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1.何処かで聞いた都市国家

14.帝政エリクシア戦役の真実

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 今回のお話は、過去の話とはいえ、鬱展開です。本編の大筋には関係しないと思いますので、苦手な方は本編は飛ばしていただいたほうが良いかとおもいます。

*****

 「今回の話はもちろん機密だが、クロエ君は第二次エリクシア戦役については、どの位知っているんだい?」

 「都市歴の本を読んだ程度ですよ。初めて死傷者が出たけど、敵を殲滅して撃退したという事くらいです。」

 確か、帝政エリクシアは、アレクサンドリア共和国の西に位置する皇帝ユリウス・ノース・エリクシアが率いる一大帝国だ。
 今から13年前の都市歴137年に、騎兵1000騎、歩兵5000名、片舷10門の砲艦をもって、アレクサンドリア共和国に対し、帝政エリクシアへの隷属を求めて侵攻した。
 公式には、河口から放たれた砲艦の砲弾は、都市を守る魔法障壁に接触するも、貫通できず川の中に落水。
 騎兵と歩兵は下層街を包囲した。その後約半数の兵が、段丘上部への接続回廊に進出したが、騎兵・歩兵の部隊を防衛任務についていた魔法師団が撃退し、下層街を包囲していた敵兵は逃亡した。
 4年後の都市歴141年、再び帝政エリクシアは、片舷20門の砲艦3隻をもって、再侵攻を開始。
 当初河口に3隻が陣取っていたが、風向きが海から陸へと変わるのを待って、1隻が河を遡上し下層街に接近する。魔法障壁外縁より大砲を発射し、ファロス島基部に着弾した。これをアレクシア・ウィンターら魔法学院防衛第一班が、初弾の被害をおして撃破した。

 以上が。公的都市歴のはずである。僕がそう言うと、エリックさんは肯きました。

 「うん。それが公式の歴史となっている。さて、ここからは非公式の歴史となる。勿論この事は、各部族の族長クラスや一部のものしか知らない為、口外禁止となる。また、ここにいるメンバーは全て既に知っていることでもある。」

 エリックさんが語った第二次エリクシア戦役は、歴史書通り敵は三隻の砲艦でやってきた。
 だが、前回の第一次エリクシア戦役より少ない兵数でもあり、河を遡上してきた船が1隻だったのもあって、防衛側であるアレキサンドリア側は油断したのだ。
 アレキサンドリア側の基本的な迎撃方法は、大砲を撃つ為に船を回頭をはじめた所で、アレクシア達攻撃魔法部隊が帆を火魔法で炎上させ、エリック・ジャスティン両名がその後拿捕の為、乗り込むという手はずだ。その為、リリー達、回復支援魔法部隊は、怪我をする可能性の高い近接戦闘部隊側に詰めていた。

 帆船に大砲を載せた砲艦は、船の左右に大砲が配備されている。これは、甲板上は帆を操作する索具があったりするから、甲板上に大砲は設置できず、砲列甲板と呼ばれるに船の左右の甲板に大砲を設置し、普段は閉じてある砲門から射撃を行う為には、船首を回頭して、側面を目標に向けねばならない。
 しかし、河を遡上そじょうしているなか、舷側をみせれば、船足も遅くなり魔法攻撃の鴨となるだけ。

 魔法障壁を貫けない砲艦が1隻、火魔法で帆を燃やされてしまえば、動く事もできなくなり鹵獲ろかくされるだけのデカブツが、何をしに接近してくるのかと。
 勝利を疑わない一部の市民は、接近を始めた砲艦をみても普段通りに商売をする人までいたという。

 甘く考えてたアレキサンドリア側に対し、敵船は魔法障壁ぎりぎりまで接近し、艦首に設置した隠し砲門から、2発の大砲弾を発射した。
 至近距離から発射された大砲弾は、魔法障壁を突破しファロス25層を直撃した。初陣だったアレクシアさんを含めた魔法学院防衛第一班が詰めた25層に……

