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4.アレキサンドライトの輝き

14.依頼と報酬①

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 魔法学院のお休みの日、僕とイリスさん、ユイの三人にエマを加えた4人で再び帝政エリクシアの北都『トラキヤ』を訪れました。今回は、戦闘目的はありませんので、ユーリアちゃんとジェシーはお留守番してもらいます。
 ユーリアちゃんもジェシーも同行したいとゴネましたが、今回は依頼内容の確認の確認が主目的ですし、他国とはいえエルフが街を歩いていると目立ちます。一応万全とは言え、まだまだ『黒死病』が蔓延している国です。そこは、安全第一で行きましょう。

 いつも通り、ユイの『風在鬼』に伝言の配達をお願いした合図のハンカチを待ちます。ハンカチを確認後、そのまま中庭に着陸し、視覚・認識阻害をかけたまま収納に収納しました。ユイに直径5mもの家出娘の天国Heaven of my elopement daughterが収納できるのであれば、わざわざ遠くに駐機する必要はないのでは指摘されたためです。いわれてみればその通りですよね。

 メイドさんに案内されて、客間で応対ということになります。和やかな挨拶の後で、イリスさんが話をすすめます。

「さて、今回の指名依頼についてお話しましょうか。私達としては、エリクシアの貴族を助ける為に制作をするつもりはありませんの。配布先が王家やあなた方のご両親の貴族家だとしても、お受けできないことくらいは想像がつきますわよね?」

 エリーゼさんの立場もあるでしょうから、王家から依頼や命令がでれば何かしら動かねばならないでしょうけど、現在もアレキサンドリア共和国に対して、帝政エリクシアは謝罪を行っていなければ、国家として何も認めてはいませんからね。人道支援という概念のない現状では、完全な交易の途絶状態です。

「まあ、そうでしょうね。実の処、ヘルガ嬢にもフローラ嬢にもそこは指摘されておりましたし、友誼でこちらのお願いを聞いていただけるとは思ってはおりませんですの。」

 予想通りのエリーゼさんの反応ですね。エリーゼさん達がそんなことに気が付かないとは思っていませんでしたし。

「今回の依頼は、一つにはあのアイテムが必要であれば、アレキサンドリア共和国と和解するしかないという証拠固めというところです。
 そちらのギルドと違い、エリクシアではハンターギルドは国家の管理下にあることはご存知でしょう。あなた方に依頼を出したことは、王家や有力貴族は既に招致しているでしょう。
 あなた方は、依頼を拒否してくださって結構です。というか、拒否してください。さもないと、次々に他の貴族や王家からの依頼がいくことになります」

 ヘルガさんの発言は最もなことですね。では、今回の来訪は無駄足だったということですね。イリスさんも、ユイも拍子抜けした顔をしていますね。

「では、私たちはこれで「お待ちになって!」礼……」

 イリスさんの言葉を、エリーゼさんが上書きしましたね。これ以上用事があるのでしょうか?

「貴女方をこの程度の用件で呼び出したりしませんわ。内密でお話ししたいことがあってお呼びだてしたんですわ。」

 そういってエリーゼさんが話をしたのは、例のといってよいかはわかりませんが、オリバーとの婚約についてですね。

「以前お話ししたように、貴族達への根回しも順当にすすみ、ワタクシとの婚約は無事無効と相成りましたわ。その後、当然のように各貴族家と新たに婚約者の選定に入ってのですが……」

 そして、エリーゼさん達の話を聞いたところ、どうやらオリバー王太子(むぅ、やはり違和感ありありで、慣れませんね……)が、婚約者の候補に2つの条件を付けたようです。

 1つ目の条件は年齢が12歳以上18歳以下であること。家柄や続柄は問わないということ。通常、王家に輿入れする女性は、暗黙的に伯爵家以上の家柄であることが求められますが、今回は家柄を問わないというのは、オリバーにしては大胆ですね。アレキサンドリアで当初僕を人間扱いしてなかったくせに、気が変わったのでしょうか?

 2つ目は、有能であること。これは、現在も『黒死病』で国力が激減しているなか、既存のお飾り的な妃では、帝政エリクシアの再建ができないということらしいです。
 そして、その能力の示し方はただ一つ。壊滅しかかっている西部属領の再建、つまり断絶してしまった貴族領の再建であり、男爵家・子爵家は参加は任意。伯爵家以上は1名以上の参加を必須とするということです。
 男子の場合は、再建がある程度成功すれば、次男三男であっても新しい貴族家として叙任するという破格の条件です。女性であっても、王太子妃になれなくても、女性貴族家として認められるとなれば、各貴族家の力が増しますし、次男以下の平民も、新規に土地を得るチャンスとなりますので、次男以下の貴族・平民にとっては一大チャンスとなります。兵隊か冒険者などにくらべれば、よほど安定しますからね。

 そして、エリーゼさんは公爵令嬢ですので、参加は必須となるわけですが、事実上北領はエリーゼさんが切り盛りしていますので、北領の運営はヘルガさんに委託する方向で話を進めているとのことですね。
 そうなると、問題がエリーゼさんの身辺警護になりますし、任される領地の『黒死病』の除去を僕たちに依頼できないかというのが、今回の呼び出しの本当の依頼内容だということです。

 その話をきいて、僕とイリスさん、ユイの三人は顔を見合わせます。そして、イリスさんが頷いて、エリーゼさん達に答えました。

「いくつか疑問がありますわ。
 一つ目の疑問は、そのような大役を私達に任せてよいんですの? 私たちは帝政エリクシアの民でないことはご承知だとおもいますわ。
 そして、二つ目はエリクシアの民でもない私たちが、なぜ協力をしなければいけないのかという点ですわね。ご存知でしょうが、エリクシアの王家がどう考えていようと、事実上アレキサンドリア共和国と帝政エリクシアは交戦中ですわ。敵国の国力回復に、私達が力を貸す理由がございませんわ。そして、当然のことながら、私たちの一存で回答するわけにはまいりませんの」

 イリスさんの言う通りですね。復興となれば、短期間というわけにもいきませんし、その間の護衛もアレキサンドリアから長期離れるのでは難しいですしね。それに、イリスさんのいうとおり、敵国の国力回復に僕たちが力を貸すわけにはいきません。

「それに、僕たちが手をかせば、正直言って再びオリバー王太子の婚約者になる確率が跳ね上がりますよ? よろしいのですか?」

 僕の問いに、エリーゼさんはにっこり笑って答えます。

「貴女方なら、そこ辺の事情も加味して加減してくださると思っていますので」

 あっさり答えられてしまいましたね。沈黙した僕にかわって、ユイが質問します。

「それだけの事を成すには、当然報酬も高額となります。いかほど支払うつもりなんでしょうか? 空手形ではこまります。」

 そうですね、どのくらいの広さかはわかりませんが、広範囲の黒死病の原因の除去と護衛、それに相応の期間がかかるとなれば、費用はかなり高額になるといってよいでしょう。
 僕達の、疑問にも再度にっこり微笑みを浮かべたエリーゼさんが答えました。そして、僕たちは唖然として結果をとりあえず持ち帰り、一週間以内に回答する皆を告げて、北都を離れたのでした……
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