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第三章
恋バナ2 優花と小太郎
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「じゃあ、次はわたしでいいかしら? 椿ちゃん、雪華ちゃん」
手を合わせ、にこにこと可憐な笑顔を見せるのは優花さんだ。
「どうぞ、どうぞ。私は最後でいいわ」
お菓子をかじりながら、椿さんは手で優花さんを促す。もぐもぐと口を動かしながら、「話したくて、うずうずしてるくせに」などと呟いている。
「なーにか言ったかしら? 椿ちゃん?」
美しい微笑みを浮かべつつも、その目はしっかりと椿さんをにらみつけている。
「このお菓子、美味しいわ~」
優花さんの鋭い視線に気付きつつも、あえて目を合わせず、そしらぬ顔でお菓子を食べている。
「雪華ちゃんは?」
きらりと目を光らせたまま、雪華さんに視線をおくる。雪華さんはびくっと体を震わせ、「どうぞ、どうぞ」と手で優花さんを促している。
「ふたりとも遠慮してるみたいだし、次はわたしが話すわね。いいかしら? 楓ちゃん」
体をくねらせるように、私を見つめる優花さんの美しい微笑は、有無を言わせぬ迫力がある。
うーん、優花さんは怒らせたら怖いタイプの女性かも……。雪女の雪華さんでさえ、逆らえないみたいだもの。
「ど、どうぞ」
「ありがとう、楓ちゃん」
にっこりと笑う優花さんは、少女のように清らかだ。
「わたしと小太郎ちゃんの出会いはね……きっと、運命だったの。川でおぼれたわたしを、まだ河童だった小太郎ちゃんが救ってくれたんだもの」
頬を赤く染め、うっとりとした表情で小太郎さんとの出会いを話し始めた優花さんは、美しい華のごとく、あでやかだった。
麗しい美女と河童の夫婦は、どのように出会い、恋を育んだのだろう?
「あれはわたしが中学生の頃の話よ。両親がある日こう言ったの。『優花、田舎に移り住むことになったよ。東京ともおさらばだ』って。あれはまさに青天の霹靂だったわ」
遠くを見つめながら、優花さんは悩ましげなため息をつく。
「脱サラってやつかしら?」
椿さんがお菓子を食べながら、質問する。椿さん、話を聞いてないようで、実はしっかり聞いているようだ。
「ええ。両親は田舎で農業をすることになったの。東京で女子高生になることに憧れていたから、大反対したわ。けれど14歳のいたいけな少女だったわたしに両親を止められるはずもなくて。泣く泣く親と共に田舎に引っ越してきたの」
当時はよほど辛かったのか、優花さんは両手を重ね合わせ祈るようなポーズをしている。
「越してきた場所はのどかな良いところだったけど、都会的なものは何ひとつなくて。毎日が退屈でたまらなかった。ある日、川沿いでぼんやりと水の流れを見て心を癒やしていたら、何かに足を引っ張られる気がしたの。驚いた瞬間、足を滑らせて川へどぼーん。哀れ、健気な少女は溺れてしまった。でもね、強い力でわたしを助けてくれる人がいたの。あっという間にわたしを抱えあげて、地上にひきあげてくれた。最初は人間だと思ったわ、でも違ったの」
そこでいったん言葉を止め、ここからが肝心よ、と言わんばかりに私達をぐるりと見渡す。
「わたしを助けてくれたのはね、絵本やアニメの中でしか見たことがない、河童だったのよ……! 川の中から頭だけを出して、心配そうにわたしを見ていた。最初は自分の目が信じられなかったわ。東京に帰りたいと思うあまり、まぼろしを見るようになったのかと思った。でもね、夢でも幻覚でもなかった。河童は目の前にいるんですもの。河童はわたしの無事を確認すると、川の中へ消えてしまった。『彼』との出会いが、わたしのその後の人生を大きく変えることになっていくのよ……!」
