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第三章
女子会
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私がみなも荘に来てから、早いもので三ヶ月が経とうとしていた。
みなも荘で暮らす、異類婚姻夫婦の仲間であり家族とも、すっかり打ち解けていた。
「ねぇねぇ、楓ちゃん」
「なんですか? 優花さん」
その日は『みなも荘女子会』と呼ばれる、妻たちのお茶会だった。結婚しているのだから、女子会というのは少し違うような気もしたけれど、優花さんが、
「妻たちのお茶会だからって、『ママさん会』とか『婦人会』とか、おばさんっぽいのは嫌よ。私達は異類婚夫婦だもの。特別なのよ。もっとお洒落に、ハイソにならなとね!」
と強く訴えたからだ。「みなも荘女子会」というネーミングが、お洒落でハイソかどうかは少々疑問だけれど、常に若々しくありたいってことなんだろう。
異類婚姻夫婦の妻たち、優花さん、雪華さん、椿さんとも仲良くやれていると思う。
今後も交流を大事にしましょう、ということになり、今回のみなも荘女子会が開催されたというわけだ。
土曜日の昼下り、それぞれが持ち寄ったお菓子やお茶を和やかに楽しんでいた。その途中、優花さんが私に突然聞いてきた。
「聞いていいかしら。楓ちゃんと信さんは、どうやって出会ったの? なれそめは?」
優花さんの目が、きらきらと少女のように輝いていた。
「それ、あたしも興味あります。半神である信さんとどうやって出会ったのか」
雪女の雪華さんも興味津々といった様子だ。
「わたしも興味があるわね。人間の楓さんと、水神の子であり半神の信さんがどのように出会ったのか。記録させてもらっていいかしら。後でレポートにまとめたいから」
眼鏡をくいっと持ち上げながら、椿さんがその眼をきらりと光らせた。
「椿ちゃん、レポートってどこかに報告でもするの? 恋バナなのよ、もっとドキドキしてよ」
優花さんが不満そうな声を上げる。恋バナかどうかはともかく、レポートはちょっと嫌かも……。
「どこにも報告なんてしないわ。ただ今後の参考に記録しておきたいだけ。記録は歴史よ。異類婚夫婦の歴史を私の中に残しておきたいの」
「歴史……」
思わぬ言葉に一同驚いてしまったが、椿さんは記録マニアなのかな。医師だから、私達とは少し違う感覚をもっているのかもしれない。
「歴史かどうかはともかく、楓ちゃん! 皆も貴女と信さんの出会いに興味があるっていってるわ。聞かせてくれないかしら。恋の話で盛り上がりましょうよ!」
優花さんがにっこり笑顔でにじり寄ってくる。困ったな……。なんとなく逆らえないような気がする。美女の微笑みの威力はすさまじい。
「話すのはいいんですけど、ひとつだけ条件があります」
私は覚悟を決め、深呼吸をした。そのまま話すのではもったいないから、条件を付けることにしたのだ。
「なぁに?」
優花さんが少女のようなあどけない微笑みを浮かべている。
「優花さん、雪華さん、椿さんの御主人との出会いやなれそめを教えてくれませんか? 皆さんのことをもっと知って仲良くなりたいですし」
3人とも息をのんだ様子だった。私からこんな要望を出すとは思わなかったんだろう。
「いいわね、それ!」
「優花さん……?」
優花さんが身を乗り出すように、顔を輝かせる。
「女子会といえば恋バナですものね、いいわ。それぞれ夫との出会いの話を暴露しちゃいましょう!」
雪華さんと椿さんは互いに顔を見合わせ、困ったような表情だ。
「私たちはもっと仲良くなったほうがいいと思うの。簡単でいいから、自己紹介のつもりで話してしまいましょうよ、ね?」
にこやかな笑顔だが、有無を言わせない迫力のある美女の微笑み。こうなったら、彼女には誰も逆らえない。そんな気がした。
「わかりました」
「仕方ないわね」
