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第5章 第0騎士団
第11話 黒の封筒
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無事帰還を果たしたラインバッハとルーズハルトは本陣の本部天幕へと招へいされていた。
ルーズハルトとしてはさすがに戻ってきたばかりで休みたい気持ちでいっぱいだった。
しかし面倒は先の方がよいとラインバッハに諭され、こうしてここに来たわけだが……どうにも空気がおかしいことに気が付いた。
それもそのはずで、ルーズハルトとラインバッハを忌々し気に見つめるフェンガーの姿があった。
「ラインバッハよ、よく無事で戻ったものだ。まあ、平民風情が生きて帰ったところでさほど戦局には影響は無かろう。どれほど討伐してきたかは知らんが、崇高なる貴族の命を守ったことは褒めて遣わす。これからも頼んだぞ?」
「……はっ。」
ラインバッハを蔑むような視線で見つめる第3騎士団第3大隊大隊長のフランツ・フォン・ハイネ。
それに追従するかのように笑い出す副隊長のダッテモー。
それが伝播するように天幕は嘲笑であふれかえる。
ルーズハルトは今にも暴れ出しそうになったが、ラインバッハが耐えていた為、そうならずに済んだ。
「フリードリッヒ隊長。この者が殿部隊の隊長に自ら名乗り出たことで間違いはないか?」
「はい……負傷兵と自分の兵を使って肉壁になることを提案してきたのです。私は止めましたが、治療代がもったいないからと実に聞くに堪えぬ言葉で負傷兵をなじり、そして無理やり隊長の任に付いたのです。」
開いた口が塞がらないとはこのことだろうかともう程、ルーズハルトは唖然としてしまった。
殿部隊を編成し、隊長に任命したのは間違いなくフェンガーであった。
ルーズハルトはすでに殿部隊のメンバーに確認を取っており、報告書にも記載してあった。
「ですがその前にお話がございます。先ほどもご報告を上げた通り、我々補給部隊は劣化龍種の奇襲を受けました。その際私の指示に従わず、ラインバッハ殿は自分勝手な指示を部下に出し、現場を混乱の極致へと追いやったのです。そして旗色が悪くなると、先ほどの話通り殿部隊を編成し、こうして帰還を果たしたのです。おそらくそれも彼の計算の内でしょう。殿部隊で帰還を果たせばある種英雄ともいえますからな。」
つらつらとでたらめを語り、にまりと笑うフェンガー。
ルーズハルトは怒りを通り越して呆れかえるほかなかった。
こういうやつが上官としてのさばる限り、部下たちの命は無駄に散っていくだけだと思い知らされた。
無能無能とは思っていたが、ここまで無能をさらけ出すとは思いもよらなかった。
いまだルーズハルトはラインバッハの後ろに控え、フードをかぶったままにしていた。
フェンガーに見られたくないということもあるが、そもそもルーズハルト自身があくまでも救援に向かっただけだということもあり、出しゃばるつもりはなかった。
「それと、その後ろの者も怪しい物です。一応第5騎士団からの応援部隊。戦闘については怪しい物がありますからな。」
フェンガーの言葉に周囲の騎士から嘲笑が漏れ出る。
確かにルーズハルトが出向している第5騎士団は戦場への補給活動を主軸としていた。
その為戦闘については今一つというが騎士団全体の認識となっている。
だが全く戦闘が出来ないわけではない。
むしろ戦闘が出来なければ補給部隊などできるはずもない。
騎士の花形は戦場にあるという認識の貴族が多いが、むしろ戦略的に狙われやすいのが補給部隊だ。
その為下手な騎士よりも戦闘力において上回っているが、それを喧伝したところで何ら意味がないと、第5騎士団の団員は沈黙を守っていたりする。
ルーズハルトから深いため息が漏れる。
あまりにも程度が低すぎて、同じ国に仕える騎士として情けなく思えてきた。
「失礼を承知で発言する。久しぶりだなフェンガー。学園でのあほっぷりに磨きがかかって何よりだ。」
ルーズハルトが着いた膝を上げフードを取る。
フェンガーもどこかで見た顔だと思い、記憶を遡り、学園時代を思い出した。
「あの時の平民か!!」
「覚えてくれてなくてよかったんだがな。それよりもお前の無能は今だ健在で助かったよ。そのおかげで俺は良い知古をえたんだから、その点は感謝する。それからここからはお前の出る幕じゃないから引っ込んでてくれないか?」
冷めた瞳をフェンガーに向けるルーズハルト。
その瞳は憐れみや嘲笑など一切含んでおらず、何の感情すら入っていなかった。
それを馬鹿にされたと思い憤るフェンガーは声を荒げて怒りをあらわにする。
沸点が低すぎるのか言語化が不可能なほどに。
「黙れよ無能が……」
さっきの込められたルーズハルトの一言。
それだけで声が一切出ない程、フェンガーは委縮してしまった。
それは周りにも伝播していき、周囲にいた貴族騎士の声も殺していく。
「あぁ~面倒だからこれを渡しておく。」
そう言うとルーズハルトは一通の手紙を大隊長であるフランツに手渡す。
この時フランツは嫌な予感を感じていた。
噂には聞いていた手紙。
黒の封筒……
国王が直接封蝋をすると言われている封筒だ。
それがルーズハルトの手にある。
だが眉唾物だという噂もあり、フランツは動揺を隠しながらルーズハルトからその手紙を受け取ったのだった。
