたちに安らぎの地を。それは俺の幼き頃からの願い。山あいのひっそりとした場所だが、落ち着けるところだ。俺は楓と、そこで共に暮らしたい。……夫婦として」

 切なげな表情を時折のぞかせながら、信さんは話してくれた。

 人と、人ならざるものが夫婦として暮らす場所。異類婚姻したものたちが住まうところ。 それが「ハイツいるいこん」通称『あやかし長屋』なのだ。


「おい、楓。大丈夫か?」

 はっと気付いた時には、みんなの視線が私に集まっていた。

「ご、ごめんなさい」

 私はここがどういうところなのかわかったつもりで、本当はわかっていなかったのかもしれない。自分が情けなかった。覚悟の上でお嫁に来たつもりだったのに。

「楓さん、気にしないで。こちらこそごめんなさいね。私もいきなり話しすぎたわ」

 優花さんは優しい言葉。気を使ってくれてるのだと思うと申し訳なかった。

「俺ももう少しフォローすべきだったな。楓、すまない」

 信さんまで私を気遣ってくれる。いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。そう思った。持っていた紙袋からお菓子の箱を取り出すと、優花さんに渡した。

「あの、先程は失礼致しました。こちらよろしければ召し上がってください。私の故郷で人気のお菓子です。これからご近所として、どうぞよろしくお願い致します!」

 ぺこりと頭を下げる。今はこれが精一杯だ。

「ご丁寧にどうもありがとう」

 顔をあげると、優花さんは優雅に微笑んでいた。優しくていい人だ。少しずつ仲良くなっていけたらいいな。

「楓、そろそろ失礼しよう。小太郎と優花さん、楓をよろしく頼む」

 名残惜しかったけれど、そろそろ夕飯時も近い。長居はご迷惑だし、次の御挨拶もある。

「こちらこそよろしくお願いしますね、信さんと楓さん」

 小太郎さんがにこやかに手を振ってくれた。優花さんと並ぶと、お似合いのお二人だと思う。

「では、これで失礼する」
「失礼します」

 そっと102号室の扉を閉めた。

「私、信さんのお嫁さんとしてまだまだだね」

 思わずため息がでる。 信さんを支えるつもりなのに、逆に支えてもらってる。

「そんなことはない。楓はよくやってるよ。どういう二人なのか簡単に話しておくべきだったよ。すまない」
「ううん、わるいのは私よ」

 至らないのは私なのに。信さんの優しさが嬉しかった。

「時間もないし、次のお宅に御挨拶にいきましょう」
「そうしよう」

 どちらからともなく手を繋ぐと、共に歩き出したのだった。














 
 



  

 
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