雪華さんと椿さんも受け入れてくれたようだ。
みなも荘女子会は、こうして恋の話へと突入したのだった。
みなも荘で暮らす、異類婚姻夫婦の仲間であり家族とも、すっかり打ち解けていた。
「ねぇねぇ、楓ちゃん」
「なんですか? 優花さん」
その日は『みなも荘女子会』と呼ばれる、妻たちのお茶会だった。結婚しているのだから、女子会というのは少し違うような気もしたけれど、優花さんが、
「妻たちのお茶会だからって、『ママさん会』とか『婦人会』とか、おばさんっぽいのは嫌よ。私達は異類婚夫婦だもの。特別なのよ。もっとお洒落に、ハイソにならなとね!」
と強く訴えたからだ。「みなも荘女子会」というネーミングが、お洒落でハイソかどうかは少々疑問だけれど、常に若々しくありたいってことなんだろう。
異類婚姻夫婦の妻たち、優花さん、雪華さん、椿さんとも仲良くやれていると思う。
今後も交流を大事にしましょう、ということになり、今回のみなも荘女子会が開催されたというわけだ。
土曜日の昼下り、それぞれが持ち寄ったお菓子やお茶を和やかに楽しんでいた。その途中、優花さんが私に突然聞いてきた。
「聞いていいかしら。楓ちゃんと信さんは、どうやって出会ったの? なれそめは?」
優花さんの目が、きらきらと少女のように輝いていた。
「それ、あたしも興味あります。半神である信さんとどうやって出会ったのか」
雪女の雪華さんも興味津々といった様子だ。
「わたしも興味があるわね。人間の楓さんと、水神の子であり半神の信さんがどのように出会ったのか。記録させてもらっていいかしら。後でレポートにまとめたいから」
眼鏡をくいっと持ち上げながら、椿さんがその眼をきらりと光らせた。
「椿ちゃん、レポートってどこかに報告でもするの? 恋バナなのよ、もっとドキドキしてよ」
優花さんが不満そうな声を上げる。恋バナかどうかはともかく、レポートはちょっと嫌かも……。
「どこにも報告なんてしないわ。ただ今後の参考に記録しておきたいだけ。記録は歴史よ。異類婚夫婦の歴史を私の中に残しておきたいの」
「歴史……」
思わぬ言葉に一同驚いてしまったが、椿さんは記録マニアなのかな。医師だから、私達とは少し違う感覚をもっているのかもしれない。
「歴史かどうかはともかく、楓ちゃん! 皆も貴女と信さんの出会いに興味があるっていってるわ。聞かせてくれないかしら。恋の話で盛り上がりましょうよ!」
優花さんがにっこり笑顔でにじり寄ってくる。困ったな……。なんとなく逆らえないような気がする。美女の微笑みの威力はすさまじい。
「話すのはいいんですけど、ひとつだけ条件があります」
私は覚悟を決め、深呼吸をした。そのまま話すのではもったいないから、条件を付けることにしたのだ。
「なぁに?」
優花さんが少女のようなあどけない微笑みを浮かべている。
「優花さん、雪華さん、椿さんの御主人との出会いやなれそめを教えてくれませんか? 皆さんのことをもっと知って仲良くなりたいですし」
3人とも息をのんだ様子だった。私からこんな要望を出すとは思わなかったんだろう。
「いいわね、それ!」
「優花さん……?」
優花さんが身を乗り出すように、顔を輝かせる。
「女子会といえば恋バナですものね、いいわ。それぞれ夫との出会いの話を暴露しちゃいましょう!」
雪華さんと椿さんは互いに顔を見合わせ、困ったような表情だ。
「私たちはもっと仲良くなったほうがいいと思うの。簡単でいいから、自己紹介のつもりで話してしまいましょうよ、ね?」
にこやかな笑顔だが、有無を言わせない迫力のある美女の微笑み。こうなったら、彼女には誰も逆らえない。そんな気がした。
「わかりました」
「仕方ないわね」
雪華さんと椿さんも受け入れてくれたようだ。
みなも荘女子会は、こうして恋の話へと突入したのだった。
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