 「私達が攻撃のタイミングを伺っている内に、相手に先手を取られてしまったわ。それでも、普通なら球形の砲弾が着弾したのでしょうね。」

 アレクシアさんはそう言います。

 「だけど、あの時は都市を護る障壁が仇となってしまったの。最初の1弾は魔法障壁で砕けて、破片が25層上階の迎撃用デッキと下階迎撃指揮所を襲ったわ。2発目は球形のまま25層の下部に着弾したから、そちらでの被害は無かったけど。」

 結局、ただ1発の砲弾は、アレクシアさんを含めた重傷者多数をだし、油断していたアレキサンドリア側は治療部隊も、応援の魔法使い達の準備すら出来ていなかった。

 「私達は次の大砲の発射前になんとかしないといけないと思ったの。たった1発の着弾で、都市防衛の要だった攻撃魔法使いが戦力外になったと敵に知られれば、後が無いわ。
 重傷者も多くて、動ける人間で反撃しようとしたけど、怪我の痛みなどで詠唱を可能な人はごく僅か。何とかしなければという気持ちだけで、どうにも出来なかったなか、私達は禁術を使用する事で打開することしか思いつかなかった。」

 アレクシアさんは微笑みました。いつもと違う微笑みはとても悲しげで……

 「私達の部隊10名のうち、初弾の着弾で無傷の者は、たまたま連絡用に通路に居た1名のみだった。その娘に後の事を頼み、9人の命(生命力)をにえとした禁術を使い、砲撃してきた艦と洋上にいた2隻を『船の墓場』と呼ばれる別な空間へと転移させた。私が憶えてるのはそこまでよ」

 アレクシアさんが黙り込むと、リリーさんが話し出します。

 「……大砲の着弾で、多少の被害がでたとの報告で、下層街から緊急移動命令をうけた私達の医療班は、ピクニック気分でファロス島25層に向ったの。大砲の弾により壊滅的な打撃をうけたアレクシア達が、禁術を使うと言う連絡を託された連絡員から聞いた私達は、25層へと急いだわ。
 そこで私達を迎えたのは、禁術により著しく生命力を消耗し、最初の砲撃で腕や脚・お腹から血を流し倒れていたアレクシア達。血まみれの惨状に、私達医療班の三分の一が恐慌に陥って、逃げ出したのよ。助けるべき、彼女達を見捨ててね。
 残った私達では、負傷者全てを救うことはできなかった。そして、アレクシアの怪我の程度がひどかったのは、一目でわかるほどだった。医療優先手順では、本来アレクシアの治療順位は7番。治療順位通りに治療を施せば、少なくても助けられる人は5人いたのよ」

 リリーさんは、ここで一旦話を切りました。そして、アレクシアさんを痛ましそうに見つめます。

 「……彼らは、自らの治療を望まなかったんですね」

 僕はやっとのことで声を出します。本来生存しているはずのないアレクシアさんが生存している。この事実から、想像できることは一つしかありません。

 「いいえ、彼らは自分達が助かることは、勿論望んでいたわ。でも、それ以上にアレクシアが生存することを望んだ。いえ、違うわね。
 始祖四家の血統を絶やす事を何より恐れた。そして私達もそれは同じ。結局、それを飲むしかなかった。」

 アレクシアさんが、更に続けます。

 「私がそれを知ったのはね、戦いから一か月経って目覚めた時だったの。本来なら、後続の魔法使いが来るのを待って、攻撃をした方が良かったのかもしれない。でも、みんなが助かる可能性をあえて蹴って、敵を倒す、いえ敵を殺す為だけに命を犠牲にすることを選んだ。自分が生き残るなんて考えていなかったのにね。
 戦う前の週に、子供が生まれた人がいたの。エリクシアが攻めてこなければ、翌週には結婚する人もいた。そして、彼らが命を犠牲にしてまで生を望まれた私は、結局戦傷で子孫は残せない身体になった。ねえ、あの人達が命を懸けた事に、意味はなかったのかな?」

 アレクシアさんの問いに、僕は答えることができません。

 「ごめんね。クロエに聞いても仕方ないし、それに私にはもう結論がでているの。だからクロエは気にしないでいいのよ」

 そうなんですね。アレクシアさんが決めたことに対して、僕はどうこう言うことではありません。

 「アレクシアだけの責任じゃないさ。俺やジャスティンも突入タイミングを失い、なにも出来なかった。そして、仮に突入していた場合、『銃』による反撃を受けていただろうな。
 結局俺達アレクサンドリアの皆は、魔法を使える事で相手を見下していたのさ。今も、先の戦役で油断はしないと決めたのに、結局こうして『銃』や『大砲』を舐めていた。クロエに言われるまで、道具として発展しても大したことはできないとな。」

