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白百合、目覚めの時
しおりを挟む「んっ……」
頭がガンガンする。そして、何だか肌寒い。
まだ身体は痺れが取れておらず、瞼を開くのもやっとだ。
「カミュ…?」
私を呼ぶ声がしたので、重たい首を回すとシルヴィが泣きそうな顔をしていた。
「…シ、ルヴィ、やっぱり来てくれたんだね。ごめんね、毒系には……、耐性が有るから油断して……。ちょっとしくじってしまった」
笑えているだろうか、これが夢で無かったら良いな。
起きたら姫に食べられてました、とかなら一生目を開けたくない所だ。
「馬鹿!!カミュが謝る事なんて何も無いわ!
無事で良かった……」
ガバッとシルヴィが寝ている私に覆い被さる様に抱き締める。
温かい……、夢では無い様だ。
安堵で力が抜ける。
「…そう、か。私は無事…、だったんだね。有難う、シルヴィのお陰だ」
「えぇ、私一人の力では無いのだけれど。タチアナ嬢の婚約者様が助けて下さったのよ」
「…あぁ、成程。彼なら彼女を黙らせる事が出来るね。
彼はアサム=サンダード。私が留学している時に知り合った遠国の王だ」
「そうだったの…、通りで威厳の有る御方だったわ」
「……シルヴィ…」
「何?」
私が名前を呼ぶと、シルヴィは腕を緩めて上半身を起こした。
「…素だね、可愛い」
「え」
自分では気付いていなかったのだろう。私が目を開けてからずっと素で喋っている。
何度か聞いてはいるが、こんな風にずっと話していてくれるのは始めてだ。
頬に触れると、シルヴィはボンッと身体中を真っ赤にさせた。
「ご、ごめんなさい!
今迄が素じゃ無かった訳じゃ無いのよ?
口調だけは矯正をし過ぎて使い方が分からなかったというか……」
最初は焦りで大きな声を出してしまったが、段々恥ずかしくなったのか尻すぼみになってモゴモゴしている。
「ふ、ふふ。分かっているよ、嬉しい。やっと本当のシルヴィに触れている気がする」
「カミュ……」
クスクスと笑っていると、シルヴィがまた泣きそうな顔をする。
「どうしたの?」
痺れも落ち着いて来たのでゆっくりと上半身を起こして、シルヴィに向き直った。
すると、シルヴィが私の手を両手でギュッと握る。
「カミュ、私……貴方が好きよ…。
タチアナ嬢に取られたく無いと…、本気で思ったの。私の旦那様なのだから、と」
「…!」
目を見開き、驚く。自分の顔も紅くなっていくのが分かる。
私はいつの間にか、シルヴィの両の手を握り返していた。
「……本当に?」
「本当よ、こんな冗談言わないわ。
彼女に触れられた貴方を見て……私、悔しかった」
「悔しい?」
「……貴方の一番は私が良い」
「うぐっ……!シルヴィ、心臓に悪いよ……」
なんて人だ。完全にダメージを食らってしまった。
「え、え?ごめんなさい!私ったら、はしたないかな……」
「ううん、シルヴィが余りに可愛い事を言うから…。
もう、待た無くても良いのかな?」
「…うん」
さらりと、シルヴィの頬に手を当てて
焦がれた唇に自分のを合わせる。
直ぐに離れ、シルヴィを見て
もう一度食んだ。
「あぁ、シルヴィ……本当に嬉しい。
私の事を好きになってくれて有難う。
このまま続きをしたいのは山々なんだけど、正直今は身体が万全では無い。
それに、戻らないと変な噂になってしまうからね。
とても残念だけど、戻ろうか」
私は最後の理性を振り絞り、シルヴィを抱き締める。
正直、身体は重い。
大概の毒は大丈夫なのに。あの姫、一体何飲ませたんだ。
「わ、わ、わ、分かったわ」
シルヴィの頬に触れるだけのキスをして、今まで上半身裸だった事に気付き脱がされたであろう服を着た。
皺にならない服で良かった。
「…カミュは男性なのね」
ジッと私の背中を見詰めていたシルヴィはボソリと呟く。
「え?今更?」
「い、いや!ごめんなさい、分かっているんだけれど職業柄男性の上半身は沢山見て来たからかな…。
やっぱりカミュはとっても綺麗で…性別の概念を忘れそう」
「はは、独特な褒め方だね。私はシルヴィがシルヴィならどちらでも良いよ」
「ふふ、確かにそうかもしれない。
私もカミュがカミュならどちらでも良いわ」
二人で笑い合い、何時もの和やかな雰囲気になる。
この瞬間がとても好きだ。
「よし、お待たせ。行こうか」
「えぇ」
扉の前までゆっくり歩き、振り返るとシルヴィと目が合った。
「シルヴィ、もう一度キスして良い?」
「えっ、も、もう一度!?」
「うん」
「い、いいよ」
シルヴィは先程とは違い、固く目を閉じて構えている。
そんなシルヴィも可愛くて、頬に手を当てた。
バァアアン!!!!
「カミーユ!!!大丈夫か!!パパが来たぞ!!!」
唇が重なる寸前、扉が盛大な音で開かれ父が入って来た。
「…………絶交です」
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