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第3章 いざ王都へ!!

第10話 精密特性検査

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「それでは午後の試験を始めます。」

 ルーズハルトたちは昼間の件で何かを問いただされることはなく、午後の試験へと望んでいた。
 広い訓練場のような場所に集められたルーズハルトたち。
 そこには約1000人は集められていた。

「えぇ~、この試験の進行を努めますドミトリスと申します。」

 そ壇上の上で子供たちを見渡しながら挨拶をしたのは、妙齢な女性であった。
 薄金色の肩口まである長髪をなびかせているドミトリス。
 赤地に黒縁のローブは魔法技術講師の証である。
 ローブの中はグレーのジャケットとパンツスーツのセットアップで、赤のハイヒールが印象的であった。
 何よりも吊り上がりった黒縁メガネから見える鋭い眼光は、見るものに恐怖心を与えていた。

 実はこのドミトリスという女性は極度のあがり症であった。
 そのため人前で話すことは愚か、人前に立つことすらできないほどであった。
 そこで一計を案じたのがグラムであった。
 ドミトリスは〝強そうな女性〟を演じることによって、なんとか教師として対面を保っていたのだ。
 なぜそこまでして教師を続けるのかといえば、ひとえに〝優秀な魔導師〟であるためである。
 この学園の卒業生の中でも、突出して優秀な人材だったのだ。
 そのため学園長より依頼を受けたグラムが手伝ったというわけであった。

———閑話休題———

「実技試験の説明ですが……、そこの君。話を聞く気がないならば帰ってもらって結構なのですよ?」

 手にしていた指示棒をパシリと鳴らし、一人の少年を指していた。
 その少年は一瞬ビクリとするも、すぐに頭を下げていた。

「次はありませんよ?では続けます。実技試験は2工程で行います。一つは魔法資質の適性検査。もう一つは魔法発動試験。その名の通りの試験です。魔法資質の検査の結果を元に組分けを行います。その組ごとに担当が付きますので、担当の指示に従ってもらいます。」

 説明が終わると、数名の講師が壇上へ姿を現した。
 それに合わせて若干のざわつきが訓練場に響く。

「ではこれより50名ずつに分かれて適性検査を受けてもらいます。あなた方が5歳の時に受けた洗礼よりも精密に測定できる装置ですので、自分のを知るいい機会となります。気を楽にして臨んでください。」

 ドミトリスの言葉に続くように壇上に上がった講師たちが一斉に動き出した。
 受験番号順に並んでいた為か、数列ごとに区切られ引率されて別の建物へ入っていく子供たち。
 ドミトリスの最初の脅しが効いているのか、子供たちは素直にしたがっていた。

 ルーズハルトはふと先ほどの件を思い出していた。
 バイトともエミリアとも離れており、エミリアがまたあのへんな奴に絡まれていないか心配でならなかったのだ。
 だがその心配は杞憂に終わり、エミリアはルーズハルトに手を振って建物へ向かっていった。
 その列を見てみても先ほどの少年の姿はなかったので、一安心したルーズハルトなのであった。

 それから程なくしてルーズハルトも建物へ向かって移動を始めた。
 その列には例に漏れずフリードリッヒ・フォン・フェンガーも並んでおり、ルーズハルトの前を通った瞬間、ぎろりと睨んでいった。
 ルーズハルトとしてはあまり絡みたくないというのが本音であった。
 だが同じグループである以上、今日一日まだまだ絡むんだろうなと気が重くなる思いであった。



「お待ちしておりました。魔導技術開発部のヤタケと申します。」

 建物内に入ると、魔導学園の講師陣とは違い、白衣を身に纏った男性が出迎えてくれた。
 見た目通りひょろりとしており、ルーズハルトが本気になれば押し倒せそうなほど軽いように思えた。
 ぼさぼさの頭に無精ひげ、栄養価が足りていないのか、若干痩せこけて見えた。

「では順番にこのサークルに入ってくれ。測定結果はそっちの出口にいる女性から紙で渡されるから。なくさないようにね。」

 そう言うとヤタケはすぐに視線を落とし、手元の操作画面とにらめっこを始めていた。
 ヤタケのどうぞという声と共に子供たちが順番にサークル内に入っていく。
 測定もそれほど時間はかからず、おおよそ1分に満たない程度であった。
 さらに言えば〝洗礼の儀〟のように光るわけでもなく、ただ確認作業をしているという感じであった。

「それじゃあ次の子はいって。」
「はい!!」

 ヤタケの言葉に元気よく反応してのはフェンガーであった。

「みたか!!これがフェンガー子爵家の血の証だ!!」
「こらフリードリッヒ君。ここでは家名は禁止ですよ?」

 紙を手渡してくれた女性から窘められると、フェンガーは少しだけトーンが下がっていた。
 だがやはりそこは子供。
 少し歩くとうれしさを爆発させるのだった。

「次は……ん?なんだと……分かった。」
 
 ルーズハルトがサークルに入ろうとした時であった。
 助手の男性がヤタケに何かを手渡していた。
 それを見たヤタケはものすごく嫌なものでも見る視線を、ルーズハルトに浴びせたのであった。
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