上 下
135 / 349
5.南海の秘宝

3.魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】

しおりを挟む
 窓から南東方向を見下ろすと、眼下に開放都市【チッタ・アペルタ】の全景が目に入ります。直下ではありませんが、建設中にみんなとDM2で真上から見たから良くわかるんですよね。
 開放都市【チッタ・アペルタ】は、中央に直径500mの円状の中央区に、魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】や冒険者ギルドなどの公共施設が配置されます。
 中央区を中心に街路が8方位に放射状に伸び、中央区を囲む環状の運河と同心円上に、2番街路3番街路と広がり、各街は北1番街、南東3番街の呼称が着くのです。
 街は一辺が2kmの方形ですので、3番街が一番外になり、格式が低い街となります。なので、3番街に花街や酒席を主に扱う飲食店が配置されるのが普通で、東1番街にはロンタノ辺境のお屋敷が存在するのです。

 魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】では、今日はイリスさんの講義がありますので、護衛が僕の役目です。今週は、教える側にとっても、教わる側にとってもある意味チュートリアルですからね。頑張って行きましょう。

 朝食後に、イリスさんが大きな荷物を持ってやってきました。少し唖然としますが、最初から僕に運ばせる気ですよね。まあ、荷物持ちもして上げますよ。収納にしまうだけですし。

「今日はどんな講義をするのか楽しみにしていますよ」

 僕がそう言うと、イリスさんはつまらなそうに僕を見ながら言いました。

「今日は適正と知識、興味ある分野を確認するだけですわ。見ていても退屈なだけですわよ」

 何故か不機嫌にイリスさんがいいました。僕は首を捻りながらも、イリスさんの後に続きます。ファロス島のエレベータで下層街に行くのかと思えば、更にその下、地下へとエレベータは向います。

「えっ、いつの間に地下なんてできたの? 僕は知りませんでしたよ」

「貴女は空ばかり見てるから、足元の事には気付かないんでしょ」

 とあっさり言われます。むぅ、ますます不機嫌ですね。無言のまま、地下5層でエレベータが止まり、僕とイリスさんがエレベータを降ります。そこは、完全に駅のホームですよ。

「地下鉄ですか!」

「貴女の言う路面電車を地下に通しただけよ。さ、これで魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】に行きますわよ」

 そういい乗り込んだ僕達二人を乗せて、地下鉄は走ります。この地下鉄は、下層街と開放都市【チッタ・アペルタ】中央区を10分で結びます。途中駅は各街区の路面電車の駅地下になりますので、通勤用ですね。今はまだあちらの家に泊まっている人が多いので、連結車両の1両だけですが、当分は上層街から向う僕達の貸切になるだろうと言うことです。

 中央区の駅をでて、エレベータを昇ると、そこは魔術技術学院【スクオラ・ディ・テクノロジア】の通用口です。アレキサンドリアから、こちらの学院に通う人は今の処居ない為、職員専用のようですね。

「魔法医療学、講師イリスと助手クロエです。本日の講義の為に入場しますわ」

 イリスさんが受付の女性にそう言うと、2人分のプレートが渡されます。職員用の入退室キーとなるようですね。講義を行う部屋は、201号室と言う事なので、おとなしくイリスさんの後について歩いていくました。
 201号室の講義室の前で、イリスさんは僕に一言だけ言いました。

「今日は何があっても、口も手も出さないでよ? 判りましたわね?」

 念押しされたので、おとなしくうんうん頷きます。そして、誰もいない講義室に僕らは入りました。

*****

 講義開始の10分前で、ようやく生徒らしき女の子が数名入ってきますが、僕達をみて少し驚いたようですね。僕達はいつもの制服姿ですが、胸元で職員扱いのプレートが光ります。
 その後、ぱらぱらと人が増え、開始時刻1分前で20名程になりました。そして開始時間を迎えますが、のんびり歩いていた数名は間に合いそうも無いですね。やがて開始時刻になり、入り口が魔法障壁で閉鎖され、イリスさんが立ち上がります。
 外では間に合わなかった数名が、なにか喚いていますが一切聞こえません。室内の受講希望者も、年齢はまちまちですが、僕達より年下は見当たらないようです。そして、イリスさんが口を開きました。

「では、これより魔法医療学のチュートリアルを始めますわ。まず、始めに伝えておきますが、時間を守れない人には魔法医療学の習得はできません。
 時間を無駄にしたくなければ、他の講義をお勧めしますわ」

 室内でザワつきが生じますが、イリスさんは全く無視して言葉を続けます。

「これより、あなた方の知識を確認する為の試験を行います。そこで、知識を確認したあと、適正判断をいたします。その段階で適正を伝えますので、不適格な方は退出してもらいます。また、こちらのやり方に対して不満があれば、いつでも退出していただいて構いませんわ。」

 このやり取りと僕達の姿をみて、数名の受講希望者が退出していきます。中にはこちらを睨みつける人もいますね。いかにも貴族貴族しているような女性でしたが、医療行為には向きそうもない人でしたけど。

「では、これより試験を行います。現時点での知識を確認する為の者ですから、わからない問題は飛ばしてもらって結構です。時間は2時間。相談不可、資料の閲覧も不可です。手元に問題が届いたら直ぐ開始して下さい」

 そう言って、イリスさんの手元から残った受講希望者の下に、勝手に問題用紙が飛んでいきますが、プリント両面10枚はありそうです。これは僕が受けても難しいかもと思ってしまいますね。

