上 下
58 / 97
第4章 学園生活

第16話 彼らはまだ9歳児……

しおりを挟む
「ところでバイト君。ルンデルハイム……君と何の話をしてたの?」

 食事を終えかけた頃、そう切り出したのはエミリアだった。
 当然皆が気になっていたところではあった。
 昨日の今日で仲良く二人で秘密の会話。
 気にならないほうが不思議であった。

「特に深い話じゃないよ。エミリア、男の子にだって女の子に聞かれたくない話の1つや2つ有るんだぞ?なぁ、バイト。」
「俺に振るなよ……」

 呆れ顔のルーズハルトをよそに、バイトは肩をすくめてていた。

「さて、そろそろ時間だね。お姉様方を待たせては叱られてしまう。」

 ルンデルハイムはそういうと厨房をそっと指さしていた。
 そこには返却された食器などの後片付けのため、カウンターで待っている職員の姿があった。
 ルーズハルトたちのテーブルがラストだったようで、〝早くしろ〟という無言の圧力を送っていた。
 ルーズハルトたちはその視線が居た堪れなくなり、そそくさと後片付けを始めたのであった。



 朝食を終え校舎へと移動すると周囲にざわつきが発生した。
 それは当然のごとくルーズハルトとバッカスに向けられたものである。
 Aクラスの生徒とともに歩くEクラスの生徒。
 しかもルンデルハイムとともに登校しているのだから、驚きが起こっても仕方のないことであった。

「ルンデルハイム様!!」
「やあ、フリードリッヒ君。どうしたんだい?そんなに血相を変えて。」

 大きな声をあげて、ルンデルハイムとルーズハルトの間にいきなり割り込んできたのは、フリードリッヒ・フォン・フェンガーであった。
 その目は憎き相手を睨みつけるかのように、ルーズハルトへと向けられていた。

「どうして貴様がルンデルハイム様と一緒にいるんだ!!この卑しい農民風情が!!」

 怒りのあまり侮蔑を含ませながら罵るフェンガー。
 ルーズハルトはまたコイツかと思い、ため息を付きそうになった。
 たが最初に不快感を表したのはルンデルハイムであった。

「おや?これはおかしなことを言うね?僕が誰と何をするか……それを君が決めるのかい?」

 ルンデルハイムは、さもくだらないものを見るかのような冷めた視線をフェンガーに向けた。
 フェンガーはその視線に気が付き、血が上っていた頭が一気に冷めていくのを感じていた。
 だが、それとこれとは別とばかりにフェンガーはルンデルハイムに食い下がった。
 
「ルンデルハイム様、なぜのこのような者たちと一種にいるんです!!奴らは平民!!私たち〝ノーブルブラッド〟とは違うのです!!」
「どう違うんだい?素養?産まれ?生き方?性格?資質?どれもこれも僕が付き合わない理由にはなりえないだろ?むしろ自分の血筋ですべてを決めてしまい、すべてを閉ざしてしまうのはナンセンスだ。僕は僕の目を、耳を、心を信じる。だから彼らは僕と付き合うにふさわしい人間だ。特にエミリアさんはね。」

 ルンデルハイムはそう茶化すようにエミリアにさりげなくアピールする。
 しかしエミリアは無理無理と顔を横に振り、リリアナはガルルとばかりに目を吊り上げていた。
 話の中心なのに話に入っていけないルーズハルトとバッカスは、事の成り行きを見守るほかなかった。

「ちょっといいかな?ここでは家柄や産まれその他もろもろは加味されなかったんじゃないのか?」

 もう面倒だからと割って入ったバイト。
 話を終わらせたいという気持ちがありありと浮かんでいた。

「うるさい平民!!貴様たちがルンデルハイム様もお心を乱さなければこうはならない!!さっさと退学届けを書いてここから出ていけ!!」

 さらに強気をみせるフェンガー。
 もう打つ手なしと白旗を上げそうになるバイト。
 その間もルンデルハイムの取り巻きとフェンガーの取り巻きが集まりだし、さらに混迷を極めていった。
 
「俺……完全に巻き込まれてるだけだよな?誰か変わってよ……」

 今にも泣きそうなほどか細い声でそう漏らしたバッカスの言葉は、この喧騒に酔ってかき消されていく。
 ルンデルハイムの取り巻きたちもフェンガーに同調しており、同じクラスのバイトとエミリアにまで牙を剥き始めていた。

「もともとAクラスには平民なんて必要ない!!」
「これだから卑しい平民は嫌なんだ!!」
「平民は黙って膝まづいていればいい!!」

 徐々にあふれ出す貴族家としてのおごりとでもいう思い。
 親から子へ教えられた帝王学がそうさせるのか、それとも子供としての無知がそうさせるのか。
 そればかりは誰にもわかりはしないのであった。
 そんな喧騒に冷水を浴びせたのは、話の中心のルンデルハイム本人であった。

「そろそろ黙ろうか?」

 その心の奥から震えあがるような声に、一斉に静まり返る生徒たち。

「君たち……。君たちが今自慢していることは、自分の力なのか?それとも親の力か?」

 その言葉に答えを出せる生徒は一人もいなかった。
 誰も声を上げられず、ただ互いの顔を伺うだけであった。

「僕に意見していいものは、己の力で立ち上がったものだけだ。いいね?さて、行こうかみんな。」

 最終勧告。
 ルンデルハイムは心底呆れたように言い放ち、ルーズハルトたちに声をかけるとともに自分たちの教室へ向かって歩き出した。
 あとに残された取り巻きたちはどうしていいか分からなくなり、ついには重い足取りで教室へと向かったのだった。
 ただ一人、その後姿を睨みつけるフェンガー。
 その目には何かほの暗いものが見え隠れしていた。




 ただ忘れてはいけない……
 彼らはまだ9歳児……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

処理中です...