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終章

四、

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「やっと伝わったか」
「……はい。あ、あの。本当にそういう意味だと思っていいんですね」
「ああ」
「嬉しいです。すごく、すごく、嬉しいです」
「そうか。ならば、改めて返事を聞かせてくれ。ああ、その前に。その頬に手を当てるぶりっ子ポーズは、なんだか見ていて腹立たしいからやめろ。自分の歳を考えてからやれ」
 相変わらず、言葉に容赦はない。
 けれど、顔をあげた麻野が見たのは、そわそわを視線を泳がせる新居崎だった。腕を組み、足も組んだ姿は、かなり横柄で。告白している人の態度とは思えないけれど、そこがまた、新居崎らしい。
「……えっと。すみません、返事ってなんのですか?」
「今、話したはずだが。先日の件だ」
「先日?」
 あ、と麻野は逃げ出したい衝動にかられた。新居崎の機嫌が急降下していくのが、見てとれる。
 愛を告げてもらって、嬉しいと答えて。これ以上、なんの返事がいるのだろうか。
 どうやら彼は、告白したら意味が通じると思っていたらしい。いくら好きでも、所詮は他人。言葉にしないとわからないことばかりだというのに。
――ぐっ、このままじゃ、本当に不機嫌になってしまう!
 へそを曲げた新居崎は、面倒くさい。……本当に、仕方のない人だ。
「ヒントください」
「む?」
「私、先生ほど頭がよくないんです。忘れっぽいんです。さぁ、ヒントください。ヒント!」
「確かに。きみは、頭は悪くないが、ネジが数本足りない作りになっている」
 酷く失礼な言葉を吐いた新居崎は、暫くのち、頷いた。
「忘れたのならば、仕方がない。先日の、プロポーズした件だ。返事がほしい」
「もしかして、しーちゃんが乗り込んできたときのアレですか?」
「そうだ。やつか私か選べと言ったまま、返事を聞いていない。あのとき、すぐにでも返事を聞きたいところだったが、順番を間違えてしまったと思った。まずは告白、交際、婚約、結婚だ。あの状況で言うべきではなかったと思うが、もう言ってしまったことだし、返事を聞きたい。もう、あの男と私、どちらかを選べとは言わない。卒業してからで構わない、私と結婚しないか」
 丁寧な説明を聞きながら、麻野の身体は静かに震えた。
 新居崎は、こんな冗談は言わない。彼は本気で、言ってくれているのだ。麻野のような論外なちんちくりん相手に、結婚しようと。
 いつから、論外ではなくなったのだろう。知りたかったが、その質問は今でなくてもいいと思った。麻野自身、新居崎を意識し始めたのは京都旅行の途中だった。一緒に過ごして楽しくて、自然体でいられて、頼りになるのになんとなく放っておけない。
「返事は、肯定しか認めない」
 新居崎は、ふっと口を歪ませて長い足を組み替えた。
「もし拒否をしてみろ。私は酷く厄介なストーカーになって、きみの周辺に絶えず出没するようになる」
――脅してきた!
 まさかの言葉に、思わず笑ってしまう。ずっと見ていてくれるなんて、ただ嬉しいだけなのに。
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