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6.楽園での休日

16.胸に宿る思い

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「次は刀対ソードブレイカーですか。技量の差はあるかもしれませんが、槍よりは勝てる見込みはあるようですね」

 目の前で繰り広げられるパトリシアさんとフランシスカさんの戦いは、観客を熱狂させてくれます。対人戦は、決闘でもない限り、剣対剣の戦いすらみる事はできませんし、魔法があるのですから、普通は魔法を交えた戦いになりますしね。
 こんな風に、武芸を競い合う事が楽しいを思える時代というのは、何時かやってくるのでしょうか? そんな事をつい考えてしまいます。

「それで、貴女とフランシスカさんはどちらが強いの?」

 おっと、イリスさんそれを僕にききますか……、少し考えて僕は口を開きます。強いのは考えるまでもなくフランシスカさんだと思いますけどね。

「そうですね、剣技や水中といった条件を絞らなくても、フランシスカさんは僕より強いと思うよ。実際、水中では僕は辛うじてレギニータに勝てる程度だしね」

 僕の言葉を聞いて、イリスさんはフンっと鼻を鳴らせます。珍しいですね……

「無条件でなら貴女の勝ちでしょ」

「いや、無条件ならそれこそフランシスカさんの勝ちだと……」

 僕が続きを話そうとした時、イリスさんが他の人に聞こえない様に、そっとつぶやきました。

「相手を殺さないとか、モノを壊さないという条件無しなら、貴女の圧勝じゃない。貴女は、自分自身がどれだけひどい目に合おうと、決してその条件は破らないでしょうけど……」

 イリスさんの言葉に胸を突かれ、僕は黙り込みますが、ゆっくり首を振ります。事実として、僕は過去に多くの命を消滅させています。戦場でも旅先でもですし、本来救える命を救わなかったこともあります。

「……そうですね。僕は魔法を使って一方的な殺戮で相手を殺すという事はしたくないのは事実です。武器を使うのは、相手にも反撃のチャンスを与えて、一方的な殺戮じゃないと、自分を誤魔化しているのかもしれません。
 でも、僕に殺される側にとっては、自分が死ぬという事は変わりませんし、僕の手が血塗られたという事も変わりませんよ……」

 僕は言葉を続けます。昨夜、僕たちが殲滅した魚人族マーマンを思い出します。
 彼らの理論では、この島に居る女性を襲う事は、種の繁殖のために仕方の無い事だったのかもしれませんが、僕にはそれをさせる訳にはいかない理由がありました。今後もそんな事がたくさんあるでしょう。

「でもね僕は、それを後悔するつもりはありません。僕は、僕の家族や友達を理不尽に襲う事から、今後も守ります。その為に知らない誰かの好きな人や、良い兄、父である人を殺し、僕の手が更に血塗られる事になっても……」

 人を殺める事は僕にとっては罪ですが、このアイオライトでは人を殺める事も、虐げる事も、まだまだ普通に行われていますし、人間と価値観の異なる魔物なんて存在もいます。
 彼らからすれば、殺し、虐げることは罪でのなんでもないのですから、僕たちがその被害者にならないとはいえません。
 そして、これは僕の甘えだと思っていますが、できるだけ手を汚すのは僕だけにしたいとも思っています。もちろん、昨夜の様に僕だけで済ませる事はできないのは承知しています。人間一人に出来ることなんて、たかが知れていますからね。
 僕はどんな表情をしていたのでしょう。気付くと、イリスさんが僕の顔をじっと見つめていました。そして、そっとささやきます。

「わかったわ。でもこれだけは覚えておいて……
 貴女が私たちを守る為に、その手を血で汚したとしても、私たちの手が血塗られないわけじゃない。貴女が殺した人は、守られた私たちが他者を殺したのと同じ事……貴女一人が背負う罪じゃないわ。
 ここに居る大半の人達は、昨日貴女に守られたことを知らないけど、少なくてもユイやユーリア、私はそれを知っている。今日笑っていられるのは、貴女がその為に戦ったからだという事をね。だから、笑うのは無理でも、今は、ない胸を少しはシャンと張りなさい」

 ……ない胸とかって、何気に酷いことをいいますね、イリスさん。二日目になって、皆さんだいぶ慣れたのか、水着姿を誰も恥ずかしがっていませんので、コンプレックスがやたらと刺激されているっていうのに……

 まあ、良いでしょう。少なくても、昨日殺した魚人族マーマンの事を思い悩むより、楽しく笑っている皆さんの姿を心に焼きつけましょう。

*****

 そして、チャンバラごっこもパトリシアさんの乱入はありましたが、大きな順位の変動はなく、人魚族のお二方が上位をしめて終了となりました。

 パトリシアさんは、コリーヌさん、ヘルガさんと同等の三位という扱いになり、景品が特になかったせいもあり、もめる人はいませんでした。

 ですが、レナータさんに一勝したことによって、僕に約束の履行を迫ってきましたのです。確かにあの時、パトリシアさんが勝利したらと言い、優勝したらと言ってはいないという理屈です。僕はため息をつきつつも、それを受け入れました。ここに居るのが女性ばかりである以上、戦時以外に銃を向けられた時の対処法は知っておいた方が良いでしょうからね。希望者にだけ、簡単な対処法を教えておきましょう。

「……これはかつて赤シャチと呼ばれた海賊が所有していた銃です」

 赤シャチが持っいた銃は、エリクシアの正式銃の銃身を短く切り飛ばしたもので、実際の殺傷力はそれほど高いものではありません。このレベルの銃は、主に銃声と攻撃対象に苦痛を与える事によって、より多くの人々を制圧する事に威力を発揮します。

「弾丸は、銃身の前から詰める為、一発うてば次に銃を撃つのには時間がかかります。それに、有効距離は十メートルというところですから、頭や心臓などの急所に当たらなければ、武芸を学んだ人なら問題はないと思います」

 そう、女性に銃を向けるのは、大抵は脅して身柄を拘束することが目的ですからね。ですが、足を撃って逃げられないようにするという使い方もありますし、魔法使いといえど被弾すれば痛みによって、魔法を詠唱できる人はすくないでしょうしね。

「初弾を回避すれば、生存率は上がりますので、銃声が聞こえたら物影に隠れるか、咄嗟の場合は伏せればなんとかなる確率はあがります。野外といえど、銃声が聞こえれば人がやってきますから、落ち着いて対処してください」

 簡単な対処法と、銃を国内に流通危険性も説明しました。銃が使われる事は、もう避ける事は出来ませんが、管理を徹底して軍以外が所持することを禁止するなどの対応を合わせてお願いしておきます。盗賊の手に渡れば、武芸を極めた貴族と言えど、町中で殺害される危険性を指摘しておけば、十分でしょう。
 そして、ここにいる皆さんは十分優秀な方々です。銃が誰にでも手に入るようになれば、貴族の政治に不満を抱く者がとる方法は簡単に推測できるはずです。

 高貴差は義務を強要するノブレスオブリージュは、貴族や王が民よりも良い生活をしている背景であり、それを成すがゆえの貴族でした。銃が貴族や兵だけに渡り、今まで通り、民を守る立場が貴族であるのなら問題は無いでしょう。
 ですが、他国との戦いなどに民を動員したとき、それは崩れます。貴族たちは民を守る為に貴族であるのですから、民が戦いに動員された時点で、その義務を放棄したことになりますよね。義務を放棄すれば、貴族としての権利を感受することは出来なくなります。ここにいる貴族の子女が、それに気が付いてくれるといいのですが……
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