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第三章 3、渡月は大体斜め上をいく
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先生は、ゆったりとした坂道を登りながら、上着の襟元を整えた。
「今のうちだけ、忘れてやる。きみに、青春やら学生のなんたるかを教えてやるのは、ホテルへ行ってからだ。その爛れた性生活や認識を、叩き直してやるからな!」
「あの、これから先生のご実家へ行くんですよね?」
「きみはそうやってすぐに話を逸らす」
「……別にそらしてませんけど」
ふんっ、と鼻をならした先生は、あごで道の先をしゃくった。
「この先に、父方の実家がある。今は祖父母と叔父夫婦、その子どもが暮らしているはずだ。向こうから一方的に呼びつけられたから、帰省の理由は知らない。だが、長期滞在を指定してきたからには、その期間、私に実家に泊まるように言うだろう。そこで、きみだ」
目を瞬く。
なぜ、そこで私?
「私は、きみをエスコートしなければならない。だから、実家には泊まれない。これでいこうと思う」
「なぜエスコートしなければならないのかはともかく、先生がご実家に泊まりたくないがために私を連れてきたことはわかりました」
「あくまで理由の一つだ。アトリエ近辺に不審者が出ることも間違いではない。……それに、この辺りは私が育った場所でもある」
後半の声は、とても小さい。ちら、と伺うように私を見てくる先生を見つめて返して、私は溢れてくる笑顔を隠さず、微笑みかけた。
「やっぱり、先生が育った場所でもあるんですね。また一つ、先生のことが知れました」
前を向いた先生の口角が、ぐっと上がった。ついで、キヘヘヘ、と笑い声がした。
先生のツボは、相変わらずわからない。それでも、本人はこうして満足げに喜んでいるのだから、理由はわからずとも、嬉しいと思う。
「あとで、私のおすすめスポットを案内してやろう」
「ぜひ」
うんうん、と満足げな先生が戻ってきて、安堵した。
先生のツボがわかれば意外と単純な喜怒哀楽なのかもしれないが、他者の思考などわかるはずもない。それでも、こうかもしれない、ああかもしれない、と先生の胸の内を察しながら話して、先生が笑ってくれると、嬉しいのだ。
「今のうちだけ、忘れてやる。きみに、青春やら学生のなんたるかを教えてやるのは、ホテルへ行ってからだ。その爛れた性生活や認識を、叩き直してやるからな!」
「あの、これから先生のご実家へ行くんですよね?」
「きみはそうやってすぐに話を逸らす」
「……別にそらしてませんけど」
ふんっ、と鼻をならした先生は、あごで道の先をしゃくった。
「この先に、父方の実家がある。今は祖父母と叔父夫婦、その子どもが暮らしているはずだ。向こうから一方的に呼びつけられたから、帰省の理由は知らない。だが、長期滞在を指定してきたからには、その期間、私に実家に泊まるように言うだろう。そこで、きみだ」
目を瞬く。
なぜ、そこで私?
「私は、きみをエスコートしなければならない。だから、実家には泊まれない。これでいこうと思う」
「なぜエスコートしなければならないのかはともかく、先生がご実家に泊まりたくないがために私を連れてきたことはわかりました」
「あくまで理由の一つだ。アトリエ近辺に不審者が出ることも間違いではない。……それに、この辺りは私が育った場所でもある」
後半の声は、とても小さい。ちら、と伺うように私を見てくる先生を見つめて返して、私は溢れてくる笑顔を隠さず、微笑みかけた。
「やっぱり、先生が育った場所でもあるんですね。また一つ、先生のことが知れました」
前を向いた先生の口角が、ぐっと上がった。ついで、キヘヘヘ、と笑い声がした。
先生のツボは、相変わらずわからない。それでも、本人はこうして満足げに喜んでいるのだから、理由はわからずとも、嬉しいと思う。
「あとで、私のおすすめスポットを案内してやろう」
「ぜひ」
うんうん、と満足げな先生が戻ってきて、安堵した。
先生のツボがわかれば意外と単純な喜怒哀楽なのかもしれないが、他者の思考などわかるはずもない。それでも、こうかもしれない、ああかもしれない、と先生の胸の内を察しながら話して、先生が笑ってくれると、嬉しいのだ。
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