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第1章 進化の始まり

007 男としての勝敗は……

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 今日の講習が終わると、参加者は各自思い思いの行動を開始した。
 今日習ったことの復習を始める人、睡魔に負けてウトウトしている人、友達と感想を言い合う人、様々だった。
 そして僕はというと……一人で食堂に向かいました……ボッチだからってわけじゃないからね?

 食堂は大体300名ほど入れそうだったので、どこに座っても問題はなさそうだ。
 この講習の食費は無料だとのことなので、券売機でどれにするか迷ってしまった。
 日替わりのA定食とB定食、各種ラーメンに各種餃子、チャーハンもある。
 それから意外なことに刺身定食まであるから、本当に何でもありだな。
 あ、よくよく見るとベジタリアンやビーガン専用ってのも置いてある。
 至れり尽くせりって感じだった。
 僕は無難に生姜焼き定食をチョイス。
 食堂ではおばちゃ……おば様方が調理場で一生懸命に働いていた。
 カウンターで受付を行ってるおば様に生姜焼き定食の食券を渡すと、配膳台まで進むように促された。
 すれ違いざまに食券を受け取ったおば様から、「頑張りなね?」って言葉をかけてもらえた。
 きっと、これから訓練がきつくなるのだろうことは目に見えていた。
 労いの言葉が、今の僕にはとても嬉しく思えた。
 僕はそのまま配膳台まで進み、ちょうど出来上がった生姜焼き定食を受け取った。
 そしてすぐにさっきのおば様の言葉を思い出した。
「頑張りなね?」
 僕の目の前にはすさまじい量の生姜焼き定食が提供された。
 ご飯もおかずも圧倒的戦力を演出していた。
 これの事かよ!!??
 ほんと大食い選手も真っ青じゃないか?
 見た目からすでに圧倒された僕の胃袋は、食べる前からノックアウト状態になってしまった。
 
 空いている席を見つけて席に着いた僕は、ふと周りの反応が気になったのでこっそり見回してみた。
 案の定周りを見ると女性たちがその量に驚いていた……
 男性陣の一定割合も同じように顔を引きつらせていた。
 
 さすがジエイタイクウォリテー。

 そして僕は一生懸命に食べましたよ……
 おば様の視線が怖いんです……
 カウンター越しに目が光ってるんです。
 お残しはいけません!!的な……



 うぷっ……ごじぞうざまでじだ……うっぷ……
 
 頑張って食べきった僕のおなかは、狸の様に膨らみ切っていた。
 これ以上入れたら確実に破裂しそうだな……と思えるほどだった。
 普段からこれを食べている自衛隊の隊員の方々を、ある意味尊敬してしまった。

 あとから気が付いたんだけど、発券機の下段に〝ごはん小〟〝おかず小〟〝味噌汁小〟のボタンがあった。
 もっと早くに気が付くべきだったなぁ。
 
 しばらく腹ごなしをしてから大浴場に向かうと、僕と同じくらいの年の男性と一緒になった。
 話を聞くところによると、男性は自営業だったそうだ。
 しかし、店の敷地がダンジョン管理区域の中に入ってしまったらしい。
 その影響で立ち退くしかなくなり、営業ができなくなってしまったそうだ。
 政府から立ち退き料をもらったが、今後の生活費には全然足りないとのこと。
 そしてこの元凶を作ったダンジョンにむかついたので、自分で攻略してやる!!って意気込んでた。

 僕はそれを聞いて、自分の目的の無さに、少し心が沈んだ。
 考えてみれば、なんで探索者になろうと思ったんだろうか?
 別に探索者になる必要などないのに。
 何故か、「探索者にならないと」って思ってしまったんだよね?



 大浴場は、大人が30人くらい足を延ばして浸かってもまだ余裕がありそうな広さがあった。
 洗い場も50か所くらい設置されており、その辺はさすが自衛隊って思ってしまった。
 体を清めてから風呂に浸かっていると、ちょうど一ノ瀬さんも入ってきた。
 ついでだから一ノ瀬さんから、いろいろ教えてもらうことにした。

