上 下
23 / 97
第2章 転生したらしい

第12話 賢者の卵

しおりを挟む
「はじめまして、クレセウスさん。エルモンド・ハウエルが4なん、バイト・ハウエルです。」

 最初に名乗りを上げたのは、バイトだった。
 普段からの教育の賜物か、礼儀に則った形式張った挨拶だった。
 ハウエル商会は王国でも新参の商会であるが、その影響力は馬鹿にできず、ハウエル自身この国、魔導王国【エルファラント】の国民議会である人民会議の議員を務めるほどであった。
 そのためか稀に貴族との面会などもあり、自ずとバイトにも礼儀作法が要求されていた。

「これはこれは丁寧に。あの捻くれ者からよくもまあ素直な子が産まれたものだ。やはり君の存在は大きかったようだね、ケイト君。」

 バイトの頭をひと撫ですると、視線をケイトに向けたクルセウス。
 ケイトはその視線に気が付き、目礼で返していた。
 あくまでも今日の主役は自分の息子だと主張するように、ケイトは敢えて言葉での返事を行わなかった。

「わたしはエミリアです。はじめまして。」
「ぼくはルーズハルトです。はじめまして。」

 ふたりは息を合わせたようにクルセウスにお辞儀をする。
 二人が行った挨拶は至って子供らしく、何ら不自然さは見られなかった。
 しかしそれがかえってクルセウスの興味を引いてしまったようだった。

「オーフェリアとルーハスの子か……。なんとも興味深い。これから先が楽しみですね。」

 この時オーフェリアは、クルセウスが言外に含ませた意味を汲み取っていた。
 だからこそ苦笑いを浮かべていたのだ。

「ではここで立ち話をしていても仕方がないでしょう。早々に儀式を始めるとしましょう。」

 クルセウスはおもむろに立ち上がると、数回分手を打った。
 パンパンパンとは鳴ったあと、白と黒の神官服に見を包んだ少女がガラガラとワゴンを押して現れた。

「この子はシスター見習いのイザベルだ。君たちよりも少し年が上だが、仲良くしてやってくれ。」

 ワゴンをクルセウスの側に止めると、後ろに控えていたイザベル。
 クルセウスからの紹介で一歩前に出て深く頭を垂れた。

「初めまして、イザベル・と申します。」

 その名を聞いた三人はぎょっとしてしまった。
 まさかこの場でその名前を聞くとは思っても見なかったからだ。

 イザベルは3人を見回し、ルーズハルトに気が付くと一瞬にしてその視線が鋭くなった。
 ルーズハルトに視線を固定し、凝視しているようにも見えた。

「どうかしたかしたかなイザベル。」
「いえ、なんでもありません。」

 そう言うと鋭い視線は鳴りを潜め、クルセウスの後ろへとまた控えるように移動した。

「ではこれより洗礼の義を執り行う。まずはバイト君前へ。」

 厳かに儀式は開始された。
 クルセウスの呼びかけで、バイトは祭壇の前の一段高くなっている台に登った。
 すると高さ的にクルセウスより少し低い位置に立つ形となった。

「では片膝を付き、主神【ティセアルス】に祈りを捧げよ。」

 バイトはその指示に習い祈りを捧げる。
 クルセウスバイトの頭に手をかざすと、神への祈りを捧げる。

「我が主神【ティセアルス】の御名において、汝【バイト・ハウエル】に祝福を与えん。汝【バイト・ハウエル】よ、主神【ティセアルス】の御名において、生を全うすることをここに誓わん。我【クルセウス・アシュリ】が証人となり、此処に誓いは成立せん。」

 クルセウスが祝詞を読み進めるうちに、バイトの周囲には光の魔法陣が形成されていく。
 その光は徐々に強くなり、ルーズハルトは顔を顰めていった。

「われ【ばいと・はうえる】は、しゅしん【てぃせあるす】のみなにおいて、せいをまっとうせんと、ここにちかう。」

 最後にバイトが宣誓を述べたとき、光の魔法陣は砕け散り、キラキラと美しく舞っていったのだった。

「すごいきれい……」

 エミリアはその光景に魅了されていた。
 背景にあるステンドグラスもバイトを祝福するように形を変えていき、今は黒のローブを纏い色鮮やかな杖を掲げている姿が映し出されていた。
 その姿は神々しくもあり、優しさも同時に秘めているようにエミリアは感じていた。

 ルーズハルトもまた同様にその光景に心動かされ、ワクワクともドキドキとも取れない不思議な感情になっていた。

 そんな二人をよそに大人たちは同様を隠せずにいた。

「なんてことなの……」

 振り絞るように声を上げたのはケイトであった。
 震える手で口元を抑え、次のセリフを懸命に絞り出そうとしていた。

「まさか〝賢者の卵〟の誕生を目の当たりにするとは……。長生きはするものだ。」

 クルセウスはちらりとオーフェリアを視界で捉えた。
 オーフェリアはなぜか微妙な表情を見せ居ていた。
 大人は三者三様の反応をしており、ルーズハルトは首をかしげてしまった。
 
「ママ……?」
「あ、ごめんなさいね。何でもないわ。ね、クルセウス司祭様。」

 オーフェリアの無言の圧力にクルセウスも少しひるんでしまった。
 「そうですね」と言ったものの、その顔は若干引きつっていたが、クルセウスもまた司祭としての面目もあり、なんとかその場を取り繕っていた。
 
「それで司祭様、この子の資質はどうだったんでしょうか。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~

まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。 よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!! ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。 目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。 なぜか、その子が気になり世話をすることに。 神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。 邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。 PS 2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。 とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。 伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。 2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。        以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、 1章最後は戦闘を長めに書いてみました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...