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第二章 1、渡月は、認めたくない
2、
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「うん、一緒にやりたい」
「よかったぁー。鏑木さん、料理上手だし助かる。友達同士だと気を使わないし、ペアになると楽だよね。ね、美月」
加納さんは、素直な人だ。私みたいに変に考えすぎないし、言葉に裏も感じられない。すとん、と気持ちを言葉にできる。それゆえにきついことも言うけれど、なんというか、一緒にいて居心地がよかった。
その日の帰りは、加納さんから言われた「友達」という言葉を考えた。私も含まれていると、思っていいのだろうか。
三条通りを上りながら、いつものように餅飯殿商店街を目指す。かれこれ、先生のところでバイトを始めて、数か月。夏休みなどほぼ入りびたり状態で、先生の作品作りの補助として、こまごまとした作業も手伝ってきた。
夏休みの間は、イベントが多い。先生は単身あちこちのイベントに顔を出し、私は先生とメールや電話でやりとりをしながら、追加を発送したり、購入者や購入希望者からのメール問い合わせに返事を返したりしていた。時間が余ると、「練習に使っていい」と言われている材料で、作品作りをする。以前に先生が言っていたように、ドラゴンブレスや人工オパールも練習用材料にあったけれど、使う勇気がなかった。
まだ、私には早い。もっと上達してから、よい素材を使った一点ものを作ろうと決めた。
そんな夏休みも終えて、新学期が始まった。
変わらず先生のところへバイトに来ているが、今日は先生に報告しなければならないことがある。もうすぐ、一段階実習が始まるのだ。一段階実習の期間は、二週間。その間、生徒はそれぞれ割り当てられた老人福祉施設で、実地研修を行うことになる。
いつものように、先生のアトリエへ到着した私は、たった一日で散らかった休憩室を見て、今日やるべきことを頭のなかに並べる。すべてを片すのに、そんなに時間はかからないだろう。洗濯物は明日まとめて洗うとして、この部屋のゴミたちを捨てることが優先だ。
私は、先生がいつも使っている作業場を見渡した。
姿がない。
鍵が開いていたので、どこかにはいるはずだ。
通学用鞄にしているリュックを置いて、作業場や休憩室はもちろん、台所やトイレまで探したが、先生の姿はない。
もしかして二階だろうか。
このアトリエには、二階がある。
「よかったぁー。鏑木さん、料理上手だし助かる。友達同士だと気を使わないし、ペアになると楽だよね。ね、美月」
加納さんは、素直な人だ。私みたいに変に考えすぎないし、言葉に裏も感じられない。すとん、と気持ちを言葉にできる。それゆえにきついことも言うけれど、なんというか、一緒にいて居心地がよかった。
その日の帰りは、加納さんから言われた「友達」という言葉を考えた。私も含まれていると、思っていいのだろうか。
三条通りを上りながら、いつものように餅飯殿商店街を目指す。かれこれ、先生のところでバイトを始めて、数か月。夏休みなどほぼ入りびたり状態で、先生の作品作りの補助として、こまごまとした作業も手伝ってきた。
夏休みの間は、イベントが多い。先生は単身あちこちのイベントに顔を出し、私は先生とメールや電話でやりとりをしながら、追加を発送したり、購入者や購入希望者からのメール問い合わせに返事を返したりしていた。時間が余ると、「練習に使っていい」と言われている材料で、作品作りをする。以前に先生が言っていたように、ドラゴンブレスや人工オパールも練習用材料にあったけれど、使う勇気がなかった。
まだ、私には早い。もっと上達してから、よい素材を使った一点ものを作ろうと決めた。
そんな夏休みも終えて、新学期が始まった。
変わらず先生のところへバイトに来ているが、今日は先生に報告しなければならないことがある。もうすぐ、一段階実習が始まるのだ。一段階実習の期間は、二週間。その間、生徒はそれぞれ割り当てられた老人福祉施設で、実地研修を行うことになる。
いつものように、先生のアトリエへ到着した私は、たった一日で散らかった休憩室を見て、今日やるべきことを頭のなかに並べる。すべてを片すのに、そんなに時間はかからないだろう。洗濯物は明日まとめて洗うとして、この部屋のゴミたちを捨てることが優先だ。
私は、先生がいつも使っている作業場を見渡した。
姿がない。
鍵が開いていたので、どこかにはいるはずだ。
通学用鞄にしているリュックを置いて、作業場や休憩室はもちろん、台所やトイレまで探したが、先生の姿はない。
もしかして二階だろうか。
このアトリエには、二階がある。
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