 どうやら自衛隊も、ダンジョンの攻略に行き詰りつつあるらしい。
 第1層・第2層は普通に陸上自衛隊所有の銃火器でも対応ができたそうだ。
 第3層から徐々に効果が薄れ始めて、第5層では役に立たなくなってきたらしい。
 自衛官の中に【銃火器】スキルが発現した人がいたみたいで、その人たちは何とか中層でやっていけてるそうだ。
 ただ、弾薬費が嵩んで上からガミガミ言われてると愚痴をこぼしていた。
 そのおかげで、古典的武器の剣や斧が逆に優位になっていたようだ。
 遠距離攻撃は魔法スキルを発現した隊員に任せて、剣で切りかかるとは思ってもみなかったそうだ。

 それとは別に、数日前に一ノ瀬さんが探索中に、ダンジョンの成長を目撃したそうだ。
 いきなり目の前の壁が動き始め、自分から遠ざかっていったそうだ。
 そして突如、目の前に別の壁が下からせり出してきた。
 緊急事態の為、慌てて引き返したからよかったけれど、取り残されていたらどうなっていたかわからなかったみたいだ。
 確かに、そんな状態になったら、生き残れたとしても対応次第では死に直結していたかもしれないな。



 それと最後にこそっと教えてくれたんだけど、どうやらこのお風呂……女子風呂につながってるらしい……。
 うん……。僕にどうしろと?
 それを教えるとサムズアップした一ノ瀬さんは、ざばぁっと風呂から出て颯爽と去っていった。
 
 男として……負けた……
 いや、深い意味はないよ、深い意味は……
 
 その後も少しの間考え事をしていた。
 いや、女子風呂の話じゃないからね?
 一ノ瀬さんから聞く限り、第5層からが本番のようだ。
 そして、銃火器よりも剣や槍、斧などの古典武器が有効だという話だ。
 魔法についても有効で、なんだかファンタジーの世界に迷い込んだ感覚がしてきた。
 テキストに載っていた写真を見たけど、やっぱりファンタジーなんじゃないかと思ってしまう。
 早くこの状況から脱出したい。本気でそう思えてならなかった。



 どうやら考え事をした為か、ずいぶんと長湯しすぎてしまったみたいだ。
 僕は少し足元がおぼつかないまま、中庭で夜風に当たっていた。

 そういえば明日から美鈴はダンジョンに潜る予定だ……それを考えると、否が応でも不安がよぎってしまう。
 何事もなければいいんだけど。
 美鈴よく調子に乗って動き回るからな。
 一人で突っ走って周りの人に迷惑かけなきゃいいんだけどな。
 
 僕は満天の星空を見上げ夕涼みをしていた。
 しばらくすると、後ろからいきなり声をかけられた。

「あれ?中村先輩じゃないですか?」
 
 この声どっかで聞いた気がするな?
 僕が振り返ると、そこには前職の後輩の谷浦たにうら 栄次郎えいじろうが立っていた。
 手にはコーヒー牛乳の瓶と団扇を持ち、谷浦も夕涼みをしに来たようだった。
 谷浦とはとりわけ仲が良かったわけではないけど、それなりに目をかけて教育を行った3つ下の後輩だ。

「中村先輩も講習来てたんですね?それにしても会社なんですけど、いきなり倒産とかありえなくないですか?いきなり無職ですよ?しかも、会社からの通達よりも、ステータス画面で知るってどうなんですかね?ホント焦りましたよ。それに、職業安定所行っても人多いし。しょうがないから友達誘って探索者になろっかなって思ってきたんですよね。そしたら、講習が眠いのなんのって、あまりの眠さに意識飛びかけたから、シャーペンで足を刺して耐えましたよ。おかげさまで内容は入ってこなかったですけどね。」

 相変わらずのマシンガントーク。
 しかも後半地味に過激発言だし。
 自分の足をシャーペンで刺すってどうよ。
 君マゾの素質あるんじゃない?
 それに内容が入ってこなかったら意味ないでしょ?
 そんな内容に、僕はうんうんって言いながら相槌打つくらいしかできないよ。

「栄次郎行くよ~。」

 しばらく谷浦と他愛のない会話をしていると、遠くから谷浦を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
 何だよ、結局リア充じゃないか。

「あ、ちょっと待ってよ!!じゃあ、先輩も頑張ってくださいね。」

 一通りしゃべり終わると谷浦は友達のもとに帰っていった。
 うん、寝る前にめっちゃ疲れたとだけ言っておこう。

 こうして短くて長い講習一日目は終了したのだった。
 





 それにしても一ノ瀬さん半端ないっす……
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