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第一章 5、須藤先生は、やっぱり少し、変わっている
5、
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橙色の鳥居をくぐるとき、先生は、ほう、と感嘆のため息をもらした。視線がぼうっとしており、鳥居全体を捉えているのがわかる。さらに、奥へ続く参道をも瞳に映し、また、ほう、と息をつく。
「この美しさを作品に落とせればいいんだが」
「ここに来たときにだけ得られる感動を、作品に落とし込むなんてできるんですか?」
ふと、我にでも返ったように、先生は私を振り返った。夢から覚めたように、目を瞬いている。怒っている……わけではなさそうで、ほっと胸中で安堵した。また何か、怒らせるようなことを言ってしまったのかと思ったのだ。
「確かにその通りだ。ふむ、私は傲慢な発言をしたらしい。きみのような小娘に諭されるとは」
「そんなつもりはありません。……というか、その発言自体が、傲慢な気がするんですけど」
「特別に、氷みくじをおごってやろう。お守りは、人から貰うと効力があがるという話を聞いたことがある」
おみくじの話なのに、お守りを例にあげる意味の分からなさには、あえてつっこまない。私は、そうですね、とまた、今日何度目かわからない、
先生は砂利道を、文字通り石を踏みしめて歩いた。石段をのぼって、本殿へとたどり着く。春日大社のように、ただっぴろい神社ではなく、奥行きはあまりないようだ。正面に本殿があり、お決まりのお賽銭箱の前には、観光客らしき数人の男性が手を合わせていた。
ふと。
本殿の少し手前、通路の右側。両の手のひらほど大きさをした、長方形の氷が置いてあることに気が付いた。ゴミ箱のような鉄の置物に緑の敷物をしき、その上に氷が乗っているのだ。神社の賽銭箱のすぐ近くに、大きな氷が置かれているさまは、ある意味異質でもある。けれど、その異質さが面白くもあった。
「そこへ、おみくじをくっつけるんだ。すると、文字が浮かんでくる」
「無造作に置かれた感じ、結構好きかも」
氷は、道の端に、特別な飾り物もなくただ置かれている。何かが奉られている感じも、雅さや風流な風情も、何もない。神聖な神社のなかに、どんと置かれた氷は、どうみてもただの氷だった。
「こういうのが好きなのか?」
「好き、というか、面白いです。一見異質なのに、場に溶け込んでいて、無駄に神格化されていない置き方が好ましいです。見て不愉快じゃない辺りも、好きかも」
「確かに、ないはずのものがあると、違和感や猜疑心、不安を抱くものだからな。そういう点では、確かに面白い」
先生は、お賽銭箱に小銭を投げ込むと、二拍手一礼もせずに、背中を向けた。参拝に興味はないようで、まっすぐにおみくじが売っている方向へ歩いていく。
あとをついていくと、先生におみくじをふるように言われた。先生がお金を払い、二人分の出た番号の紙をもらう。貰った紙は、つるつるとしており、そして、白紙の問題集のように、肝心な部分だけが抜けている。
先生は、そのおみくじを氷にぺたりをはりつけた。
「この美しさを作品に落とせればいいんだが」
「ここに来たときにだけ得られる感動を、作品に落とし込むなんてできるんですか?」
ふと、我にでも返ったように、先生は私を振り返った。夢から覚めたように、目を瞬いている。怒っている……わけではなさそうで、ほっと胸中で安堵した。また何か、怒らせるようなことを言ってしまったのかと思ったのだ。
「確かにその通りだ。ふむ、私は傲慢な発言をしたらしい。きみのような小娘に諭されるとは」
「そんなつもりはありません。……というか、その発言自体が、傲慢な気がするんですけど」
「特別に、氷みくじをおごってやろう。お守りは、人から貰うと効力があがるという話を聞いたことがある」
おみくじの話なのに、お守りを例にあげる意味の分からなさには、あえてつっこまない。私は、そうですね、とまた、今日何度目かわからない、
先生は砂利道を、文字通り石を踏みしめて歩いた。石段をのぼって、本殿へとたどり着く。春日大社のように、ただっぴろい神社ではなく、奥行きはあまりないようだ。正面に本殿があり、お決まりのお賽銭箱の前には、観光客らしき数人の男性が手を合わせていた。
ふと。
本殿の少し手前、通路の右側。両の手のひらほど大きさをした、長方形の氷が置いてあることに気が付いた。ゴミ箱のような鉄の置物に緑の敷物をしき、その上に氷が乗っているのだ。神社の賽銭箱のすぐ近くに、大きな氷が置かれているさまは、ある意味異質でもある。けれど、その異質さが面白くもあった。
「そこへ、おみくじをくっつけるんだ。すると、文字が浮かんでくる」
「無造作に置かれた感じ、結構好きかも」
氷は、道の端に、特別な飾り物もなくただ置かれている。何かが奉られている感じも、雅さや風流な風情も、何もない。神聖な神社のなかに、どんと置かれた氷は、どうみてもただの氷だった。
「こういうのが好きなのか?」
「好き、というか、面白いです。一見異質なのに、場に溶け込んでいて、無駄に神格化されていない置き方が好ましいです。見て不愉快じゃない辺りも、好きかも」
「確かに、ないはずのものがあると、違和感や猜疑心、不安を抱くものだからな。そういう点では、確かに面白い」
先生は、お賽銭箱に小銭を投げ込むと、二拍手一礼もせずに、背中を向けた。参拝に興味はないようで、まっすぐにおみくじが売っている方向へ歩いていく。
あとをついていくと、先生におみくじをふるように言われた。先生がお金を払い、二人分の出た番号の紙をもらう。貰った紙は、つるつるとしており、そして、白紙の問題集のように、肝心な部分だけが抜けている。
先生は、そのおみくじを氷にぺたりをはりつけた。
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