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ドキドキと胸を高鳴らせてアリーナはベッドに座る。
「…どーしよ。ぜんっぜん心構え出来てないんだけど。」
だが、可愛らしく待っている訳では無い。
冷や汗をダラダラと流しながら膝を抱えている状態だ。
残念ながら前世においても経験が無く、しかも人柄さえ分からず、式当日に一言二言誓いの言葉のみを交わした程度の人物を相手しなければならないのだ。
バタバタと迎えてしまった初夜。
彼女はずっとドラマチックな初体験を夢見ていたが、貴族に転生してしまった自分を恨むしかなかった。
「こんな事なら友達の話もっとちゃんと聞いとくべきだったなぁ~~……。」
どうしようも無い事を呟き、頭を抱えて何度目かの大きな溜息を零す。
ギャルが何言ってんだと思うかもしれないが、前世彼女はずっとネイルの為にバイトに明け暮れる日々だった。
それは此方の世界でも似通っていて、ネイルの為に女性陣やコスメに精通してそうな人との交流を最優先にしていた為、恋バナすら無縁だった。
酔っ払いの親父の対処法は分かるが、恋愛事はさっぱりである。
アリーナがサイラスとの婚姻を決めてから、それはもうトントン拍子に話が進み、結婚式の衣装選びでさえ怒涛過ぎて覚えていなかったが、当日見てみるとウェディングドレスはとても可愛らしくちゃんと満足した物だった。
心残りはブライダルネイルが出来なかった事だ。
彼氏が出来た事すらないが、結婚式に夢は有った。
白を基調としたグラデーションにスワロフスキーを散りばめ、花を象って爪に小さい花束を作ってみたかった。
その夢は今世でも叶えられる事は無い。
せめて痛くなければ良いな、と自らを慰めて綺麗な爪を眺めた。
「ツルピカだなぁ~……。」
ーガタンッ
「なっ!?なななな、何故君がここにいるんだ!??」
パッと顔を上げると、そこには腰を抜かしているサイラスが居た。
なにやら顔を真っ赤にして慌てているので、アリーナはこてんと首を傾げた。
そして、スっと立ち上がると美しいカーテシーをする。
「今宵は可愛がって下さいませ。」
確か作法はこうだったか。この世界の人はなんて恥ずかしい言葉で初夜を迎えるんだ、とアリーナは自らも赤い顔をしながら習った通りに出来た自分自身を褒め称えた。
「うわあああああ!!」
するとサイラスはバタバタと走ってアリーナに自分の上着をズボッと被せた。
「へっ?」
「ば、馬鹿か、君は!!ううううう、うら若き乙女がそんな事をするんじゃない!」
急に大きい声を出され、アリーナから距離を取り指さしながら上下にブンブンと振るサイラスを見てアリーナはキョトンとしてしまう。
もしかしなくとも、彼は私を気遣ってくれている。そう感じたアリーナは上着の温もりをギュッと握りしめた。
「ふふ、あは、ははっ」
そして、堪えきれずに笑ってしまった。
余りにも必死な彼に緊張していた自分さえ馬鹿らしくて、何かどうでも良くなってしまった。
サイラスは日頃運動をしていないからか、ゼェゼェと肩で息をしている。
「な、何を笑っている……。」
「ううん、あなたと仲良く出来る気してきたとこっ。あ、今日から夫婦なんだし、堅苦しいのは無しでいい?」
「あ、ああ。大丈夫だ…。」
目に溜まった涙を指で拭い、急に口調を変えたアリーナにサイラスは動揺を隠せなかった。
アリーナは平然とポンポンとベッドを叩き、自分の隣に座る様にサイラスを迎え入れると、カチコチの彼を見て本当に彼が『血染めのサイラス』と呼ばれる人物なのか興味が湧いて来る。
「ちゃんとした自己紹介まだだよね?知ってると思うけど、アタシはアリーナ。あだ名は無し!趣味はネイル!って言いたいとこだけど、諸事情で今は出来てなくて~って感じ!」
「あだ名…?ネイル…?僕はサイラス…、魔物研究をしている。
……変な奴だな、僕が怖く無いのか?」
訝しげなサイラスと対照的にアリーナの頭の上はハテナで一杯だ。
「え?どこら辺が???」
「どこら辺って……、見た目がこんなだし…。それに、僕は『血染めのサイラス』だぞ?」
確かに、サイラスは不健康そうな身体付きだ。骨が浮き出る程に痩せていて、艶の無い黒髪を目の下まで伸ばし、顔の上半分は全く見えないが、こけた頬は露見している。
その姿は噂に有った通りに見える。
だが、寝間着を着た彼は清潔感が有り、血の匂いすらしなかった。
寧ろ、お風呂上がりの石鹸の香りがしたので、怖がるとしたら襲われる時だと思うのだが、先程の様子では彼はそのような事はしないだろう。
「ぜーーーんぜん怖くないよっ?やっぱ噂よりホンモノと喋るべきじゃん?あーーー、良い人そうで良かったーーー。」
そう言いながら後ろに倒れるアリーナに、サイラスは開いた口が塞がらなかった。
