上 下
25 / 97
第2章 転生したらしい

第14話 イザベル・フェイルノルド

しおりを挟む
 ルーズハルトは緊張した面持ちで壇上へ上がっていく。
 先の二人の結果が凄すぎて自分への期待感と、その逆の失望感、どちらが来るのかと心配になってしまった。

「ルーズハルト君、私は君が一番興味深かったのだよ……」

 ルーズハルトに向けて伝えられたクルセウスの言葉。
 廻りには聞こえておらず、視線をやると固唾を呑んで見守っているようだった。
 特にエミリアとバイトの期待感の強い眼差しが、ルーズハルトにはとても重いものであった。

「それはどういういみですか?」
「今にわかることだよ。さあ、君も祈りを捧げなさい……我らが主神【ティセアルス】様に。」

 ルーズハルトは言われるがままに跪き祈りを捧げた。
 クルセウスの祝詞が進むに連れて変化が起こる。
 それは皆が予想したものとは違っていた。

 徐々に形成されていった魔法陣が、一瞬にして弾け飛んだのだ。
 これにはクルセウスも動揺を隠せなかった。
 見守っていた者たちも同様だ。
 だが一人だけ蔭に潜み、ひっそりと笑みを浮かべているものがいた。
 その存在に気が付いたものはおらず、ただただ動揺だけが礼拝堂を支配していった。

「違う意味で驚かされたといったところかな……」
「クルセウス司祭様……うちの子は……」

 心配そうに見守っていたオーフェリアは、たまらずクルセウスに詰め寄ってしまった。
 親としてなにか問題があると思うのは当然のことであった。

「心配せずとも良い。間違いなく魔法の素養は持ち合わせている。現に魔法陣自体は反応を示していた……が、こればかりは長年司祭として儀式を執り行っているが初めてのこと。一度本部に確認してみよう。」
「よろしくお願いします。」

 オーフェリアはルーハスにどう説明すべきか困ってしまった。
 賢者といい聖女といい儀式失敗といい、一気に自体が動きすぎていた。

「これにて洗礼の儀を終了とする。3人共よく励みなさい。」

「「「はい」」」

 ルーズハルトは若干納得行かなかったが、魔法の素質そのものはあると言われたことで少しだけ安堵していた。
 もし素質が有るが弱かった場合、二人と離れての進学となってしまうところだったからだ。

「バイト、エミリア。これからもよろしくね。」
「うん!!」
「こちらこそルー。」

 こうして一行は儀式を終え帰路についたのであった。



「ただいまあなた。」
「「ただいまぁ~」」

 無事帰宅したルーズハルトたちは、リビングでくつろいでいたルーハスに帰宅の挨拶を済ませる。
 そのまま洗面台に向かい手洗いなどを済ませていた。

「で、どうだった。」

 ルーハスは期待しているかのように、オーフェリアに結果を確認する。
 そのオーフェリアはなんと言って良いのか迷っているようだった。
 ルーハスはその態度にどこか訝しがり、ニコニコ顔のエミリアに声をかけた。

「エミリアはどうだったんだい?」
「わたしは〝せいじょのたまご〟っていわれたよ?」

 その言葉でオーフェリアがなぜ言い淀んだのか理解したルーハスは、オーフェリアに視線を向けた。
 オーフェリアは静かに首肯し、困ったように笑みを浮かべていた。

「そうかそうか。エミリアは聖女様になるのか……。うん、めでたい!!オーフェリア、やっぱり君の子だね。」
「そうね、これからの為にもいろいろ教えていかないとね。」

 ルーハスの屈託のない笑顔の称賛に、オーフェリアもまた救われた気持ちがしていた。

「で、ルーズハルトは?」
「……」

 オーフェリアは先ほどよりも増して困り顔を浮かべていた。
 なんとも感情の動きが激しく、ルーハスもどうしていいものか困ってしまった。

「あのねぱぱ。ぼくが〝せんれいのぎ〟をしたら、うまくいかなかったんだ……」
「そうか……。うん、だけどルーが魔法を使えないわけじゃない。だったらいっぱい練習してうまくなればいいだけだ。いっぱいパパと練習しような?」
「うん!!」

 ルーズハルトは気づいていた。
 ルーハスの言葉が気休めであると。
 ルーズハルトは夜な夜な気づかれないように魔力制御の練習を行っていた。
 だが、いくらエミリアから聞いた感覚をつかもうとしてもつかめなかったのだ。
 むしろ、それが足枷となり使いにくさが増していったことは笑い話にもならなかった。
 そこでこの〝洗礼の儀〟の失敗。
 だが、ルーズハルトの心は折れることはなかった。
 理由は簡単だ。
 基本的性質はバイトと一緒だからだ。
 〝魔法の使える世界で生きたい〟……ただそれだけで、ルーズハルトのモチベーションは最高潮に維持され続けていたのだ。

 こうしてルーズハルトは、この世界で改めて生きていくことを胸に誓った。
 そしていつか誰にも負けないくらい魔法をうまく使えるようになってやると、誓った日でもあったのだった。




 
「まさかここで会うなんて……。これも主様のお導きかしら?」

 イザベルは儀式の片付けを終えると、自室に戻っていた。
 そしてルーズハルトが憎き相手であることを、確信していた。
 なぜならば〝洗礼の儀〟とは【セレスティア】に対して行う、誓いの儀式だからだ。
 ルーズハルトは転生の際に【フェイルノルド】の神力を吸収し、自身の肉体の構成に使ってしまっていた。
 いわば【フェイルノルド】の分身と言っても差し支えない存在だった。
 だからこそその神力同士が反発してしまい、儀式失敗という結果が生じてしまったのだ。

「いい気味だったは……。あの情けない顔ったら私の心を満たしてくれるわ……」

 部屋にある小さな窓を開けると、外はすでに陽の光は落ちていた。
 しかし暗い町並みを魔導具の明かりが照らし出し、なんとも言えない、幻想的な町並みが、姿を表していた。

 その窓からもたらされるそよ風が、背中まで伸ばされた赤毛をゆらゆらと揺らしていた。
 その恍惚とした表情は少女の年齢を嘘だと思わせるほど、妖艶で見るものを虜にしてしまう……そんな魔性を秘めていた。
 
「さて、これから先……あの子はどうするのかしらね……。ねぇ、真一君?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

処理中です...