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白百合、領民と黒鷲を歓迎する
しおりを挟む「さぁ、もう少しで領地に着くよ。
シルヴィに一つだけ言っておきたい事が有るんだ…」
「どうした?」
「着いてもびっくり…は、すると思うから心構えしておいて?
うちの奴らは少しばかり、煩いのが多いんだ。失礼な事も言うかもしれないが、気の良い奴ばかりなんだ。仲良くしてやって欲しい」
「あぁ、分かった」
「あの擁壁の向こうがうちの領地だよ」
私が指を差すと、シルヴィはそちらを向く。
少しばかり心配だな…シルヴィが慣れてくれれば良いな…。
擁壁にある門を潜ると、大勢の人々が待ち構えていた。
私とシルヴィは窓を開けて手を振る。
「領主~ーー!!!おめでとう!今日もキレてんな!」
「黒鷲の姉ちゃん、手合わせ宜しくな!僧帽筋が火を噴くぜ!」
「おい!俺が先だぞ!羽生やして待ってんぞーー!」
「黒鷲様ーーこっち向いてぇ!腹筋バリカターー!!」
「ぎゃーーーー!カミーユざまぁがあぁああああ!!胸がはち切れそうぅうう!」
「泣くな!黒鷲には叶わねぇ!いい血管出てんな!」
領民が口々に祝いの言葉(?)をくれる。
筋骨隆々の男女が罵声を出している様は中々異様だろう。シルヴィは良い塩梅に筋肉が付いているが、うちの奴らは少し体格が良過ぎるからな。
相変わらず血の気の多い奴らだ…。と呆れながらもにこやかにシルヴィを見ると、目を一瞬だけ刮目したが笑顔で手を振っている。
流石だ…。
流石、私のお嫁さん。ひと味もふた味も違う。肝が据わっている。
「…明るい領民だな」
「びっくりした?」
「少しだけ…。私よりも大きい者が多いんだな」
「ふふ、そうなんだ。シルヴィは小さい方じゃないかな?」
「その様だな。カミュが例外な感じなのか?」
「父はあんな感じだよ。私は母に似たんだ」
「成程」
手を振り続けながら笑顔で会話をする。
人の波が終わり、少し走らせるとアルディアンの邸に到着した。
「お帰りなさいませ。旦那様、奥様」
使用人は少数精鋭なので、そんなに数は居ない為覚えて貰いやすいだろう。
「帰ったよ。皆、留守の間ご苦労だった。私の妻のシルヴィアだ。宜しく頼むよ」
「以後、宜しく頼む」
「一部紹介させてね、こちらの執事のベンジャミン。そして、シルヴィ付きになって貰うローザンヌだ」
「執事のベンジャミンと申します」
「シルヴィア様の侍女を任せられました。ローザンヌと申します」
「宜しく」
「ふふ、では疲れているだろうからシルヴィを部屋へ案内しよう。ローザンヌ」
「畏まりました、こちらへ」
気に入って貰えるだろうか。
事前調査は堅実にしたのだ。堅実に、だ。
「シルヴィア様のお部屋はこちらになります」
扉を開けて、中に入って貰う。
「なんて素敵なの…」
シルヴィが微かな声で呟いた。
「気に入って貰えた?」
子花柄がライン状に入った薄桃色の壁紙
猫足の家具に、細やかな装飾
美しいが華美過ぎない鈴蘭の様な照明
品が有るが、とても可愛らしい物ばかりが並んでいる。
「…どうして、分かった?」
「ふふ、気に入って貰えて良かったよ。実は母の部屋だったんだ。
シルヴィの好みじゃ無さそうだったら替えようかと思っていたんだけど、シルヴィのお義母様に聞いたらシルヴィは可愛らしい物が好きだと聞いてね。そのままの方が良いかと思ったんだ」
「…そうだったのか。母上に知られていたとは…。その…、似合わないだろう?」
「ん?何が?」
「可愛らしい物が好きだなんて 」
「え?普通でしょ?
ちょっとシルヴィ、そこに立ってみて?」
「ここか?」
シルヴィが何だかとても悲しそうな顔をしていたので、部屋の真ん中に立たせてみた。
「うん!自然!とっても可愛いよ」
私が手で額縁を作り覗くと、とても絵になるシルヴィが立っていた。
完璧だ。似合わないなんて事が有るか。
私がそう言うと、シルヴィは恥ずかしそうに自分のズボンを握り締めていた。
「…じゃあ、このままで良い」
顔をほんのり紅くして微笑むシルヴィは、この部屋に似合ってとても美しかった。
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