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13 ※エルフィングside

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ドカドカと人の合間を縫って歩き、個室に入る。
焦りからロレッタにちゃんと説明出来ないまま来てしまった。だが、問題は此奴だ。

「どうして貴方様が此方にいらっしゃるのですか」

「ち、ちょっと足速すぎない……っ。一旦休憩、させて…」

「諸々手短にお願い申し上げます」

「厳しっ!」


日頃の運動不足が祟ってか、ゼェ、ハァと肩で呼吸している彼は、変装の為のもっさりとしたウィッグを脱ぎパタパタと手扇で顔を冷やした。
そして、片手で美しい銀色の髪を掻き上げると、金の目が光る。
相反する様な色彩を持ちながら絶妙なバランスで成り立つ、男の俺から見てもとても整った容姿で世の女性陣の視線を掻っ攫う人物。
淑女方の前では絶対にしないで欲しい行為だ。俺の前で良かったと思っておこう。


「わざわざ変装して見に来たのに。君の大きな背中で婚約者ちゃんは全く見えなかったよ」

「…別日にお時間を頂いています。その時に紹介致しますと申し上げた筈ですが?」

「だって早く見たかったんだもん。君の心を射止めた婚約者ちゃんに」

「はぁ…。とりあえず、此方でお待ち下さい。ロレッタを呼んで来ます」

「ちょっと!今、ため息ついたでしょ!」

「お茶を持って来させます。どうか『大人しく』お待ち下さいね」

「え~、は~い」

言いたい事は山ほど有るが、招待客が気付く前だったので良しとしよう。
それよりも、置いてきてしまったロレッタが気掛かりで足早にホールに戻る。

すると、何やら中央付近で言い争っている様な声がした。
しまった、と思い近付くと一人の令嬢とロレッタが居た。




「それで、それで!?」

「私は目の前に電流が走ったかのように彼を見て凍り付いたのです。なんて素敵な方なのでしょう、と。そして、それは私だけではなく彼も…」

「きゃー!!一目惚れね!?」

「そう、お互いがお互いを一目惚れしたのです。信じられないかも知れませんが、運命的な出会いという物は本当に有るのだなと感じました。その後会話が弾み、お互い貴族で有る事を知ったのです」

「ロマンティックね…市井で出会ったのにお互い貴族だったなんて、なんて運命なの!」


どうやら、言い争っている訳では無いらしい。
だが、分かる人には分かるのだがロレッタはパンク寸前だ。扇子で上手く表情は隠しては居るが、俺には頭から煙を出しているように見える。

先生から言われたとはいえ、アレを本当に実行しているとは。

素直な人だ。


「ロレッタ」

「え、エル様!?聞いていらしたのですか……」

「あぁ、それは二人だけの秘密だろう?」

「は、はい。申し訳御座いません…」

後ろから彼女の手を取り引き寄せ、腕の中に収めると彼女の顔が良く見える。
俺が戻って来た安堵、そして先程の羞恥心も有りプルプルと震えている。
まるで子犬だ。

「話しの腰を折ってすまないね、私の愛しのロレッタとこれからも仲良くしてやって欲しい。では、パーティーを楽しんで」

普段はしないがニッコリ笑って言うと、ギャラリーが黄色い悲鳴を上げ口々に「エルフィング様が笑ったわ!」、「勿論ですわ!」やら「純愛ですのね!」やらが聞こえ、淑女の方々による純愛論争が始まったのでロレッタを連れてするりと抜け出す事が出来た。

ロレッタはラン=デルフィニウム夫人からもし絡まれたら二人の出会いを誇張して愛ゆえに婚約したと喋るように、わざわざ夫人が台本まで書いて覚えさせていたのだ。
そんな物は覚える必要等無いと思っていた。まさか実践し、本当に役に立ってしまったとは…。

人気が無くない廊下までロレッタの手を引き、歩いて行く。
彼女は俯いたまま、静かに手を引かれていた。

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