「…どーしよ。ぜんっぜん心構え出来てないんだけど。」
だが、可愛らしく待っている訳では無い。
冷や汗をダラダラと流しながら膝を抱えている状態だ。
残念ながら前世においても経験が無く、しかも人柄さえ分からず、式当日に一言二言誓いの言葉のみを交わした程度の人物を相手しなければならないのだ。
バタバタと迎えてしまった初夜。
彼女はずっとドラマチックな初体験を夢見ていたが、貴族に転生してしまった自分を恨むしかなかった。
「こんな事なら友達の話もっとちゃんと聞いとくべきだったなぁ~~……。」
どうしようも無い事を呟き、頭を抱えて何度目かの大きな溜息を零す。
ギャルが何言ってんだと思うかもしれないが、前世彼女はずっとネイルの為にバイトに明け暮れる日々だった。
それは此方の世界でも似通っていて、ネイルの為に女性陣やコスメに精通してそうな人との交流を最優先にしていた為、恋バナすら無縁だった。
酔っ払いの親父の対処法は分かるが、恋愛事はさっぱりである。
アリーナがサイラスとの婚姻を決めてから、それはもうトントン拍子に話が進み、結婚式の衣装選びでさえ怒涛過ぎて覚えていなかったが、当日見てみるとウェディングドレスはとても可愛らしくちゃんと満足した物だった。
心残りはブライダルネイルが出来なかった事だ。
彼氏が出来た事すらないが、結婚式に夢は有った。
白を基調としたグラデーションにスワロフスキーを散りばめ、花を象って爪に小さい花束を作ってみたかった。
その夢は今世でも叶えられる事は無い。
せめて痛くなければ良いな、と自らを慰めて綺麗な爪を眺めた。
「ツルピカだなぁ~……。」
ーガタンッ
「なっ!?なななな、何故君がここにいるんだ!??」
パッと顔を上げると、そこには腰を抜かしているサイラスが居た。
なにやら顔を真っ赤にして慌てているので、アリーナはこてんと首を傾げた。
そして、スっと立ち上がると美しいカーテシーをする。
「今宵は可愛がって下さいませ。」
確か作法はこうだったか。この世界の人はなんて恥ずかしい言葉で初夜を迎えるんだ、とアリーナは自らも赤い顔をしながら習った通りに出来た自分自身を褒め称えた。
「うわあああああ!!」
するとサイラスはバタバタと走ってアリーナに自分の上着をズボッと被せた。
「へっ?」
「ば、馬鹿か、君は!!ううううう、うら若き乙女がそんな事をするんじゃない!」
急に大きい声を出され、アリーナから距離を取り指さしながら上下にブンブンと振るサイラスを見てアリーナはキョトンとしてしまう。
もしかしなくとも、彼は私を気遣ってくれている。そう感じたアリーナは上着の温もりをギュッと握りしめた。
「ふふ、あは、ははっ」
そして、堪えきれずに笑ってしまった。
余りにも必死な彼に緊張していた自分さえ馬鹿らしくて、何かどうでも良くなってしまった。
サイラスは日頃運動をしていないからか、ゼェゼェと肩で息をしている。
「な、何を笑っている……。」
「ううん、あなたと仲良く出来る気してきたとこっ。あ、今日から夫婦なんだし、堅苦しいのは無しでいい?」
「あ、ああ。大丈夫だ…。」
目に溜まった涙を指で拭い、急に口調を変えたアリーナにサイラスは動揺を隠せなかった。
アリーナは平然とポンポンとベッドを叩き、自分の隣に座る様にサイラスを迎え入れると、カチコチの彼を見て本当に彼が『血染めのサイラス』と呼ばれる人物なのか興味が湧いて来る。
「ちゃんとした自己紹介まだだよね?知ってると思うけど、アタシはアリーナ。あだ名は無し!趣味はネイル!って言いたいとこだけど、諸事情で今は出来てなくて~って感じ!」
「あだ名…?ネイル…?僕はサイラス…、魔物研究をしている。
……変な奴だな、僕が怖く無いのか?」
訝しげなサイラスと対照的にアリーナの頭の上はハテナで一杯だ。
「え?どこら辺が???」
「どこら辺って……、見た目がこんなだし…。それに、僕は『血染めのサイラス』だぞ?」
確かに、サイラスは不健康そうな身体付きだ。骨が浮き出る程に痩せていて、艶の無い黒髪を目の下まで伸ばし、顔の上半分は全く見えないが、こけた頬は露見している。
その姿は噂に有った通りに見える。
だが、寝間着を着た彼は清潔感が有り、血の匂いすらしなかった。
寧ろ、お風呂上がりの石鹸の香りがしたので、怖がるとしたら襲われる時だと思うのだが、先程の様子では彼はそのような事はしないだろう。
「ぜーーーんぜん怖くないよっ?やっぱ噂よりホンモノと喋るべきじゃん?あーーー、良い人そうで良かったーーー。」
そう言いながら後ろに倒れるアリーナに、サイラスは開いた口が塞がらなかった。
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