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第3章 リスタート

052 解放と消滅

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『シンを……、悪夢から解放してください……。』

 それは、カイリの悲しみに満ちた決断だった。
 幼馴染を……友人を殺す……
 それをカイリに決断させてしまった。
 これはカイリたちに憎まれようとも、恨まれようとも、俺がすべき決断だったはずだ……
 なにやってんだよ、まったく。
 情けないにもほどがあるな。

『カイリ……。カレン、アスカ……、すまない。シンを救えなかったことを許してほしい。』

 俺は3人への贖罪の言葉のを口にした。
 3人は、涙を浮かべるも必死で耐えていた。
 ここで泣いてはいけないと……

 スキル【レベルドレイン】!!
 
 俺は、シンの身体を乗っ取った強欲に向けてスキルを発動させた。
 効果はすぐに現れた。
 シンの身体からは、黒い靄の様なものが抜け出ていく。
 アスカがステータスを確認すると徐々にシンのレベル……生命力が減っていっていた。

[ん?!何ですかこれは⁉生命力が低下している?!どういうことです⁉プロメテウス!!これはどういうことです?!]

 突然の出来事に取り乱した強欲は、俺を睨んでいる。

[あなたですか!!今すぐやめなさい!!くそっ!!くそっ!!]

 必死になって体を動かそうとするも、まだ身体に馴染んでいなかったのか、全く反応していない様子だった。

「みんな、ごめん。カイリ……あり……が……」
「シン!!」

 シンが最後の抵抗を試みていたようだった。
 必死になって動こうともがくものの、シンの身体は言うことを聞かず、強欲へのスキルの効果が顕著に現れていいた。

[くそ!!その顔覚えました!!プロメテウス!!覚悟なさい!!]

 最後の強欲の言葉と共に、シンの身体は俺たちの前から霧散した。
 本当に消滅したのだ。
 後に残された物は、シンの装備一式だけだった。



 それにしても、レベルドレインは本当に鬼畜だった。
 シンが貯め続けたレベルを根こそぎ奪い取ったのだから……
 俺のレベルは今ので9レベル一気に上がったのだ。

 そしてさらに嫌なものを見てしまった。

ーーーーーーーーーー

基本情報

 氏名  :中村なかむら 剣斗けんと
 年齢  :35歳
 職業  :探索者F
 称号  :生命の管理者

ーーーーーーーーーー

生命の管理者:生命の殺生与奪・存在の権限を得た者に与えられる。

ーーーーーーーーーー

 何とも物騒な称号が付いたものだ。
 ただ、これは俺が背負うもので間違いないと思う。
 俺はシンを消滅させたのだから。

「じゃあ、シン達の装備を回収して帰ろう。自衛隊にも事の顛末を話さないといけないしね。」
「シン?誰ですか?」

?!?!?!?!?!?!?

 俺はその場で吐き出してしまった。
 カレンの言葉で理解してしまった。
 確かに消滅してしまったのだ。
 存在そのものが……

「ケントさん?!アスカ、回復魔法をお願い!!」
「先輩!!しっかりしてください!!」
「ケントさん!!ケントさ……」

 薄れゆく意識の中でカイリの声が聞こえた気がした。





ピチョン
ピチョン
ピチョン
ピチョン



 目を覚ますと、白い天井が目に入ってきた。
 ここは知らない場所だ。

「ケントさん!!」
「カイリ……。ここは?」

 辺りを見回すと、どうやら俺はベッドに横たわっていたようだ。
 そんな俺の横に、カイリが座っていた。
 その目には涙を溜めて、俺の手を握っていてくれた。
 どうやら心配かけてしまったようだ。

「ここは訓練施設の医療施設です。ケントさんがいきなり倒れてしまって。そしたら、私たちが第6層に向かったことを知った、自衛隊の方々がちょうど到着して、ここまで運んでくれました。」
「そっか……、ごめん。迷惑かけたね。」
「そんなことありません。あ、お医者さん呼んできますね。あと、みんなも。」

 そう言うと、ハンカチで目元を拭ってカイリは病室を出ていった。

ガラガラ

「あ、目を覚まされましたね。それにしても女性を泣かせるとは、中村さんも罪作りですね。」
「一ノ瀬さん……、冗談きついですよ。」

 カイリと入れ替わりで病室に入ってきたのは、自衛官の一ノ瀬さんだった。

「中村さんもなかなか無理をされる。『探索者型イレギュラー』の討伐は出来れば自衛隊に任せてほしかったですね。でも、ご無事で何よりです。」
「あの、ここまで運んでくれたのって……。」
「はい、私たちの部隊です。」
「そうでしたか、ありがとうございます。」
「これも我々の任務ですから、お気になさらず。ところで、いったい何があったんですか?突然倒れたと聞いていますが……。」

 俺は一ノ瀬さんに一連の出来事を説明した。
 もちろんスキルについても。

「それはまた……。中村さん、この件は私の処で一度留めます。おそらく国は中村さんを拘束する可能性が高いです。それほどまでに危険なスキルですから。その、シンと呼ばれた青年についても確認します。記憶だけなのか……、または記録もなのか。そこを調べないといけません。」
「一ノ瀬さん、今の会話でわかりました。おそらく、記憶からは抹消されています。訓練施設入り口での一件で、一ノ瀬さんはシンと会っていますから。それをわからなかった時点で、抹消は確定だと思います。」

 こいつは参ったな。
 たぶん俺は、今後ずっとマークされることになる。
 このスキルがどういうものなのか、どこまで通じるのか、それもわからないのだから。

「なるほど……わかりました。シンという青年に、私も会っているんですね。ですが、私にその記憶がない……つまりは記憶の抹消。存在の抹消だという結論。確かにその通りですね。まず、記録についてはこちらで調べます。どうか、周りには話さないでください。」

