上 下
54 / 97
第4章 学園生活

第12話 バッカスという少年

しおりを挟む
「なんだ、ルームメイトはバッカスか。」
「お、やっと来たか。それよりも〝なんだ〟は酷くないか?これから1年一緒にやっていくんだから仲良くしてくれよな。」

 ルーズハルトのルームメイトは隣の席のバッカスであった。
 すでに荷物を整理し終えていたのか、バッカスの机もベッドも私物の荷物が置かれていた。
 だが見た目とは違い几帳面なのか、整理整頓が行き届いていた。
 何故かルーズハルトのベッドも、バッカスのベッドのようにピシッとなっていたことから、おそらくバッカスが直してくれたのだと理解できた。

「それにしても……なかなか手慣れてるんだな。」

 ルーズハルトは感心したように、整理された部屋を見回した。
 オーフェリアも綺麗好きだったために、ルーズハルトの家は清潔度が保たれていた。
 それは魔法も駆使してという条件付きだが、バッカスはルーズハルトのクラスメイトなだけにまだ扱えるわけではなかった。
 魔法の痕跡も確認できないことから、手作業のみでこの清潔度を作り出した。
 つまりは技術に優れている証拠でもあった。

「一応俺の家は宿屋をやってるからね。毎日手伝いばっかりったよ。」

 そう不満げに答えたバッカスだったが、ルーズハルトが感心した様子を見せたことに気分を良くしていた。
 一瞬ルーズハルトと視線があったが、気恥ずかしかったのかバッカスはすぐに視線を外してしまった。
 そのそっぽを向く耳は赤みを帯びているだけに、隠しきれてはいなかった。

「それはそうと……話には聞いたけどAクラスのお貴族様とまた揉めたんだって?ほんとそう言うの好きだよな?」
「揉めたくて揉めたんじゃないよ。それにあれはバイト……、俺の幼馴染なんだけど、そっちと揉めた感じだ。」

 当時の状況を思い出したルーズハルトは、少し困ったような表情と、どこか他人事のような表情が入り混じり、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。

「それにしても、宿屋の息子が何でまた魔法学園なんかに入ったんだ?技術学園にはそういった専門職のクラスもあっただろ?」

 ルーズハルトが言っていたのは王立技術学園【スミスラフト】の専門職クラスの一つである【商科】の事であった。
 【商科】には複数のコースが用意されており、その中でも接客業に特化したコースも存在していた。
 なぜルーズハルトが技術学園に詳しいかというと、魔法の基礎をオーフェリアに習っている際に、このまま魔法がコントロールできないのならば、父ルーハスの跡を継ぎ農家になろうと考えていたからだ。

———閑話休題———

「それな。俺もそっちに進もうと思ってたんだけどさ、父ちゃんが〝せっかく魔法の資質が高いんだから、騎士団に入りなさい!!そしてこの宿を遠征の定宿に!!〟って言い始めてさ……」
「なるほどね、捕らぬ狸の皮算用ってことか。」

 ルーズハルト言葉に首をかしげるバッカス。
 ルーズハルトは一瞬やばいと思ったが、すぐに気持ちを切り替えてバッカスにその意味を教えてあげた。

「バッカス、捕らぬ狸の皮算用ってのは、猟をする前から狸……獲物の皮がいくらになるか考えたところで、獲物が捕れなかったら意味がないだろ?ってことだ。」
「へぇ~、初めて聞いた。なるほどね、確かに父ちゃんはまさにそれだな。」

 バッカスは父の顔を思い返すと、確かに目がお金になっていたように思えた。
 そう思うと、なんとも居た堪れない気持ちになってしまった。
 バッカス的には宿屋を継ぐことは当たり前の事であった。
 だからこそ、この魔法学園で魔法を学び、利用者なら魔法治療を格安で受けられる宿屋として運営していきたいと思っていた。
 親の心子知らず、子の心親知らずとはこと事であろうか。

 バッカスとルーズハルトは田舎出身者ということもあり、なんだかんだで意気投合していた。
 これなら学園生活もどうにかなるかなと思えたルーズハルトであった。





 翌朝、ルーズハルトとバッカス、エミリアとお友達?、バイトとルンデルハイムが、寮の食堂で顔を合わせた。
 エミリアの表情にはお友達?に対する困惑と、ルンデルハイムに対する嫌悪感がありありと浮かんでいた。

「やあおはよう皆。」

 全く意に介さないルンデルハイムはやはり大物だろうか、エミリアに向かい朝からウィンクを飛ばす。
 それに牙を剥いたのがお友達?であった。

「これはルンデルハイム様ごきげんよう。お姉様には指一本触れさせませんわ。」
「これは手厳しい。さすがはアズガルド辺境伯家長女のリリアナ・フォン・アズガルドさん。」

 少しおどけた様子を見せるルンデルハイムにリリアナは不快感をあらわにしてにらみつける。
 だがこの事実に驚きを隠せない人物が居た。

「え⁈リリーちゃん辺境伯家の人だったの!?どうしよ……どうしよルー君!!」
「どうするもこうするも、ここじゃ家格の事はご法度だぞ?リリアナさんもだからエミーに愛称で呼んでほしいからそう名乗ったんじゃないの?」

 ルーズハルトの指摘に、ハッとするエミリア。
 そっとリリアナに視線を送ると、それに気が付いたリリアナは気にしないでと顔を横に振っていた。

「ところでお姉さまって?」

 バイトが一番の疑問を投げかけたことで、場はまた混迷を極めていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

武装聖剣アヌスカリバー

月江堂
ファンタジー
女神により異世界に転移し、魔王を倒す勇者となるよう運命づけられた少年、コバヤシケンジ。 しかし、真の勇者でなければ抜くことのできない、女神より賜った聖剣は、先代国王ケツメド・アスタロウのアナルに突き刺さっていた。 ケンジは聖剣をヌく事ができるのか!?

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...