 ここで、一旦エリックさんは口を閉ざします。そして、再び口を開いたときは、強い決心を感じさせる口調で続けました。

 「だが、それが数を揃え、魔法使い一人に対し、四方八方から『銃』を撃つとなれば話しがちがう。戦いを続ければ、必ず魔法使いが失われる戦いとなる。それは攻撃を担当する魔法使いにしても、治癒・回復を行う治癒魔法士にしても同じだ。
 仮に西のエリクシアから守れたとしても、東のアルベニア王国が漁夫の利を狙って攻めてくる可能性もある。他にも共倒れを狙っている国はいくつもあるだろうな。
 このエリクシアの連中が、『ハンドキャノン』と呼ぶ『銃』や、奴らの船が搭載する『大砲』を、研究する部署を作る事を提案しよう。魔法を使わずにどう強化すれば威力が上がるか、早く次の弾が打てるかなどを、クロエ君が話してくれた、進化の方向も一つの参考になることだしな。」

 リリーさんが、エリックさんに依頼します。

 「まず、今の『銃』や『大砲』を模倣したものが作れないかしら? ゴブリンやオークとかのヒト型の魔物に対して使ってみて、『銃』や『大砲』による傷や身体が受けるダメージのサンプルが、数多く必要となるわ。治療をするうえでもね」

 イリスが肯いて、アレクシアさんも続けます。

 「そうね。『銃』や『大砲』の弾の威力を殺す魔法障壁や、防具の研究も必要ね。あとは、クロエが言うような大砲が100門も積んであるような船と戦う手段も、航海術の部門で考える必要があるわよ。」

 僕は、リリーさんの言葉で思いついたことを、口にだしました。

 「恐らく、僕が知っている事と違って、剣や槍・弓といった武器が完全に無くなる事は、無いと思うんです。」

 僕の言葉に、エリックさんを始めとしてみんなの視線が集まってしまい、恥ずかしくなりますが、言葉を続けました。

 「『銃』が強力になったとしても、欠点があります。人の手で携帯できる『銃』では、威力に限度が必ずあります。きっと、オークやオーガは一発の銃弾では倒せません。剣や槍ではすぐ殺せるし、弓矢は毒を使用できますが、銃弾にはそれはできないですし。
 魔物一匹倒すのに、銃弾を何発も使うのは金銭的にも割に合わないんですよ。銃弾は消耗品なのに、結構高いので金銭的に合わないんですよ。僕のいた国には魔物はいなかったので、人だけの争いなら銃や大砲は有効でしたが」

 僕の言ってる事の意味が、正確に伝わっていないかぁ。皆さん首を傾げています。銃の弾を作る労力やコストを考えると、魔物を倒すために大量に消費するには割が合わないということを言いたいんだけど。

 「えっと、銃の弾って小さいから、大きな魔物には致命傷にはあまりならないんですよ。剣や槍なら直ぐに倒せるような魔獣でもね。魔獣一頭倒すのに、剣が何本も買えるお金をつぎ込むことは割に合わないでしょう。
 今思いついたんですが、銃を使った戦いになったら、銃の弾があまり通用のしない魔獣などを使役できる、テイマーのような人がいれば、銃だけの部隊に対する対抗手段の一つになると思うんですよ。それに、実態のないゴースト系や、アンデット系のモンスターならいくら銃を撃っても意味がありませんし。」

 僕の言葉に、イリスが明らかに引いていますね……

 「クロエ……、確かにそれは合ってるかも知れないけど、誰がそんな気持ち悪いもの使うのよ? 貴女自分が責任とってやってみる?」

 ……あ~、確かに無理だわ。そもそも使い魔とかあっても、使いたくないなぁ。銃弾の飛び交う戦場に、アンデット系やゴースト系の魔物やヒト型魔獣が闊歩かっぽする……
 戦場がバイ○ハ○ードになってしまいますね。うんうん、無理だわぁ~
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