コンコンコン

「ケントさん、入りますね。」

「では、私はこれで。」

 そう言うと一ノ瀬さんは病室を後にした。

「ケントさん、今のって一ノ瀬さんですか?」

 カイリがみんなを連れて来たと同時に、一ノ瀬さんは病室を後にした。

「あぁ、カイリも会ったことあったんだっけ?」
「はい、前に一度。確か、探索者のストーカーがいて助けてもらいました。」
「そっか……」

 あの一件も、みんなの中ではすでに改ざんされているのか。
 つまり、シンを知るのは俺だけだってことか……
 何とも言えない後味の悪さがあるな。

「先輩大丈夫ですか?突然だったんでびっくりしましたよ。」
「そうね。ケントさんあまり無茶はしないでくださいね。あなたはこのパーティーのリーダーなんですから。」

 谷浦に心配されることになろうとはな……
 虹花さんには苦労かけてしまったかもしれないな。

 すると、谷浦が小声で俺に耳打ちしてきた。

「先輩……。あの時消滅させたのって……『シン』って子ですよね?」
「谷浦⁉」
「はい、その通りです。なぜか、俺は覚えています。おそらく、スキルの関係かもしれません。」

 『クリエイター』系のスキルか?!
 そうかこれは自称神の権能の一部を与えられたものだ。
 だから、このスキルホルダーはある意味摂理から独立しているのかもしれないな。

「谷浦、絶対にこの件について口を開くな。お前まで拘束される可能性がある。」
「マジっすか!?まぁ、この一件で考えればそうかもしれないっすね。」
「巻き込んで悪かった。」
「何2人で話し込んでるんですか~?」

 俺たちが小声で話していると、アスカが不思議そうな顔で覗き込んできた。

「いや、特にな。そうだ、あのあとってどうなったんだ。『探索者型イレギュラー』の装備品とか散らばってただろ?」
「はい、あれは回収して今自衛隊に確認作業してもらってます。持ち主……おそらくは死亡されているでそうが、わかれば返却する予定だそうです。」
「そうか、見つかるといいな。」
「そうですね。」

 病室にしんみりした空気が漂っていた。

 俺はきっとこの先も、この子たちに迷惑をかけるんだろうな。
 今回の件も含めて、俺と谷浦は普通の探索者としてやっていけるのか疑問になる。

 『クリエイター』系のスキル。
 『七つの大罪』系のスキル。
 『七つの美徳』系のスキル。

 分かっているだけでも物騒すぎる。
 これは可能性にしかすぎないが、おそらく『神話』系のスキルまたは称号が存在していそうだった。
 強欲が口にした【プロメテウス】という名前は、ギリシャ神話の【人に火を与えた神】だ。
 プロメテウスは、人間に〝火〟を与えることで、〝文明の進化〟を促した。
 なら、今回俺たちに与えられた〝スキル〟がこの〝火〟にあたるとしたら……それこそが〝生命の進化〟を促すトリガーとなったとしたら……
 考えるだけでも嫌になるな。
 あと、出て来た名前は【セフィロト】……と言えば生命の樹か。
 ユダヤ教のカバラでは『宇宙万物を解析する為の象徴図表』とされている。
 まさか、これも……

 いや、やめよう。
 これ以上考えても仕方がない。
 俺は一般人で、学者じゃない。
 いくら考えても憶測の域を出ることはないだろうから。

「おや、もう大丈夫そうですね。」

 カラカラカラとカートを押している看護師とともに、医官と思われる男性がやってきた。

「はい、ご迷惑おかけしました。」
「礼には及びません。それに、ここに運ばれる人の中では軽傷ってより、無傷ですからね。」

 医官の男性は、そう言いながら苦笑いをしていた。
 看護師から体温計を渡され、体温測定を行った。
 逆の腕では血圧を測っている。

「うん、大丈夫そうですね。自宅へ帰っていただいて結構ですよ。」
「ありがとうございます。」
「いえ、ではお大事に。」

 医官の男性は次の病室へと向かっていった。

「じゃあ、帰りますか先輩。」
「だな。」

 谷浦の言葉を受けて、俺たちは医療施設を後にした。

「ケントさん、おなかすきました!!」

 アスカが、いきなり大きな声でおなかすいたアピールを始めた。
 その声につられて、カイリとカレンも声を上げて、3人でおなかすいたの合唱を始めたのだ。
 思わす、俺は笑い出してしまった。
 きっと、俺の表情が暗いのを気にしていたんだと思う。
 だからあえてそうしたのだろう。

「そうだ、虹花さん。今回の探索の結果はどうなりました。」
「はい、第6層だけで一人頭15,000円強でした。第五層までの分を合わせても約2万円ですね。」

 あれ?意外と多いの?少ないの?微妙な金額だな。
 でも、日給2万って考えたら多いのか?

「ケントさん、これにはまだ『イレギュラー』討伐の報奨金が含まれていません。こちらについては後日になるそうです。金額も現在未定です。」
「虹花さん、毎回管理ありがとうございます。」

 うん、2万稼いだなら少しはいいかな。

「じゃあ、街に戻ったら何か食べに行こう。」
「「「ごちになります!!」」」

 え?まじで?!

「先輩……ごちです!!」
「ケントさん……ドンマイです。」

 5人ともにこやかに歩き出していく。
 まぁ、心配かけたしな。

 シンの事。
 スキルの事。
 これからの事。
 いろいろ考えないといけないけど、今は生き残ったことを素直に喜ぼう。



 そして俺たちは、これから起こるであろう悲劇をまだ知らなかった……
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