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第一章

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 いつもの歩道を通れば、時間はかかるものの確実に理工学部の校舎へたどり着くのだ。
――いやいやっ、でも、結局気になるんだから、今確認しとこう
 夜になって、行けばよかったなぁと後悔するより、一度当たって砕けておけばいい。やることはやる、後悔はしない。それが麻野だ。
 それに、やはり時短という魅力には逆らえない。
 ぱしん、と頬を軽くたたいて気合を入れる。かなり古風なやり方だが、こうやると気合が入るのだから、人間は昔からこういうやり方で自分を奮い立たせてきたんだろう。
 麻野は、ツツジのもっさりとした濃い緑の木々、その隙間の身体を滑らせた。痛い。滑らせたつもりだったが、枝で引っかかる。それでも強引に進もうとしたら、びりっと何かが敗れた音がした。
 これが、時短の代償だというのか。くそう。
 ここまでされては引き返せない、とよくわからない理屈で、麻野は強引に茂みに入る。なんとか第一関門、ツツジを抜けた。このまま真っ直ぐ突っ切れば、理工学部校舎のすぐ前に出るはずだ。
 麻野は、田舎にある祖母の家で育てられた。
 両親が共働きで、就寝は両親としていたが、早朝に祖母に家に預けられて、夜に自宅へ帰るといった生活をしていた。
 麻野は、祖母の家で過ごした日々を思い出していた。
 田舎にある祖母の家は、裏は巨大な森になっており、そのすぐ隣は竹林だ。森は背丈ほどの草が伸び放題で、竹藪では土からにゅっと生えた竹の根でよく躓いた。転んだ先に筍が生えており、身体をひねってよけたのは一度や二度ではない。
 そんな、幼いころを思い出したのは、目の前に広がる雑木林があまりにも当て果てていたからだ。さすがに、身長百五十五という、平均的な身長の麻野ほど、草が伸びているわけではない。それでも腰まではあるし、季節的に、蛇もいるだろう。
「――よっし!」
 ぱし、とまた頬を打って気合を入れる。
 蛇が出る、長すぎる草が生い茂っている。それはつまり、うまいこと早くこの森を抜ける必要があるということだ。
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