上 下
16 / 76
第二章 少女失踪事件

4-1

しおりを挟む
「それで、発明家がどうした」
 高等部の屋上は、荒廃と呼ぶにふさわしい場所だった。野ざらしの地面は苔がわさわさと生えまくり、ぽつんとなぜか存在するプレハブの倉庫に、小さなベンチが備え付けてある。
 プレハブ小屋の微々たる屋根の下に、押し込むように置かれたベンチに、防水性の敷物をしいて、座っている状態だ。
 からっと晴れているので、見た目ほどじめじめした感じはしない。匂いも、青臭い緑の香りなら、左程匂うわけでもないし、問題はなかった。
 それよりも。
 姫島屋先生と、肩を並べてベンチに座っているこの状態のほうが、心臓に悪い。
 乙女か、私は。
 自分でつっこみながらも、だって初恋の人だからさ、と言い訳をする。
「あ、えっと。あれは、誤送信です」
「……そうか。なぞかけかと思った」
 真剣な顔でそんなことを言う姫島屋先生に、思わず笑みがこぼれる。
真面目な人だなぁ、どこまでも。
「初メールです、って打ちたかったんですけど。てんぱっちゃって」
「ミスは誰にでもある。……早く食べてしまおう、時間もある」
 私のお昼は、毎日手作り弁当だ。
 といっても、そんな大層なものはない。卵焼きとか、焼いたハムとか、彩り重視のトマトとか。セオリーど真ん中の、お弁当になっている。
 一方の姫島屋先生は、百円で数本入っているスティックパン。あと、自前だろう黒い水筒。
「それだけですか?」
「ああ」
「え、ええー。栄養面、大丈夫なんですか?」
「一応考えてはいるんだが、木金あたりは、どうも面倒でな。パンで済ますことにしているんだ」
「あ、わかります。週の後半って、支度が億劫ですよね」
 お弁当もだけど、夕食もだ。
 ここで、私が作ってきます! とでも言えたら女子力高いってなるんだろうけど、生憎私は料理が得意ではない。朝も苦手だし、到底人様のお弁当を作れるほどの余裕はなかった。
「私、屋上って初めて来ました。こんなふうになってるんですね」
「高等部側は立ち入り禁止だ」
「え、入っちゃってますけど」
「ああ」
 ぱく、とパンにかじりつく姫島屋先生は、背後のプレハブを拳でコンコンと叩いた。
「ここに倉庫があるからな。生徒の立ち入りを禁止しているんだ。一応、貴重品がなくもない……大したものではないが」
「だから、ひと気がないんですね」
「中等部は立ち入り禁止ではないはずだぞ。屋上の柵も、中高一貫になる際に付け替えたしな」
 え、と中等部の校舎を振り返る。
 けれど、高等部より一階分低い中等部校舎は、ほとんど見えなかった。座っている位置から反対側にあるから、といえなくもないが、単純に建物の背が低めなのだ。
 ここら一体でいうと、高等部の校舎がずば抜けて背が高い。
 だから、高等部屋上にいれば、誰からも見下ろされることがないのだ。
 私は、自作のお弁当をつつきながら、何か話題がないかと探した。何も話さなくても、姫島屋先生と一緒にいるだけで嬉しいんだけど。
 せっかくだし、何か話したい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

かの子でなくば Nobody's report

梅室しば
キャラ文芸
【温泉郷の優しき神は、冬至の夜、囲碁の対局を通して一年の祝福を与える。】 現役大学生作家を輩出した潟杜大学温泉同好会。同大学に通う旧家の令嬢・平梓葉がそれを知って「ある旅館の滞在記を書いてほしい」と依頼する。梓葉の招待で県北部の温泉郷・樺鉢温泉村を訪れた佐倉川利玖は、村の歴史を知る中で、自分達を招いた旅館側の真の意図に気づく。旅館の屋上に聳えるこの世ならざる大木の根元で行われる儀式に招かれられた利玖は「オカバ様」と呼ばれる老神と出会うが、樺鉢の地にもたらされる恵みを奪取しようと狙う者もまた儀式の場に侵入していた──。 ※本作はホームページ及び「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

貸本屋七本三八の譚めぐり ~実井寧々子の墓標~

茶柱まちこ
キャラ文芸
時は大昌十年、東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)屈指の商人の町・『棚葉町』。 人の想い、思想、経験、空想を核とした書物・『譚本』だけを扱い続ける異端の貸本屋・七本屋を中心に巻き起こる譚たちの記録――第二弾。 七本屋で働く19歳の青年・菜摘芽唯助(なつめいすけ)は作家でもある店主・七本三八(ななもとみや)の弟子として、日々成長していた。 国をも巻き込んだ大騒動も落ち着き、平穏に過ごしていたある日、 七本屋の看板娘である音音(おとね)の前に菅谷という謎の男が現れたことから、六年もの間封じられていた彼女の譚は動き出す――!

処理中です...