「受け取った時点でこの封筒は効力を発揮する事を此処に宣言する。」
ルーズハルトの宣言で、この場の空気は一気に緊張を増していったのだった。
ルーズハルトとしてはさすがに戻ってきたばかりで休みたい気持ちでいっぱいだった。
しかし面倒は先の方がよいとラインバッハに諭され、こうしてここに来たわけだが……どうにも空気がおかしいことに気が付いた。
それもそのはずで、ルーズハルトとラインバッハを忌々し気に見つめるフェンガーの姿があった。
「ラインバッハよ、よく無事で戻ったものだ。まあ、平民風情が生きて帰ったところでさほど戦局には影響は無かろう。どれほど討伐してきたかは知らんが、崇高なる貴族の命を守ったことは褒めて遣わす。これからも頼んだぞ?」
「……はっ。」
ラインバッハを蔑むような視線で見つめる第3騎士団第3大隊大隊長のフランツ・フォン・ハイネ。
それに追従するかのように笑い出す副隊長のダッテモー。
それが伝播するように天幕は嘲笑であふれかえる。
ルーズハルトは今にも暴れ出しそうになったが、ラインバッハが耐えていた為、そうならずに済んだ。
「フリードリッヒ隊長。この者が殿部隊の隊長に自ら名乗り出たことで間違いはないか?」
「はい……負傷兵と自分の兵を使って肉壁になることを提案してきたのです。私は止めましたが、治療代がもったいないからと実に聞くに堪えぬ言葉で負傷兵をなじり、そして無理やり隊長の任に付いたのです。」
開いた口が塞がらないとはこのことだろうかともう程、ルーズハルトは唖然としてしまった。
殿部隊を編成し、隊長に任命したのは間違いなくフェンガーであった。
ルーズハルトはすでに殿部隊のメンバーに確認を取っており、報告書にも記載してあった。
「ですがその前にお話がございます。先ほどもご報告を上げた通り、我々補給部隊は劣化龍種の奇襲を受けました。その際私の指示に従わず、ラインバッハ殿は自分勝手な指示を部下に出し、現場を混乱の極致へと追いやったのです。そして旗色が悪くなると、先ほどの話通り殿部隊を編成し、こうして帰還を果たしたのです。おそらくそれも彼の計算の内でしょう。殿部隊で帰還を果たせばある種英雄ともいえますからな。」
つらつらとでたらめを語り、にまりと笑うフェンガー。
ルーズハルトは怒りを通り越して呆れかえるほかなかった。
こういうやつが上官としてのさばる限り、部下たちの命は無駄に散っていくだけだと思い知らされた。
無能無能とは思っていたが、ここまで無能をさらけ出すとは思いもよらなかった。
いまだルーズハルトはラインバッハの後ろに控え、フードをかぶったままにしていた。
フェンガーに見られたくないということもあるが、そもそもルーズハルト自身があくまでも救援に向かっただけだということもあり、出しゃばるつもりはなかった。
「それと、その後ろの者も怪しい物です。一応第5騎士団からの応援部隊。戦闘については怪しい物がありますからな。」
フェンガーの言葉に周囲の騎士から嘲笑が漏れ出る。
確かにルーズハルトが出向している第5騎士団は戦場への補給活動を主軸としていた。
その為戦闘については今一つというが騎士団全体の認識となっている。
だが全く戦闘が出来ないわけではない。
むしろ戦闘が出来なければ補給部隊などできるはずもない。
騎士の花形は戦場にあるという認識の貴族が多いが、むしろ戦略的に狙われやすいのが補給部隊だ。
その為下手な騎士よりも戦闘力において上回っているが、それを喧伝したところで何ら意味がないと、第5騎士団の団員は沈黙を守っていたりする。
ルーズハルトから深いため息が漏れる。
あまりにも程度が低すぎて、同じ国に仕える騎士として情けなく思えてきた。
「失礼を承知で発言する。久しぶりだなフェンガー。学園でのあほっぷりに磨きがかかって何よりだ。」
ルーズハルトが着いた膝を上げフードを取る。
フェンガーもどこかで見た顔だと思い、記憶を遡り、学園時代を思い出した。
「あの時の平民か!!」
「覚えてくれてなくてよかったんだがな。それよりもお前の無能は今だ健在で助かったよ。そのおかげで俺は良い知古をえたんだから、その点は感謝する。それからここからはお前の出る幕じゃないから引っ込んでてくれないか?」
冷めた瞳をフェンガーに向けるルーズハルト。
その瞳は憐れみや嘲笑など一切含んでおらず、何の感情すら入っていなかった。
それを馬鹿にされたと思い憤るフェンガーは声を荒げて怒りをあらわにする。
沸点が低すぎるのか言語化が不可能なほどに。
「黙れよ無能が……」
さっきの込められたルーズハルトの一言。
それだけで声が一切出ない程、フェンガーは委縮してしまった。
それは周りにも伝播していき、周囲にいた貴族騎士の声も殺していく。
「あぁ~面倒だからこれを渡しておく。」
そう言うとルーズハルトは一通の手紙を大隊長であるフランツに手渡す。
この時フランツは嫌な予感を感じていた。
噂には聞いていた手紙。
黒の封筒……
国王が直接封蝋をすると言われている封筒だ。
それがルーズハルトの手にある。
だが眉唾物だという噂もあり、フランツは動揺を隠しながらルーズハルトからその手紙を受け取ったのだった。
「受け取った時点でこの封筒は効力を発揮する事を此処に宣言する。」
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