上 下
7 / 16

7

しおりを挟む
「す……凄っ!疑ってる訳じゃなかったけど、本当にプロなんだね!!わーーーー!!!もっと色々聞きたい!いっぱい、いっぱい調べたんだけどやっぱりまだ知らない事有るんだなーー!ねぇ、ねぇ!アタシ、サイラスにずっと聞きたい事が有ったのっ!」

「ひっ、え、え?ど、どうぞ。」

 罵られたり、失望されるのかと思いきや、グイグイと近付いて来るアリーナに押されてサイラスはタジタジだ。
 こんな反応は今迄見た事が無かった。

「アタシねっ、ネイリスト目指してんだけど。あ、アタシ転生者なんだけどね?ネイルって爪に装飾をする事なんだけど、そのネイルの素材がどうしても見つからないってか、分かんなくって!サイラスなら何か知ってるかなぁ~って!」

 初めて聞く単語の数々にサイラスは目がチカチカとする。が、それと同時に自分が何か役立てるのでは無いかとワクワクとした。

「詳しく。」

「うんっ。爪に色を塗ったり、宝石とか貝殻とかを付けたいの。それには下地になるものが必要でね?出来れば色が付けやすい透明の液体が固まって、それがお風呂とかの水に強くて、剥がしやすければ尚良しって感じ!」

「ふむ。加工のしやすい、凝固する透明の液体で人畜無害のやつね。」

 アリーナの言った言葉を自分なりに解釈し、メモを書いていた。
 そして、暫く考え込むとスクッと立ち上がり、ブツブツと言いながらシャーレをいくつか取り出す。

「今聞いた感じだと、これが最適かな。
ブルースライムだ。」

 そう言って一つのシャーレをアリーナに手渡す。

「え?これ、粉だよ?」

「そうだ。今は乾燥させて粉にした状態だが、コレに水を少し混ぜる。」

 シャーレを開けて、それを大きめのビーカーに入れ、違うビーカーから水を少しずつ加えて混ぜていく。
 すると、少しずつ膨れ上がりブヨブヨとしたものになっていった。

「わぁ!!ブヨブヨになった!!ちょい青み有るけど透明で使いやすそう!」

「あぁ、完全に液体では無いが粘弾性で使いやすいかと思う。実際色んな物に使っているんだ。緩衝材や保冷剤等が使用例。水を加える量によって緩さが変わり、数十秒でこの様に固まってしまう。」

 サイラスが触ってみろ、とばかりにビーカーをアリーナの前に差し出してきたので触ってみると、少し弾力を残したまま上層部は既に固まってきている。

「固まってる!あ、でもさ元に戻っちゃうからお風呂とかはダメだよね?」

「その通りだ。だから、こっちを上に重ねたらと思って。」

 渡されたもう一つのシャーレには液体が入っていた。
 サイラスは細い刷毛を机の中から取り出すと、ビーカーの中のブルースライムのまだ柔らかい部分をすくい取り、紙の上に分かりやすいように多めにこんもりと塗り、少し待ってからその上に違う刷毛でその液体を塗り付けた。

「コレで水に強くなったはず。」

 ぺリッとそのブルースライムを紙から剥がし、紙に付いていた部分にもその液体を塗ってから水の入っているビーカーの中へとポチャンと入れた。

 「えっ、浮いてる!ブヨブヨに戻ってない!」

 それは、プカプカと水の上を浮くだけで先程の様な現象は起こらなかった。

「これはコルボアという植物の汁だ。ブルースライムと相性が良くて、コレを塗ると水を弾く様になり耐久性も上がる。
そして、最後の剥がしやすさだが…元に戻す、でも良いならこのサンドワームの繭の粉末の中に入れれば良い。水分を取られ乾燥して、こちらも数十秒で粉の状態に戻る。」

 サイラスがまた違うシャーレに入った粉末の中にブルースライムを入れ少し待つと、乾燥してサラサラとした粉の状態になった。

「わー!!スゴすぎ!!」

「今は混ざっているが粒子の大きさが違うので、ふるいにかけると再利用可能だ。」

「再利用まで!??え~ーー………もう言葉出ない。感動………マジで、マジでありがとう。あ、あれ。ちょっと待って、ごめん。」

 精一杯努力はしたけれど何も出来なかった六年間、サイラスの手に掛かればこんなにもあっさりと糸口が見つかり、驚きと嬉しさで感情がぐちゃぐちゃになってしまう。
 アリーナはポロポロと流れ出てしまうそれを、ぐるりと後ろを向いて手でゴシゴシと強引に拭き取っているが、全く追いつかない。

 サイラスはギョッとして一通りワタワタとした後、清潔な布を棚から取るとそれをアリーナに差し出した。

「ま、まだ色を入れたりするとちゃんと出来るかも分からないし、水の調節とかは自分でして貰わないといけないからっ、……その、なんだ、えっと……とりあえず、使って。き、綺麗なやつだから。」

「~~ーーーー、やっぱ、いー奴じゃんかーーー!」

 今度はわんわんと泣き出してしまった彼女に、サイラスは今迄泣かれた事も無かったので、どうしてあげたら良いか分からず更にワタワタとしてしまう。
 とりあえず背中をさすってやるとグズグズとなって来たので、落ち着くまでさすってやる事にした。


「…グスッ、ありがと。落ち着いた。」

 ずっと背中をさすってくれたサイラスの肩をポンポンと叩くと、ホッとした様にその手が離れていく。
 もう少しさすって欲しかったけれど、まだ知り合って間も無い彼に何時までも泣いて困らせるのは違う気がしたのだ。

「ごめんね、嬉し過ぎて感情爆発しちゃった。」

「あ、あぁ。落ち着いたなら良かった。」

 サラサラとした粉を触る。まだ、やってみないと分からない事は多いが、サイラスが居れば出来ると確信をした。
 
「…凄いね、魔法みたい。サイラスと出会えてちょーラッキー。」

「……その口調は、その、転生者とかいうやつだからか?」

「あ、そうそう。信じられないかもだけど、全然違う世界から生まれ変わってこの世界に来たんだぁ~。
前世の事を覚えてるの。多分、若くして死んじゃったんだけどね?その時の夢がネイリスト!で、今その夢を叶えたいって思ってる。」

「なるほど。理解した。」

「え、信じてくれんの?」

「うん。そうでないと不可解な事も多い。ネイリストなんて言葉知らないから。」

「…ーー!?ありがとーーーーー!!実は初めて言ったんだよね、転生者だって。信じてくれて嬉しー!」

 アリーナは嬉しさの余りサイラスに抱き着いた。

 カチーンと固まってしまった彼に気付き、『あ、やっちゃった』と思って離れるとバターーーーーンと大きな音を立ててサイラスは床に倒れていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...