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最終章
答えのない問い
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翌日の早朝、いつも通りの時間に起きて、みなも荘の掃除を始めた。何もしないで悶々と悩むより、自分の仕事をしたほうが精神的に楽な気がしたからだ。
「おはよう、楓ちゃん。今日も朝からお疲れ様」
朝の挨拶をしてくれたのは、小太郎さんと朝の散歩中の優花さんだ。
「おはようございます、優花さん、小太郎さん」
「おはよ。今日も元気だね、楓さん」
小太郎さんは今日も早朝にふさわしい爽やかな笑顔をふりまいている。アイドル風の顔立ちを見ると、とても元河童だったとは思えない。
「昨日、信さんのお父様が来られて、いろいろ大変だったみたいね。私達は仕事でいなかったけど、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫じゃない」とは言えなかった。
突然の宣告に悩んではいるけど、簡単に言えることではない気がしたからだ。
「本当に……? いつも通りにしてるけど、ちょっと目が赤いし、ほんの少しだけど笑顔もぎこちないわよ?」
優花さん、するどい。彼女の観察力は侮れないみたいだ。
「無理に話す必要はないけど、困ってることがあったら、いつでも相談にのるわよ。ひとりで抱え込んだらダメよ」
「ありがとうございます」
優花さんは何かあったと気付いていても、あえて深くは追及しなかった。その気遣いが嬉しい。
「ヤバい、ヤバい、遅刻する!! 今日は朝イチでオペがあるのに!」
「だから俺が空飛んで、病院まで送っていってあげるって」
「そんなことしたら、目立つでしょ! だいたい誰のせいで寝坊したと……!」
そこまで話して、私達が見ていることに気がついたようだ。
「おはようございます、椿さん、光摩さん」
朝から痴話喧嘩を繰り広げているのは、椿さんと光摩さんの夫婦だ。どうやら今朝は寝坊したらしい。その理由は……うん、あえて追及しないでおこう。
「い、今の話は聞かなかったことに! あと楓さん、昨日何かあったみたいだけど、また今度ね!」
椿さんは走りながら叫んでいると、その隙に光摩さんが翼を広げ、背後から椿さんを抱きかかえ、空へ連れて行ってしまった。
「楓ちゃん、また今度! 今日は奥さん送ってから仕事に行くから」
「だからいいって言ってるでしょ、放しなさいよっ!」
椿さんはしばらく叫んでいたが、やがて暴れるだけ無駄と悟ったのか、おとなしく光摩さんに抱かれたまま空を飛んでいってしまった。
「あの二人も相変わらずねぇ」
「本当に……」
いつもと変わらぬ、みなも荘の日常。私はこの生活を守り、支えていきたい。
この仕事をずっと続けたいなら、私は神格化し、長き時を生きられるようにしたほうがいいのだろうか? でも信さんが水神となって空に飛んで行ってしまったら、私は長き時をひとりで過ごすの?
ほうきで掃きながら、答えのない問いを自分自身の心に聞き続けた。
「おはよう、楓ちゃん。今日も朝からお疲れ様」
朝の挨拶をしてくれたのは、小太郎さんと朝の散歩中の優花さんだ。
「おはようございます、優花さん、小太郎さん」
「おはよ。今日も元気だね、楓さん」
小太郎さんは今日も早朝にふさわしい爽やかな笑顔をふりまいている。アイドル風の顔立ちを見ると、とても元河童だったとは思えない。
「昨日、信さんのお父様が来られて、いろいろ大変だったみたいね。私達は仕事でいなかったけど、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫じゃない」とは言えなかった。
突然の宣告に悩んではいるけど、簡単に言えることではない気がしたからだ。
「本当に……? いつも通りにしてるけど、ちょっと目が赤いし、ほんの少しだけど笑顔もぎこちないわよ?」
優花さん、するどい。彼女の観察力は侮れないみたいだ。
「無理に話す必要はないけど、困ってることがあったら、いつでも相談にのるわよ。ひとりで抱え込んだらダメよ」
「ありがとうございます」
優花さんは何かあったと気付いていても、あえて深くは追及しなかった。その気遣いが嬉しい。
「ヤバい、ヤバい、遅刻する!! 今日は朝イチでオペがあるのに!」
「だから俺が空飛んで、病院まで送っていってあげるって」
「そんなことしたら、目立つでしょ! だいたい誰のせいで寝坊したと……!」
そこまで話して、私達が見ていることに気がついたようだ。
「おはようございます、椿さん、光摩さん」
朝から痴話喧嘩を繰り広げているのは、椿さんと光摩さんの夫婦だ。どうやら今朝は寝坊したらしい。その理由は……うん、あえて追及しないでおこう。
「い、今の話は聞かなかったことに! あと楓さん、昨日何かあったみたいだけど、また今度ね!」
椿さんは走りながら叫んでいると、その隙に光摩さんが翼を広げ、背後から椿さんを抱きかかえ、空へ連れて行ってしまった。
「楓ちゃん、また今度! 今日は奥さん送ってから仕事に行くから」
「だからいいって言ってるでしょ、放しなさいよっ!」
椿さんはしばらく叫んでいたが、やがて暴れるだけ無駄と悟ったのか、おとなしく光摩さんに抱かれたまま空を飛んでいってしまった。
「あの二人も相変わらずねぇ」
「本当に……」
いつもと変わらぬ、みなも荘の日常。私はこの生活を守り、支えていきたい。
この仕事をずっと続けたいなら、私は神格化し、長き時を生きられるようにしたほうがいいのだろうか? でも信さんが水神となって空に飛んで行ってしまったら、私は長き時をひとりで過ごすの?
ほうきで掃きながら、答えのない問いを自分自身の心に聞き続けた。
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