 プリント配布後、2名が退出していきました。どうやら筆記具さえ持ってきてなかったようです。何をしに来たのでしょうか?
 サラサラと紙に文字を記述する音と、紙をめくる音しか聞こえません。時折悩んだようなうめき声があがりますが、後は静かに時が流れます。

 むう、これは高校の時の入学試験の試験管のアルバイトをした時のようですね。懐かしい記憶が蘇り、感慨深いものです。
 受講希望者にとっては短い、僕にとっては長い時間が漸く終り、問題用紙は全てイリスさんが回収しました。

「クロエさん、検知器で希望者の方の魔力色とレベルの記述、そして将来の希望職種を聞いて一覧表を埋めて下さい。私はその間に採点しておきますので」

 僕は云われたとおり、一人一人の魔力色やレベル、希望職種を記入していきます。僕が全員の計測をおえると、イリスさんも採点を終えていたようです。むちゃくちゃ早いですよ。

 僕が纏めた魔力値の一覧表と、採点結果を見ながらイリスさんは受講希望者をグループ分けしました。そして、最初の1グループを残して、全て不適格として講義室を追い出しました。
 退出の際、一人ひとりにイリスさんが採点をしていた結果を手渡します。それを見て、丸めて捨てる人もいれば、きちんと折畳んで立ち去る人、書かれた内容をみて肯きながら歩く人など悲喜こもごもです。

「ここに残られた皆さん方は、現時点で魔法医療術に関する適正が、ある程度ある方と判断しました。まずは自己紹介をさせてもらいますわ」

 残ったの5人を前の座席に集めて、イリスさんは簡単な自己紹介をします。ですが、僕の事を「これはクロエ」と、名前だけかよって紹介ですよ、酷くありませんか?

 残った5人が夫々自己紹介を順にしていきます。

「自分は、テーゲンハルトであります。普段はテーゲンと呼んで下さって結構であります。年齢は20歳、現役の冒険者でもあります」

 一人目はごく普通のお兄さんといった感じの男性で、赤味がかった茶色い髪にヘイゼルの瞳が特徴的ですね。冒険者をしていて、ランクはLv.Dのヒーラーさんだったのですが、所属していたパーティーが解散したので、この間にスキルアップを目的として受講したとのことです。

「えっと、次は僕なんですかね。……僕はカレルといいます。エリクシア南部の辺境、ユトレイト出身の17歳です」

 2人目のお兄さんは、やや幼く頼りなく見える男性ですね。明るい茶髪にグレイの瞳が、おどおどしている様に見える、気の弱そうな男性です。

「俺はサンドラ・ノヴィエロだぜ。16歳でアルベニアの伯爵家の出だが、次女なんで家をでて冒険者になったんだ。貴族なんて意識もねぇから、みんなも適当に仲良くしてくれ」

 3人目は大柄で黒髪に濃い茶色の瞳をした口の悪いお姉さんといった感じですが、その割にゆるふわ系の髪を胸元まで伸ばした綺麗な髪をしています。口が悪いのに、髪や紅をさして身だしなみをしっかり整えているのは、流石は元貴族という処なのでしょうね。

「私はクラリスと言います。ラマグドレーヌ公国出身の16歳で、小国なので医師が不足しているので、ここでしっかりと学びたいと思います」

 そういう4人目の方は、小柄で親しみを持ちやすいごく普通のお姉さんですが、淡い金髪に碧眼が特徴です。ラマグドレーヌ公国は、アルベニア北方の山岳地帯にある小国で、王ではなく公爵を君主としています。小国とはいえ、険しい山岳を上手く利用した戦上手の国で、事実アルベニアの隣国ながら独立を維持しています。

「最後はレギですの。レギは、レギニータというんですの。17歳で、南方の島国アルムニュール国出身ですの。よろしくお願いしますですの」

 最後はとても綺麗なお姉さんですが、女性の中では年長さんですけど、そうは見えませんね。アルムニュール国は複数の島からなる南方の島国で、香辛料と果物が特産です。島国の所為もあって、海軍は精強だそうです。

 こうして見ると、皆さん個性的な人ばかりですね。でも、今回の講義開始5分前には全員部屋に来ていた方々ばかりですね。簡単な自己紹介が終ると、イリスさんから講義の概要が知らされましたが、多少なりと基礎の治癒術は皆さん使えるようですので、次回から本番ということで、本日のイリスさんの講義は終了となりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無自覚に幸運の使徒やってます

たんたん
ファンタジー
子供を助けようと事故に巻き込まれた主人公こと鋼は女神に出会う。 鋼は自分が勇者になって世界を救うタイプの異世界転移と早とちりし、「わかりました、俺が勇者になって世界を救います。」と宣言するが「いえ、勇者は別にいます。ですので自由に生きていただいて結構ですよ。」と女神に否定される。 そして鋼は勇者と共に王城へと転移した鋼は残念ステータスだったため、戦力外通告をうけ城から追放される。 この世界で何の使命もない鋼はコウとして、自分のやりたいように自由気ままに生きていくことを決意する。 不幸にも負けず、時にはロリコンの汚名を着せられ、仲間の力を借りて困難を乗り越えていく。少しずつ仲間や知り合いが増えていき、出会う人達の人生をちょっとずつ変えていく。 冒険者として、職人として一歩一歩成長していき、世界を変えていく物語

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...