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第二章 少女失踪事件

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 昼休みに入り、職員室に戻った私へ、ミコ先生が慌てたように駆け寄ってきた。
「神崎せんせー!」
「わっ、な、なの?」
「さっきの続き、教えてください。高等部に引き継ぐ書類です」
「続き、ってもう全部教えたよ? わからないところがあるなら、何度でも説明するけど」
「無理ですぅ、実地で教えてください」
 ナニ、書類の実地って。
 ミコ先生は、私に高等部へ行くように急かした。なるほど、一緒に書類を届けに行って、どういうやりとりをするのか、その目で学びたいのか。
 やや過保護な教え方感が否めないけれど、彼女は赴任してまだ一か月。しかも、新任だ。
 覚えないとならないことも多く、人間関係も不安なのかもしれない。
 まぁ、彼女の教育担当は、私じゃないんだけど。
 私は教室で集めてきたプリントを机に片し、携帯電話だけを片手にミコ先生と高等部の校舎へ向かった。
 ミコ先生は、不安そうに書類を見て、小さく「こちらを届けにきました」などと反芻している。コミュニケーションが苦手には思えないんだけど、もしかしたらそれも、彼女の日々の努力成果なのかもしれない。
 ちょっとミコ先生に対する見方が変わったかも。
「あれ、その肩にかけてる鞄は、なに? それも書類?」
「これはお弁当です。このまま校庭でお昼を食べようと思って。大事な休憩時間ですもん、無駄なことに使いたくないんです」
 私、携帯電話しか持ってきてないんですけど。
 彼女のマイペースさに感心すら覚えたとき、とんでもないことを思い出した。さっきの休み時間、姫島屋先生に誤送信をしたままだった。
 すぐに訂正しないと!
「高等部の職員室って、意外と違いですよねー」
 もう着いた。
 ポケットから取り出そうとした携帯電話を、もう一度押し込んだ。
 高等部職員室へ入ると、ミコ先生が辺りを見回す。誰に書類を渡すか、吟味してるのかもしれない――と、思ってると。
「緑川せんせー!」
「あ、ミコ先生。待ってましたよ、書類ですね!」
「はい。持ってきました。これで間違いないですか?」
「確認します。……はい、ばっちりです。さすがミコ先生。あ、その鞄可愛いですね」
「ありがとうございます。お弁当入れなんですぅ」
「もしかして、これからお昼ですか?」
「はい。あ、よかったら緑川先生もご一緒にいかがですか?」
「えっ、いいんですか?」
 なんだこれ。
 私は、盛大なため息をつく。勿論、胸中でだけど。
 結局はあれか、いちゃつくところを私に見せたかったのか。書類の件も、緑川先生に通っていたみたいだし。
 二人は同じ世界で盛り上がってるみたいだし、私は戻ろう。
 そう思って踵を返そうとしたとき、私を見ている姫島屋先生に気づいた。わざわざ振り返るように私を見て、携帯電話を握り締めて、「これ」と示している。
 私は咄嗟に自分の携帯電話の、メッセージを確認した。
――『トーマス・エジソン?』
 と、一言返事がきている。
 発明家、の誤送信に、わざわざフルネームで発明家の名前を送り返すなんて、さすが姫島屋先生。てっきり、「は?」とか、「突然なんだ」とか、そういった返事がくるものと思っていた。
 私はすぐに、本来伝えようとした内容を打ち込んだ。
――『ご一緒に、お昼どうですか』
 と。
 すぐそこにいる姫島屋先生に、メールを使うなんておかしな話だけど。
 すぐに既読がついて、返事がくる。
 ああ、という簡素なものだったけれど、現金な私の気分は、あっという間に舞い上がったのだった。
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