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第二章 3、渡月の、秘密 

2、

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 店員に案内された私は、掘り炬燵式の席で暖かいおしぼりを受け取り、そわそわしていた。店員さんが、ご注文はタッチパネルでお願いいたします、と言って会釈をし、次の接客へ向かった。
 辺りは薄暗く、個室ではないが、机同士は背の高い仕切りで仕切られている。
「ここが、ファミレスですか?」
「どこをどう見ればそうなるんだ」
「だって、ほら」
 私は、奥の席で談笑している家族へ目を向けた。二歳ほどの男の子に、小学校低学年ほどの女の子。母親と父親らしき男女の、四人が座っていた。ちょうどこの席から見えるテーブルだが、向こうは家族での過ごしに夢中でこちらを気にもしていない。微笑ましい家族の姿だ。
「家族でご飯を食べることができる場所を、ファミレスっていうんですよね。私、初めてです。三条通りにもいくつかあるんですが、一人で入る勇気はなくて」
 先生は、奥の家族を見たあと、メニューへ目を通して、軽く首を振った。
「最近の居酒屋は、家族連れメニューもあるんだな。世間は変わった」
「居酒屋とファミレスって同じだったんですか?」
「もう話すな、他に聞かれると私まで馬鹿だと思われる。きみはどれだけ世間知らずなんだ」
 え、と首をかしげる。スマホで、ファミレスと居酒屋の違いを調べようと思ったが、先生が軽く手で制した。
「先に注文だ。どれにする? 飲酒は禁止だ」
「わぁ、沢山ありますね」
 メニューは薄い冊子になっており、イラストや写真、文字のみのメニューと様々だ。想像が出来ないのに、文字だけでおいしそうだと思えるから不思議である。
「じゃあ、たらこパスタを」
「ふむ。あとは適当に頼むか。飲み物は、オレンジでよかったか」
 はい、と頷いた。
 何度か一緒に外食しているうちに、飲み物の好物まで覚えてもらった。先生は、ぽちぽちといろいろなボタンを押している。こちらからは何を操作しているのかわからないが、先生はよく来るのだろうか。
「なんか、格好いいですね」
「どこがだ。安っぽい居酒屋を、精いっぱい高く見せている滑稽な店に思える。大抵のものは、薄暗がりではよく見えるものだ」
「店はよくわかりません。先生が、格好いいんです」
 先生は、タッチパネルの機械を置きながら、はぁ? と言いたげな顔を私に向けた。私は大きく頷いて、「タッチパネル、自由に操っていたじゃないですか」と告げた。
「どうせ、さみしい独り身だ」
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