恍惚な表情で、雄弁に語る優花さんは、舞台に立つ女優のようだった。
手を合わせ、にこにこと可憐な笑顔を見せるのは優花さんだ。
「どうぞ、どうぞ。私は最後でいいわ」
お菓子をかじりながら、椿さんは手で優花さんを促す。もぐもぐと口を動かしながら、「話したくて、うずうずしてるくせに」などと呟いている。
「なーにか言ったかしら? 椿ちゃん?」
美しい微笑みを浮かべつつも、その目はしっかりと椿さんをにらみつけている。
「このお菓子、美味しいわ~」
優花さんの鋭い視線に気付きつつも、あえて目を合わせず、そしらぬ顔でお菓子を食べている。
「雪華ちゃんは?」
きらりと目を光らせたまま、雪華さんに視線をおくる。雪華さんはびくっと体を震わせ、「どうぞ、どうぞ」と手で優花さんを促している。
「ふたりとも遠慮してるみたいだし、次はわたしが話すわね。いいかしら? 楓ちゃん」
体をくねらせるように、私を見つめる優花さんの美しい微笑は、有無を言わせぬ迫力がある。
うーん、優花さんは怒らせたら怖いタイプの女性かも……。雪女の雪華さんでさえ、逆らえないみたいだもの。
「ど、どうぞ」
「ありがとう、楓ちゃん」
にっこりと笑う優花さんは、少女のように清らかだ。
「わたしと小太郎ちゃんの出会いはね……きっと、運命だったの。川でおぼれたわたしを、まだ河童だった小太郎ちゃんが救ってくれたんだもの」
頬を赤く染め、うっとりとした表情で小太郎さんとの出会いを話し始めた優花さんは、美しい華のごとく、あでやかだった。
麗しい美女と河童の夫婦は、どのように出会い、恋を育んだのだろう?
「あれはわたしが中学生の頃の話よ。両親がある日こう言ったの。『優花、田舎に移り住むことになったよ。東京ともおさらばだ』って。あれはまさに青天の霹靂だったわ」
遠くを見つめながら、優花さんは悩ましげなため息をつく。
「脱サラってやつかしら?」
椿さんがお菓子を食べながら、質問する。椿さん、話を聞いてないようで、実はしっかり聞いているようだ。
「ええ。両親は田舎で農業をすることになったの。東京で女子高生になることに憧れていたから、大反対したわ。けれど14歳のいたいけな少女だったわたしに両親を止められるはずもなくて。泣く泣く親と共に田舎に引っ越してきたの」
当時はよほど辛かったのか、優花さんは両手を重ね合わせ祈るようなポーズをしている。
「越してきた場所はのどかな良いところだったけど、都会的なものは何ひとつなくて。毎日が退屈でたまらなかった。ある日、川沿いでぼんやりと水の流れを見て心を癒やしていたら、何かに足を引っ張られる気がしたの。驚いた瞬間、足を滑らせて川へどぼーん。哀れ、健気な少女は溺れてしまった。でもね、強い力でわたしを助けてくれる人がいたの。あっという間にわたしを抱えあげて、地上にひきあげてくれた。最初は人間だと思ったわ、でも違ったの」
そこでいったん言葉を止め、ここからが肝心よ、と言わんばかりに私達をぐるりと見渡す。
「わたしを助けてくれたのはね、絵本やアニメの中でしか見たことがない、河童だったのよ……! 川の中から頭だけを出して、心配そうにわたしを見ていた。最初は自分の目が信じられなかったわ。東京に帰りたいと思うあまり、まぼろしを見るようになったのかと思った。でもね、夢でも幻覚でもなかった。河童は目の前にいるんですもの。河童はわたしの無事を確認すると、川の中へ消えてしまった。『彼』との出会いが、わたしのその後の人生を大きく変えることになっていくのよ……!」
恍惚な表情で、雄弁に語る優花さんは、舞台に立つ女優のようだった。
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