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第3章 いざ王都へ!!

第7話 入学試験当日

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「うぅ~、緊張するよぉ~。どうしようルー君……」

 エミリアは朝からこの調子であった。
 本日は王立魔導学園【アグニス】に入学を目指し子どもたちにとって、運命の日と言っても過言ではなかった。
 入学試験当日。
 3人はエルモンドに伴われ、【アグニス】の門の前にやって来ていた。

「すまないが引率できるのはここまでだ。この門を超えられるのは子どもたちだけ。大人は入ることができないからね。」

 すまないという空気を纏うエルモンド。
 そんな思いを察したのか、バイトが爽やかな笑顔をエルモンドに向けた。

「父さん、気にしないで。ここからは僕たちの戦場だから。」
「そうか……そうだな。がんばれ!!」

 バイトの気遣いを感じたエルモンドは、憂う心を抑え込み真剣な面持ちで激励の言葉を口にした。
 ルーズハルトたちは気の引き締まる思いだった。
 浮ついた心は落ち着きを取り戻し、地に足がつく……そんな感覚が体中を駆け巡っていた。

「「「行ってきます!!」」」

 三人は元気良くその一歩を踏み出した。



 魔導学園の校内は、現代日本の学校とは少し違っていた。
 照明ははランタンのようなものがいくつも等間隔で壁沿いの高い位置に並んび、窓は縦にスライドしてあげるようになっている。
 ガラス自体はこの世界でも普通に普及しております、透明度は現代日本とさして変わらないレベルであった。
 
 そんな校舎の廊下の先は、いくつかの教室に分かれていた。
 教室の中や廊下には受験生らしき子どもたちが、ソワソワとした様子で話をしていた。

「じゃあ二人とも頑張って。」

 ルーズハルトはバイトとエミリアを激励する。

「うん、ルー君もね。」
「ルーズハルト、エミー頑張ろうね。」

 エミリアとバイトもそれに答えるように真剣な面持ちで頷き返した。

 今回は3人とも別々の教室での試験となった。
 試験会場に入るために校舎入り口のエントランスにデカデカと部屋割表が張り出されていた。
 各自試験番号を確認し部屋に移動していた。
 ルーズハルトたちも部屋割を確認すると、見事3人バラバラだったのだ。
 


 エミリアたちと別れたルーズハルトは、一人教室の中にいた。
 中も中で廊下同様に浮ついた空気が流れる。
 それも当たり前かとルーズハルトは感じていた。
 いま周りにいてのは9歳の子どもたちだけだ。
 そんな中で18年多く生きてきているルーズハルトは、少し浮いた感じになってしまっていた。
 リヒテルの妙に落ち着いた雰囲気に興味を示す者たちがチラホラと現れ始める。
 チラチラと横目で見る者。
 ジロリと凝視する物。
 中には薄っすらと黄色い声を漏らす者もいた。
 ルーズハルト本人は無自覚だが、あのエミリアの双子の兄である。
 見た目は確実に上位。
 そして、その落ち着いた雰囲気。
 その出自を気にするものが現れたとしても何ら不思議ではなかった。
 
「すまない。気を悪くされたら先に謝ろう。名前を教えてもらえませんか。」
 
 ルーズハルトが浮つく空気にどうしたものかと考えていた時、不意に話しかけてくる声が聞こえる。
 あまりに唐突だったものでルーズハルトは反射的に考えることなく返事をしてしまった。

「あ、ルーズハルトです。【ルイン】という農村から来ました。」
「はん、なんだ下民じゃないか。あまりの堂々とした態度に、どこぞの貴族かと心配したが……間際らしい。」

 ルーズハルトは開いた口がふさがらなかった。
 いきなりの質問といきなりの態度の急変に、思考が付いていかなかったのだ。
 本来であれば第一声から警戒し、観察するはずのルーズハルトだったが、それを怠った弊害が一瞬で現れてしまった形となったのだ。

「下民かどうかは知りませんが、初対面で失礼ではないですか?」

 ルーズハルトの言葉はもっともであった。
 だがそれは相手によりけりである。

「貴様……貴族に対して礼儀がなってないぞ?」

 いかにも〝怒ってます〟という空気を出した男の子。
 凄んでいるようではあったが、ルーズハルトには可愛らしく映ってしまった。
 これは18年の差が、悪い方に出てしまった状況だった。
 ここで少しでも怯えた空気を表に出していれば、相手のメンツも保たれたのかもしれない。
 しかしルーズハルトには微笑ましく思えてしまい、怯えるどころか和んでしまっていたのだ。
 そんな空気を察してか、その男の子のこめかみに青筋が浮かんでいるようであった。

「ほう……僕を次期【フェンガー子爵家】当主のフリードリッヒ・フォン・フェンガーと知っての態度か?」
「そうでしたか……【フェンガー子爵家】ですか……。知らなかったとは言え失礼しました。」

 ルーズハルトの余裕を持った態度が崩れることはなかった。
 それに比例してフリードリッヒは顔を真っ赤にしていた。
 〝家名〟まで持ち出して威圧しているというのに、全く響いている様子が見られなかったからだ。

 周囲からはクスクスと笑い声を必死で抑えている声が漏れ聞こえてくる。
 そのせいもありフリードリッヒはますます機嫌を悪くしてしまった。
 それに比例してルーズハルトに対する敵愾心も向上していった。

「ルーズハルト……名は覚えた。覚悟しておくことだ!!」

 そう捨て台詞を吐いたフリードリッヒは踵を返すとそのまま教室を出ていった。
 取り巻きと思われる子供たちも慌てて後追うように教室を後にした。

「なんだったんだ?」

 ルーズハルトは首をかしげるしかなかった…… 
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